:D,Gray-man
:黒の教団


どこか遠くから地面を伝って鐘の音が届いた。それは日が変わった事を示すものであり、今日に限ってはもう一つ意味を成している。

「あー……もう年変わってますよコレ」
「マジ?新年最初にした事がAKUMAの破壊とか虚しすぎるさ」
「昨年最後にした事もですね」

騒音が激しい。エクソシストという職種に就く彼らは日にち時間その他あらゆる事を無関係に自分の職務を全うしている最中だった。
大量発生したAKUMAの破壊、これが今回の任務である。

「仕方ねェだろ。任務中に無駄口叩いてんな」

男3人だし、周り敵だらけだし。色気がないだの早く戻ってくれだのキンキンと叫びだした赤い髪を持つ少年。彼は後ろに注意を払う事をすっかり忘れていた。


「――ラビ危ないッ!」
「そのままストップ!」

ヒュ、とまさしく風を切る音。間もなくして背後に破壊音が轟き、ラビは強い風圧に必死に足を踏ん張った。

「ラビ怪我ない?」
「助かったさリナリー。あと依泉」
「あとってなによ。後方不注意で女の子に助けてもらうなんてラビださーい」
「へいへいすいませんねぇ」
「ラビださい……ぷ」
「笑うなアレン!」

「誰か重傷者はいないかな?」
「3分の1はレベル1だってのにいるか馬鹿」
「いやいやソレ残りの3分の2が重要なんだけど。レベル2とか、ちょっとレベル3もいたよ」
「あ、さっきラビが勝手に滑って槌に頭ぶつけてましたよ」
「うわぁ……。引いて良い?」
「ちょ……泣いて良い?」

和やかな空気が流れる。周囲にはAKUMAの残骸に囲まれ、皆大なり小なり差はあるものの誰のものとも分からない血液を衣類にべとりと付着している中での談笑。慣れてしまった彼らには地獄絵図も何のそのである。

「……で?」
「あぁ、上は勿論片付いたわよ。依泉が来てくれたからすぐ終わったわ」

事後報告にこっちも今終わったところだと神田が冷静に告げるも直後、特に依泉は空気を読む気はないらしい。

「私えらい!」
「知ってますか。その性格が君の評価を下げてる原因ですよ」
「うっさいなぁ。んーさっさと帰ってお風呂!リナリー一緒入ろ」
「えぇ勿論」
「俺も汗かいたさあ。一緒に入っても、」
「じゃあコムイさんに言っときますね」
「ゴメンナサイ勘弁して」
「あ、僕お腹空きました」
「アレン君、キャンディーならあるよ」
「ください」

すっかり気持ちはオフモードである。ここは自然の砂地であるから近場の町へ戻らなければ汽車に乗る事すらできない。誰からともなく足を進めた先は帰路に繋がる。
ふと思い出したように依泉が古い懐中時計をウエストバッグから取り出し、深夜の時刻を呟く。

「そうそう、おめでたいかはともかく明けましておめでとう!今年の私の抱負はねぇ……世界平和だよ〜」
「それ去年も言ってたぜ?」
「その前もだったな」
「毎年恒例よね。私は皆で楽しく、よ」
「リナリーも変わんないよ、そのモットーみたいな抱負!」

町まではまだまだ遠い。へとへとの身体を緩い足取りで動かしながら疲れを誤魔化すようにお喋りが途絶えない。
ありきたりですねとコロコロと子供のように飴を舌で転がせながらのアレンのにこやかな笑顔に、ムッと口端を下げた依泉がそっちはどうなんだと聞き返す。

「モチロン借金完済」
「アレンも人の事言えねぇさ。ユウもあれだろ、また答えねぇとか言うんだろ」
「下らねぇ。何でも良いだろうが」
「で、ラビは目指せストライク500人でしょ?」

どうだと試すように笑う依泉にラビは「ハズレ」と言っていたずらっ子のように笑い返した。

「今年は目指せ書物500冊なんさ」
「あ、去年は500冊読めなかった年なんだ?」
「486冊な。ちょっと遊び過ぎるとジジィがうるせぇかんな」
「うわ〜ブックマンも本人間ですね」
「もって俺一緒にされてんの?」
「じゃあ来年は女の子500人だね。ラビ2パターンしかないから」
「ワンパターンな奴らに言われたくないさ」

神田が一緒にするなと奮起し、それをアレンが貶し、リナリーが制する。意外にもこのじゃれあいに依泉はいつもよりほんの僅かに真剣な意見を口にした。

「だって、この戦争が終わらない限り私らのする事って何年経っても一緒だし。新しい抱負作ったってしゃあないしゃあない」
「終戦したらどうすんさ」
「その時はその時!あー……私自由の身になっても皆との共同生活終わらせたくないなぁ。どーしよ!」

俯いて。かと思えば夜空を仰いで。依泉のころころと変わる表情や仕草の色に周囲は呆れたような微笑ましいような、そんな心持ちで返した。結果はやはり弄る事になるが。

「その時はその時って言いませんでした?」
「そうでした」
「馬鹿か」
「馬鹿さ」
「馬鹿違う」
「お茶目と言ってあげましょ」

フフと本日一番の楽しそうなリナリーは本来癒し担当であるが、この時ばかりは複雑な気持ちで応対する依泉。
さて、そろそろ人里まで半分を切っただろうか。町へ着けば待機中の探索部隊がお待ちかねだ。まずはこの疲れた身体でも教団へ報告をしなければならないのが少し憂鬱だが、それが終われば夜明けまで温かくしてたっぷりと睡眠をとる。これはもう誰が、例え神田が何と言おうと決定事項だ。

「何故だろう褒められてる気がしない」
「褒めてないからでしょう」
「皆してひどい!」

愛故って事で良いじゃない。リナリーの打開案に依泉が脱力したように反論をやめた。こんな事はお互い慣れすぎているほど日常的であるからだ。
宿に戻ったらすぐに暖かいスープをもらおう。アレンが全て飲み干してしまう前に。宿の部屋割りは勿論リナリーと二人、男子の方が部屋でどたばたやってたって無視してやるんだ。
依泉は一番身近なちょっとした幸せに胸躍らせながら、冷たい夜の空気をいっぱいに吸い込んだ。

「まぁそれで手を打ってあげる。とりあえず皆今年もよろしくね!」
「「「「よろしく」」」」


私的煩悩

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4/2、今になって気付いたブックマンに対しての本人間発言の滑稽な事!気付かず書いてた辺りなんか恥ずかしいんだけど変えちゃうのもなんなので放置で。

2010.01.01.fri

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