:家庭教師ヒットマンREBORN!
:沢田綱吉(+10)


「ねー依泉」
「んー?」
「もしさ、もしもの話だけど……」
「……なに?」

歯切れの悪い綱吉が両手の指をもじもじとさせる。放課後の帰り道。隣を歩く少年に続きを促せば、返ってきたのは予想もしなかった言葉だった。

「オレが将来、人殺しとかしてたらどうする?」
「へっ?」

途端辺りがしんと静まる。家へと向かっていた足取りが止まり、何となく前を向いていた視線が意識をして綱吉の方へ向いた。

「綱吉。それって……」
「あ!いや、良いんだ!もしもの話だから、気にしないで!」



「なんて事もあったよねぇ」
「そうだっけ」

キョトンとした綱吉の書類を片付ける手が止まっている。原因は自分なので少し控えめに諫めるといつもの反抗もされずに作業は再開された。どちらかが少し物言いを和らげれば自然と喧嘩は回避できるものなのかもしれないなぁと今更になって学習する。

さてさて。実は学生時代のあの頃、私はマフィアの事をリボーン君から聞いてすでに知っていたのだけど。それを黙って知らないフリをしてたのは綱吉に自分から話してほしかったからなのでした。

「その辺聞いてるとまるで悲劇のヒロインみたいだよね」
「なによー私はヒロインじゃないっての?」
「いやそっちじゃなくて」

綱吉の感想にムッとして口を尖らせると、少し焦ったように訂正される。これが今ではマフィアのボスなんて、世の中は不思議なものだ。

「だからさ、オレちゃんと話したし」
「リボーン君に促されてね」

それだって私が頼んだからだし、綱吉には少しばかり自信と行動力が足りない。それだけを言うなら私の方が上なんじゃないだろうか。即答でファミリーに入った度胸は自賛できるほどだと少なくとも自分では思っている。

「……なんだよ、依泉は幸せじゃないの?」
「マフィアのボスにそんな事聞かれるとは思わなかったよ」

冗談めかして笑えば今度は綱吉が拗ねてしまったらしい。確かにこうやって笑えるのは不幸なんかじゃなく、幸せの証だね。自分で決めた未来にここまで楽しく過ごせるのは綱吉のおかげなのかもしれない。

「ねぇ、ありがとう。綱吉が着いてく事を許してくれたから私今幸せだわ」
「依泉の行動力のおかげの間違いじゃないの?」
「間違いじゃないよ。ありがとう」
「……どういたしまして」


喜劇のヒロイン

2010.02.07.sun

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