:家庭教師ヒットマンREBORN!
:沢田綱吉


「初恋です。付き合って下さい!」

それはドラマやマンガでしか告白を知らないオレからしても、とてもとても変な告白だった。
そもそも普通、告白って「好きです」とか言うもんじゃないの?……初恋って。

けれど真冬のその日、オレの心臓はそんな言葉に鼓動を早めていた。
何故ならオレは彼女は勿論好きな女の子もいなかった訳で、寧ろ女の子とまともに話した事もなかった。というか現実的な話、悲しい事にまず友達があまりいない。それはオレの人間性云々以前に先ず何をやっても上手くいかないところからが始まりである。
周りからダメツナとからかわれるオレは本当に勉強も運動もダメダメで、代わりの特技といえばゲームが上達したくらいか。
取り柄のないオレはいつの間にか卑屈な人間となっていて、自分でもどうしようもない人間で最後まで罵られて人生を終えるんだと諦めていた。
いや、諦めた素振りをしてできるだけ自分が傷付けられないようにしていただけだったのかもしれない。

だから気付けば人生で最初で最後だろう変てこな告白を、二つ返事で返していた。好きどころか名前も知らない女の子と、この日オレは恋人という関係を開始した。
全ては好奇心と、多分少しの優越感からの結果だった。

中学生に上がって間もない今、いじめっこ達の中には恋人がいる奴なんていないはずなんだ。
どうだ、ダメダメのダメツナに先を越された気分は。



「沢田君、山本君って格好良いよね」
「そうだね依泉」

隣の少女がオレの中学生活唯一の友達の名を挙げる。
衝撃的な告白から暫く。季節はまどろっこしく言えば蝉の鳴き声忙しない万緑の、シャツが背中に張り付き不愉快な頃。
中学生活にもようやく慣れてきた頃、辛うじてオレ達の交際は続いていた。辛うじてという言葉を使ったのは、つまり順調相思相愛と云う訳は無く、いつ別れるかとギリギリの橋渡り状態が、しかしもう何ヵ月続いているだろう。それも交際開始当初と関係が真逆となって。
それを言い表すように依泉はオレに名字呼びで定着してしまっている。

「まぁ、女子にちやほやされるような男は好きではないけど」

依泉の台詞にどきりと平静を装った心臓が鳴る。じゃあオレは?と女々しい言葉が喉に突っかかっては飲み込まれる。
自分で言うのも何だがピュアな少年だったオレは、見事最初から彼女に踊らされていた。

後から知った話だが、元小の違う依泉はそこでちょっとしたアイドルだったらしい。
確かに容姿は文句のないもので告白された時はオレもまさかと思ったが、今見ると愛想笑いの上手な普通の女子だ。
というのは付き合っているオレだからこそ有りの侭を見て思うのかもしれないが、それはそれでまた小さな優越でもある。

軽い気持ちでOKした告白だったが、気付けばオレは依泉にどっぷりとハマってしまっていた。それも付き合って1月もない間だろうか。

笑う姿は天使のようだし頬杖をついて校庭の野球部を見下ろすのだって愛らしい。何気ない仕草すら依泉は全てをオレのツボに嵌めてしまうのだ。

思い切って伝えた気持ちに依泉は微笑で「そう」と言った。この時は軽はずみに付き合った事を許してくれた言葉だと思ったが、ここからオレの違和感は始まっていた。

段々と依泉の雰囲気が変化してきた。「可愛らしい」といえるものから所謂「クールビューティー」へと変わっていく、その度々の違和感。

そして最近。言われなくても気付いた事がひとつ。
彼女はオレを好きではない。興味をなくしたとかではなく、元から無かったのだ。つまりは彼女にとってオレの存在価値は“利用”する事で初めて生まれる。
彼氏がいない間の穴埋め。また、オレがいてもアタックしてくる男がいるか実験を交え観察。と言った所だろう。

と長々言いつつ実の所以上はオレ沢田綱吉の憶測の範囲内でしかなかったりする。大体一応初恋と言った彼女に元彼がいたかなんてオレは知らないし、知りたくもないのだから。



彼女への気持ちを自覚したオレはとにかく必死だった。
依泉が自分より身長の低い男は嫌だと呟けば背を伸ばす努力をしたし、依泉がカナヅチは嫌いと言えばこっそり泳ぐ練習もした。

依泉に別れようなんて言われないように、ギリギリの瀬戸際でも依泉の設けたラインからはみ出ないように頑張って。
その内自分なりに努力すればなんとかなるもんだなと思いつつ、しかし努力をするのも結果が着いてくるのも依泉が関わった時だけでもあった。どっちにしろオレがダメツナなのに変わりはない。

「終わりにしようか、沢田君」

けれど遂にその日は来てしまった。

「別れよう」

脈絡のない話が途絶えて10秒。途絶える事は最早珍しくもないのだが、その後珍しく依泉から口を開いた先の台詞がまさかそんなものだなんてあんまりだ。

「…あっ、の依泉!」

喉がつかえて上手く喋れない。そんなオレに依泉はにこりと微笑を浮かべた。

黙殺

結局オレはその後一声すら出せずに迷いなくその場を去る後ろ姿を見つめるだけだった。
その日オレの全ては終わったも同然だった。以来一度も依泉の姿すら見ていない。あれから5年以上が経ったと言うのに、オレは彼女を忘れる事ができない。
もう恋なんてしないと別れの日に誓ったのに、今でもまだ君の事を想ってる。

オレは今になってようやく疑問を持つ。冷静沈着な彼女がどうして、あんな告白の仕方をしたのか、という事だ。

「初恋です!」

もしかしたら……?
なんて考えるオレはやっぱり欲に正直な人間らしい。自分を好んで告白なんて、する人がいるはずないのに。
せめて別れる理由くらい聞いておけば、こんなに引きずらずに済んだかもしれない。


恋藍

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藍色した初恋物語。
例の如く意味不明←

随分前(少なくとも10ヵ月程)に8割方できてたものでした。

2010.08.15.sun

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