:D,Gray-man
:アレン・ウォーカー


「僕は父親をAKUMAにしました」

そう依泉に告白したのは出会ってからたった1時間後の事だ。そして彼女に軽蔑の目を向けられたのも、ほぼ同時刻の事だ。

「最低だね」

恐れる様な視線、探る様な視線、見下す様な視線。それらにはもう慣れていると思いながらも、今更になって少し胸が疼く。
嗚呼、僕は彼女に、何を期待していたのだろう。

黒の教団からの指令でAKUMA退治を言い渡され、今回任務を共にする女性エクソシスト。依泉とは僕が入団してから今まで任務の関係で、ことごとく会う事が叶わなかった人だった。そんな訳だから出発直前が初対面、その頃にはもう日が傾いていて、距離もそこそこあるので僕らは夜行列車に乗り込む事となった。
そして現在、汽車での移動中に依泉は思っていた事を口にしたのだ。その顔の傷はどうしたの、と。

「愛情を盾にして縛り付けたんだ」

罵倒する様に言葉を選ばず、依泉はエクソシストの癖に、と付け足した。
僕だって当時は一般の子供だったんだ。エクソシストはその後の話で、結果だ。そんな事になるなんて知らなかったさ。そう頭で反論しながらも、自分の罪深さが声に出す事を躊躇わせる。今となっては分かっているんだから、自分がどれだけ酷いかなんて。

「最低」

また、否定の言葉を浴びせられる。プツンと何かが切れた時には、じゃあ、と呟いていた。
理性を失ったと言うのが一番近い、衝動的な感情でもあった。

「じゃあ言わせてもらいますけどね。貴女に何か分かりますか?」

孤の僕を拾ってくれた恩人だったんです。本当の父親の様に、大切で、かけがえの無い人だ。
それが亡くなって、悲しんで、何も知らない僕が千年伯爵の手を取ってしまったのは、少なからず“仕方ない事”だった筈だ。違いますか?違わないでしょ。だって世の中にはそうやってAKUMAとなってしまった人がごまんといるんですから。僕はそこで死なずに生き残って、後にエクソシストの事も伯爵の本性の事も知らされますが、それまでは全く普通の子供だったんですから。

攻撃的な言葉が次々飛び出していっていた。自分でも驚く程喋った気がする。紳士なんて名乗るにはやはり無理があったろうか。でも後悔なんてしてない。マナはそれほど大切な人なんだ。
どうだ、と無意識に下がっていたらしい目線を、正面に座る彼女に合わせた。

「……え、」

どうしてさっきまで強気で喋っていた人が、全く言葉を発さなくなったのか。
どうしてそこに気付かなかったのか。

「……っごめん、なさい」

そう一言絞り出す様な声を発して、依泉は駆け足でコンパートメントから出て行った。呆然とその場から動けない。外に待機する探索部隊が不審に思ったかも知れないけれど、今はどうでも良い事だ。
どうしよう、依泉が、泣いていた。
どうしようなんて自分で言っておきながら滑稽な状況だ。あんなひと、別に放っておいたって問題ないじゃないか。小さな子供じゃあるまいし、仮にもエクソシストとしてなら僕より先輩だ。到着するまでには姿を現すさ。いや、その前に就寝の為に戻って来るか。

人の気持ちも知らないでアンタッチャブルゾーンにズカズカ踏み込んで来る癖に、真実を言えば迫害する。ああいうのが人間として一番どうかしている。そんなだから人種差別や対人戦争が頻発しては終わらないんだ。きっと、そうだ。
知らず知らずの内に千年伯爵に手を貸してしまっている。エクソシストの癖に。

「言い逃げはズルイですよ」

自己完結した筈の頭を放っぽって、身体が動き出す。エクソシストとしてか、師匠関連以外でこんなに走ったのは初めてかもしれない。そりゃあ扉の前にいた探索部隊も驚くってもんだ。
あんな人の泣き顔を気にかけるなんて、僕はどうかしてしまったんだろう。


駆け回る、ナイトトレイン

一体僕は彼女に、何を期待しているのだろう。


end.
‐‐‐‐‐‐
同じ文句が二度ずつ、使われまくっておりますね。格好つけた文章っぽいな。

ここで質問。駆け回っているのは夜汽車かアレンかヒロインか。
貴女の解釈は如何に(笑)

2009.08.19.wed

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