:D,Gray-man
:ラビ


「依泉、ちゅーして」

また唐突にラビの思考が回り始めたらしい。彼が読んでいた筈の本はいつの間にやら、背もたれとなっていたベッドの端に追いやられてしまっている。
いくら恋人同士と呼ばれる間柄であっても、私はラビの隣にいるだけでどきどきどきどきと心臓の音が早鐘を打つのを抑える羽目になるというのに。そんなの、できる訳がない。何でまたいきなり。

「してくれないなら別れる」
「じゃあ別れよっか」

一瞬彼の憂いを帯びた瞳と目があった。どきり、また心臓が悲鳴をあげる。素直じゃない私はいつもラビの率直な性格に甘えていた。
愛を囁かれても軽く受け流し、抱きしめられても返さない。それはただの私の照れ隠しなだけであって、ラビだってその事を分かっているから何も言わずにいてくれた。正に以心伝心して、私の気持ちは大好きな彼に伝わっているものだと思っていた。そう、思っていたんだ。

「――ラビ?」

すっと静かに隣から立ち上がったラビはいつもと様子が違う。だっていつもならもうとっくに、冗談だから、別れるなんて言うなって。突き放してみてもくっ付いて来る筈なのに。ねぇ、言わないの?

「俺、お前の気持ち分かんねぇさ」

そう言ってラビは私に背を向けて、歩き出す。
どうやらいささかスキンシップが不足し過ぎていたらしい。最後に見えたラビの顔はいつもの馬鹿みたいな表情からは想像もできない位の剣幕だった。気付いた今では時既に遅し、ってやつか。

「まってよ」

ゆるゆると足が動き出す。部屋を出たけど鍵をする余裕なんてない。私を置いて出てった部屋の主が悪いのだから。段々といつもと違う意味で心臓が破裂しそうで、歩く速度が走る速度まで上がっていった。


「ラビ!」

目一杯の声で呼び、彼が振り返ったその一瞬、私の唇をラビのそれに押し付けた。これで良いんでしょう?

「嘘だって、あんなの。……別れないからね!」

まさか自分がそれを言う事になるなんて。両想いと分かった時だって私は彼の言葉に肯定の意を示しただけで、愛の告白は愚かスキンシップなんてもっての外だった。かあっと赤くなった顔の熱さは、その内湯気でも出そうなくらいだ。

「はー良かった」
「……え?」

へなへなとその場にしゃがみ込んだラビの表情は見えない。けれど気の抜けたようにさっきの冷たい雰囲気は消えていて、それだけで少し私の緩んでしまっていた涙腺は、締め直しを図る事ができた。
追いかけてきてくれなかったらどうしようかと思ったって、溜め息を吐きながら少しだけ顔を上げたラビは何を言っている?

「アレンに言われた」と言ってラビはペラペラと勝手に種明かしを始めた。恋人の気持ちを知る方法。
押してダメなら引いてみろ。追いかけてきたら良し、来なければ御愁傷様。そう云う事らしい。

「……」

つまりは全て仕組まれていて、私は試された訳だ。実行するラビもラビだけど、あの腹黒似非紳士、ラビに要らない知恵をつけてくれちゃって。次会えばどうしてやろうか。

「あの、依泉サン……?」

しゃがみっ放しのラビが様子を窺う様に私を見上げる。怒りのあまり余程怖い顔でもしてしまっていたのか。
なんか、怒る気が失せてしまった。元はといえば私にも原因はある訳だし。

「馬鹿、どうでも良いならとっくに突き放してるに決まってる」
「それもどうなんさ……」

引き吊った顔してラビが笑う。そのつもりがないから言えるんでしょ、こんな事。

「追いかけるに決まってるでしょ」

私はラビの彼女なんだから。
小さく呟いた声は、目の前の彼には勿論拾われてしまっている。へにゃりといつもの笑顔を見せたラビに、やっぱりそんな表情の方が良いなんて口が裂けても言えないけど。ていうかさっきみたいな事も二度と言わない。


結論から言えば、好きです。

‐‐‐‐‐‐
夢小説らしい夢小説(甘のこと)、何時振りに書いただろう。とか。
やっとほのぼのに甘い要素が勝てた気がするので満足。

2009.07.06.mon

1 / 39 | |

|


OOPARTS