:家庭教師ヒットマンREBORN!
:沢田綱吉(+10)


10年間で並盛は変わった。ボンゴレやアルコバレーノすら太刀打ちできない強い力を持つファミリーが現れ、マフィア界の常識の多くは覆された。公に一般人の被害も目に余り、10年間に知った知人のほとんども消されてしまった。
オレ達の知る世界全体が変わってしまったんだ。

澄みきった青空。
柔らかな日射し。
時折響く小鳥の囀り。
平和な町。
無事皆で荒れ狂った未来からの帰還を果たしたオレこと沢田綱吉は、それからひとつの問題に頭を抱える事となっていた。
未来での惨劇。それはマフィアの抗争だけれど、現実的な話それだけに収まらなかった。分かりやすい例を上げるとすれば京子ちゃんやハルだ。彼女らはマフィアなんて全く無関係だったのに関わらず、オレ達に関わったせいで未来へ行く羽目になってしまった。オレに関われば、10年後その人は危険な目にあう。人生が狂い、不幸を振り撒いてしまう。
そんなのは嫌だ。じゃあどうすれば良いのか。答えは簡単だった。

出来る限り、必要最低限度の人としか関わらない事。そうして知人を増やさなければ、比例して標的だって減る事になる。

けれど季節は過ぎ、中学を卒業したオレは高校生となった。当時は中学卒業と共に否応なくマフィアに関わらされるのかと思っていたオレが拍子抜けするくらい、ごく自然と進路は進学に決まっていた。公立の平凡校に合格したオレの周りにはやっぱり山本と、頭が良いはずなのに獄寺君がいて。
小さな事件は毎日のようにあっても、オレは中学の頃とそう変わらない日々を過ごしていた。
ただ変わったと言えば、オレは山本と獄寺君以外の人をあまり寄せ付けなくなった事だろうか。けれど運が良いのか二人共同じクラスだったから、それは大して苦痛にならなかった。

ああ、それと。初恋を忘れた事も大きな心境の変化かもしれない。
それは入学して間もない頃、京子ちゃんがハルと一緒に通っているこの辺じゃ名の知れた高校で、クラスメイトを好きになったと知った時だった。
学校が違うから相手がどんな奴か知らない。でもハルが応援しているところを見るとやっぱり良い人なんだろう。京子ちゃんに好意を寄せられて拒む奴なんているだろうか?そう思ったら敵わない事がよく分かって、オレは長い片想いを捨てた。
自分でも驚く程すっかり諦めがついたのは、後から思えばオレ自身が京子ちゃんから離れていたからかもしれない。オレは既に二度目の恋をしていたのかもしれない。

暗いとか無口とか無愛想とか馬鹿とかダメな奴とか、獄寺君はともかく山本は何であんな奴と友達なんだとか、クラスメイトから散々陰口されて避けられてるのは自分がそうしているのだから勿論知ってる。
けどただ唯一、こんなオレに話しかける変わった子もいた。
紺色のブレザーがあまり似合わない、明るい子だった。京子ちゃんとはまた違う人の良さで、女友達も男友達もたくさんいる。例えて言うなら山本の女の子版みたいな子、依泉さん。
彼女はオレが素っ気ない態度を取ってもむしろもっと仲良くなろうと近付いてくる。友達なんてたくさんいるのにどうしてか。友達がたくさんいるからこそオレの態度が気に入らないのか、席が隣だったついでか。色々考えたけどそれは全部外れた。


「沢田君が好きです!」


突然の告白に戸惑い、それから嬉しいと思ったオレは、最後にしまったとショックを受けた。いつの間にかオレは依泉さんを好きになっていたようだった。
確かに授業中ぼうっとしていたらよく目があったり、朝夕に根気よく挨拶をしてくれたりが嬉しくてむず痒くて、それを山本にからかわれたりした事もある。けど、それはいけない事だった。オレが特別に感情を抱いたせいで、その人が不幸になるなんてもう真っ平だった。突き放すしかないじゃないか。

「オレに関わるなよ。危ないから、頼むよ」

これは懇願だ。意味の分からないという顔をした依泉さんはやっぱり聞き返してくる。
君の未来が助かるなら、オレは嫌われたって良いや。

「オレがマフィアだからだよ。関わると未来に辛い想いをするのは君なんだ」
「うん、でも沢田君は沢田君だし、沢田君は人を傷付けるマフィアかもしれないけど並高に通う高校生だよ」

マフィアと言えば離れる、というのは甘かったのか。それとも信じてないのか。
依泉さんは驚く素振りもなしに、でもありがちな慰めのような言葉を返してくる。そういうのはあんまり聞きたくないなあと考えたのはそれが屁理屈になるまでの短い間だけだった。

「獄寺君みたく喫煙したりしないちゃんと未成年で日本人で、山本君みたいにスポーツ万能じゃないけど山本君と同じ男の子で、他人の為に頑張れる優しさがあって、でも器用じゃないからこんな自分が疲れちゃう方法しかできなかったんだよね。そんなたくさんの中のほんのちょっと、マフィアなんて沢田君を形作るほんの一部でしかないんだよ。マフィアだけが沢田君じゃないのは私だって知ってる。でも私達の知ってる沢田君にはマフィアの沢田君がいるなんて、言われなきゃ誰も気付きもしないんだよ」

オレは一体未来で何を知ったんだろう。中学の時からどこが成長したんだろう。

「私今不幸だよ。好きな人に拒絶されてすごく不幸。未来で私を危険にするのがマフィアの沢田君だとしても、沢田君がいれば私不幸にはならない。でも今の私を幸せにできるのは、高校生の沢田君だけなんだよ。だから私、拒絶だけはされたくないよ」

自分だって彼女が好きなのにこれ以上拒めない。気持ちを見ないフリなんてできない。
守る為の力なら手に入れた。覚悟だってした。それで良いじゃないか。不幸にする訳にはいかないんだ、大切な人を誰一人として。


時間制限つきの恋愛ゲームしましょう。

まもられてくれますか。


2009.11.23.mon

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