:家庭教師ヒットマンREBORN!
:沢田綱吉(+3)


「今まで本当にありがとうございました」

深く深く礼をした。私の人生で一番ってくらいのお辞儀は目一杯の敬意を表したつもりだ。
幾ら深々と頭を下げたって、幾ら感謝の言葉を述べたって、その恩の比にはならない。

「お世話になりました……ッ」

生まれてから今まで3日以上離れて暮らした覚えすらない。私を生んでくれた育ててくれた、たったひとりの大切な母親と、今日私はお別れをするのだ。ろくに恩返しもできないままで、中学卒業と共に外国へ行こうと言う娘を受け入れてくれてありがとう。
次第に緩んだ涙腺をきつく締め直して、私は玄関扉に手をかけた。

さよなら、お母さん。



「本当に良かったの?」

オレに着いて行くなんて。とお母さんに挨拶を終えてきた綱吉が数分歩いた頃に言った。
私は卒業と共に家を出る事を決めた。恋人の綱吉がマフィアである事を知った上で、彼について行く為にだ。けれど綱吉は気を使ってそんな事を言う。私は何を今更、と少しだけ泣いた瞳で彼を睨んだ。

「じゃあ、綱吉はさ。私が帰るって言ったら帰してくれるの?」
「…………帰さないかも」

質問が予想外とでも言うように目を見開いた後、綱吉は一瞬考える素振りを見せる。
これでもしも肯定的な言葉が出てきたら、本当に帰ってやろうか。そんな事を考えていたら、綱吉は苦笑をして否定を述べた。

「じゃあこんな質問無意味じゃない。私だって帰れって言われても帰る気ないんだから」

愛する人がいるならば、私はどこへでも行きますよ。
心の中で唱えた言葉を見透かされたかのように、ぴったりのタイミングで綱吉が不意討ちのキスをする。
珍しいなんて考えていたら、以前綱吉が好きと言った、スナック菓子の香りが少しだけ鼻をついた。


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2009.07.26.sun

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