:D,Gray-man
:アレン・ウォーカー


「私人を殺しちゃった」

ある日の非番。朝から大量の食事を平らげて、昼食もデザートをつけてもらって、そろそろおやつの時間だなぁと本日3度目に食堂へ足を運ぼうとした時。遅い昼食をとっていたらしい科学班員の二人組が前方から慌ただしく走ってくるのを見て僕は首を傾げた。
声をかければ依泉が任務から帰ってきたと言うが、それでどうして慌てる必要があるのか。
まさか。嫌な考えが過る。方向転換をして彼らより早く向かった科学班には不安を打ち消すかのように依泉の背中があった。

依泉、名前を呼ぶと君は恐ろしい程たっぷりの時間をかけて振り向いて、僕を見ると一筋だけ涙を流した。



任務から帰ってきた依泉はボロボロの身形をしていて、決して彼女一人のものに限らない多量の血が胸のローズクロスを赤黒く染めていた。最優先事項だと連れていった医療班からの帰り道に、依泉はようやく話してくれた。話によるとノアと対峙したらしい。
その場面を詳しく聞けば聞くほど、

「正当防衛じゃないですか」
「正当防衛?殺しに正当も何もないじゃない」

例え殺されかけたからだとしても、例え事故だったとしても、例えその気がなかったとしても事実は何も変わらない。
兵器を壊すのと生物を殺すのとは違う。
依泉の言葉がやけに重く僕の心に引っ掛かった。嗚呼僕ら同類ですね、僕はヒトを殺した訳ではないけど。そんな事を考えていたのかもしれない。

「ねぇ私、殺人をしたよ。犯罪者だよ。私は生命を奪ったんだよ。今に神様がお怒りになるの」

こんな現状でも未だ誰より純粋に、いるやも知れぬ神様を信じ続けるのは世界中で彼女だけかもしれない。自分の損得じゃない、どんな宗教よりも綺麗で恐ろしい自分だけの神を彼女は描いていた。

「それなら僕は全力で神様から君を護ります」

そうだね、闘わなきゃね。

3秒間の停止の後、依泉がほっそりと笑った。


それが世界平和と云うなら幾人の笑顔を見る事ができるのだろう。

ねえ、その傷を癒す術を僕は知らないよ。


2009.11.13.fri

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