:家庭教師ヒットマンREBORN!
:沢田綱吉(+10)


ゼーゼー、ヒューヒュー。呼吸の度にあり得なく風通しの良くなった喉が鳴る。
ゴポゴポと血を吐く音が聞こえて薄く開かれた唇から深紅が覗いた。
勿論それはオレのものなんかではなく、しかしその状況に陥っているのは確実にオレの部下の依泉だった。

「……ぁ、」

間の抜けたような渇いた声が小さく漏れた。

優秀な部下だった。幹部では無いもののそれに近しく才能を発揮し、ファミリー内でもその仕事裁きは一目置かれている存在。性格も容姿も平均より上で、文句無しの自慢の部下だった。
そう、それこそが正体を表すまでの彼女の、完璧過ぎる程完璧な姿だったのだ。

言いようのない恐怖がオレを占拠する。裏切られたと言えど、部下であり仲間だった人間を殺してしまった事実に身震いしてしまう。
殺してしまった。この手で、仲間を。

「ボ、スゥ……どうし、」

ズガン!言い終わらない内に派手な発砲音が聞こえて、こちらに手を伸ばしていた目の前の女の身体が崩れ落ちていく。荷物を落としたかのような呆気ない音と振動。遂に最期の呼吸が途絶えた。
振り返れば獄寺君が銃を構えていた。微かに上る煙はそれが今しがた使われた事を示している。

「10代目、」

広い個室と同じく血に濡れ、呆然としていたオレを右腕が静かに呼んだ。

「俺の事も殺すのか」
「……ッ!」

声のかけられた方へ目を向ければ、獄寺君、山本……他にも己の部下達が列をなして佇んでいた。皆一様に哀しげな表情をしてオレを見つめて、しかしその目は光を映していなかった。いつの間にか彼らの足元には血の海ができ、ゆっくりとオレに迫ってきている。

これは何だ?心臓がいつもの2倍はあるんじゃないかという速度で動き、その異常さに悲鳴を上げる。
これは彼女の呪いなのかも知れない。それが仲間を殺したオレへの戒めとするなら、当然の報いだと言うなら。だけど、

(依泉……ッ)

凄まじい一陣の、砂嵐のような風が吹いた。全ての血液はそれに拐われてまるで紅い花が舞い上がるように、白の絵の具をそれはもう桁違いなほど大量に混ぜたように、消え去った。和らいでいく皆の表情。

“――ボス。”

「…あ」

さいごに彼女が薄く、笑った気がした。

気付くとオレはベッドの上に身を投げ出していて、目を開けた瞬間汗だくの身体が全てをフラッシュバックさせた。依泉が息を引き取った日からはもう2日が経っている。
彼女は裏切り者でも死んでしまっても、やはり綺麗な人だ。一声で救われた気がした。緊張が解けた為の荒い呼吸を差し置いて、フッと自然な溜め息が漏れる。

今のはオレの為に彼女が下界まで手を差し伸べに来てくれたのか、それとも一陣の風の音にオレ自身が錯覚を起こしたに過ぎないのかもしれない。
けれどそんな事はどっちだって良い。いつだってなくしたものの寛大さに気付くのは後になってからだ。
彼女は優秀な部下だった。


呼吸

あれから、オレは例の夢を見ていない。

‐‐‐‐‐‐
何かしら情のある裏切り者の話。(?)

2009.07.14.tue

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