:D,Gray-man
:ラビ


終戦。それはここ黒の教団に属する、全ての人間が求めていたシナリオの結末だった。そしてそれは遂に叶ったのだ。

ざわざわと食堂では皆が思い思いに話し、泣き、笑う。失った仲間に涙する者。終わりを告げた戦いに歓喜の声を上げる者。達成感に胸を焦がす者。
ここでの食事がもう数えるほどしかない事を、それぞれが自覚し合う頃。

「私は兄さんの仕事が終わり次第、中国へ帰るよ。ラビは?やっぱり、」
「オゥ。俺はブックマンとしての日々に逆戻りさ」

食堂に遅れて立ち入った私はそんな言葉を耳にする。言わずもがな会話の主はラビとリナリーだ。
ピタリ、と止まった私の歩みは不自然極まりなかったらしい。

「お。依泉ー」

片手を挙げて私に気付いたらしいラビが手招きをした。リナリーも人当たりの良い笑顔でこちらを見ている。しかしそうも人間良く出来ちゃいない。

「、オイ!?」

嫌でも頭にリピートされるさっきの2人の会話が、私の足を元来た道へと急いで戻らせた。
走る。走る。
廊下を、暗い、廊下を。

あぁラビは分かってないのかなんて、自分が恋人と云う位置にある事を利用してイライラの理由をラビのせいにする。
そんな事をしていればガンッと頭に衝撃が走った。思考に溺れて前を見てなかったのが災いしたらしく、前方不注意で曲がり角の壁に激突した模様。しかも、「やっと見つけた」なんて追い掛けて来ていたらしいラビに捕まる始末。
どうして逃げたかなんて、どうだって良いでしょ。

「……ラビなんて知らないもん」
「スネてんか?」
「スネてませんー」

ぶつけた頭を擦りながらキツくラビを睨み付ければ、半分好奇心半分心配と思う表情から一気に後者が消え去った。

「ふっ……はは!」
「な……!?」

笑われた!意味不明だとそれはそれでショックを受けていたりすると、しばらくの後ようやくラビは笑い声を止めた。それは結構だけど、「あ―……笑った」って台詞は余計だと思う。
シリアスパートに戻らせて頂くが、ラビは分かってないと見た。だってさ、ブックマンに戻るって事は…

「心配しなくてもダイジョブだって」
「……え?」
「俺がみすみす依泉を置いてくと思うさ?」

そう言って笑うラビは私が思っているよりずっと理解している様子。まぁ、そうでないと困るんだけど。

そう、教団で出会った私達には此処以外の接点が何もない。
ラビがブックマンに戻るというのは即ち、お別れを意味するものだと思っていた。けれど私は私が思うより、ずっとずっと愛されていたらしい。自分で言っておいてこっ恥ずかしい事この上ないが。

「一緒に行こうぜ!じじいにはもう言ってあるんさ。依泉が嫌っつっても連れてく」

私は笑って差し出された手を取ろうとした。しかしそこで伸ばした手は、空を切る事になる。

「ってのは冗談で」
「え?」

からかわれたんだろうか。今のがドッキリだとでも言うのか?
取れなかった手に混乱する私を、今度は真剣に目を向けたのはやっぱりラビだ。

「俺が依泉を連れて行きたいのはホント。でも無理矢理連れてくつもりは毛頭ないさ」
「なん……で?」

呆然と見上げた私に苦笑したラビの言い訳はいつも同じ。正直、あまり好きじゃない。「俺はブックマンだから」という台詞。
私の身を心配してくれるのは嬉しいのだけど、飽くまで私はエクソシストの端くれ。共に最前線で戦ってきた仲間でしょ?

「良いか?イノセンスはもう消えたんだ。依泉はもうエクソシストじゃない」

そう、そうなのだ。終戦と共に役目を終えたとでも言うように、イノセンスは跡形もなく消え去った。対AKUMA武器だったラビの槌だって、今では只の小槌でしかない。私達は身体能力はともかく、もう宿命も何もない、一般人とさして変わらないんだ。“エクソシスト”はもう、この世にひとりとしていない。
その事実が今更ながら少し寂しさを思わせた。皆と出逢えた一つの共通点は、もう無くなってしまった。

「それでも……」
「それでも、置いてかれるのは御免だよ」

ラビが少し目を見開く。安心したように笑う。目を細めて、笑う。
差し出された手を、今度こそ私はしっかり握り返す事ができた。


50番目を君に伝える。

2009.06.30.tue

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