:家庭教師ヒットマンREBORN!
:沢田綱吉(+?)


かたん、と今時っぽくない木製の古い下駄箱が僅かな隙間から軽い音を立てて封筒を受け入れた。可愛げのない白い封筒は、俗に言うラブレターだった。
並中は中学校には珍しく、下駄箱に鍵がついている。以前悪戯が流行していた時にされた改善策らしい。鍵の閉められた中にすっぽり収まった手紙は、もう後戻りはできない事を示す。

「……はぁ」

夕日の沈みかけている中、校内は既に薄暗い。
はっきり言って今、とても気が重い。当然だ、ラブレターなんて書く事自体がそれだけでもう初めてのことだった。そしてこの手紙が、明日の朝彼女に届く事を思うと。明日中に必ず返事をもらわなければならない事を思うと。この気持ちが一方通行だったらと思うと。

「はぁぁ……」

一際大きな嘆息が漏れてしまう。
明日は並中の卒業式であり、オレ達が卒業を迎える日。そして、オレ率いるボンゴレ10代目並びその幹部がイタリアへ発つ日なのだから。だから明日、どうか返事を……。

そんなオレの複雑な心境を知ってか知らずか……いや、奴に限って知らないとは言わせないが。とにかく、リボーンが急に予定を変えた。昼の内に手紙の返事をもらって、夜には日本を発つという段取りは全て台無しとなり、早朝にはオレ達は飛行機の中に詰め込まれていた。
勿論そんな状態では返事どころか録に別れを惜しむ暇すらなく、オレ達は互いにわだかまりを覚えたまま。その内にそれぞれの認識を思い出として心の底に仕舞う事となったのだった。



なんて訳もなく。
いや、最後の一文以外に全く嘘偽りはないのだけど。ただ少なくともオレ、沢田綱吉の方は思い出どころかむしろ数年経った今でも未練たらたらだったりする。ので、仕事の落ち着いている時期を狙って会いに来たんだ。


「オレさ、昔依泉ちゃんの事好きだったんだ」

ああこれは手紙に書いた通りだから既に依泉ちゃんだって知ってる事だったっけ。それにしてはぽかん、と放心状態みたいな彼女は、未だに懐かしい顔の登場に驚いているらしい。
誰にでも優しい依泉ちゃん。他の人が見下すほどに取り柄のないオレすらも同じ笑顔で対等に接してくれた。「単純」と言うより「明確」に、それがオレの数年続く恋心のきっかけだ。

「依泉ちゃんはどうだった?」
「オレの事少しでも好きでいてくれた事あったのかな」

というか、これでもしも「ごめん、私中学の時彼氏いたから」とか言われたらフラれに来たオレカッコ悪いにもほどがある。更に「ごめん、私もう結婚してるから」とか言われた日にはむしろ立ち直れないかもしれないけど。

「今も、好き」

ギリギリオレにも聞こえる声で呟いた依泉ちゃんは、泣きそうな顔をしてオレに背を向けて走り出した。
いつの間に放心状態を脱出したんだろうか。なんて事は今全くどうだって良くて。さっきまでの思考は全部たったの一言で吹き飛んだと言うのに新しい思考は中々脳内に入ってはこない。

数秒遅れてようやく回ってきた回路に焦りを含み出す。比例して足が動き出し、速度も上がり出す。事務的処理になら大分頭を働かせる事も慣れてきていたのに、やっぱりこういう事には経験もないせいかダメらしい。
もしかしなくても依泉ちゃんは、オレの告白が過去の時間でだけ成立すると思っているようだ。

「オレも好きだよ!今も!」

恥なんか捨てて少し大きい声で言えば、逃げ役の足がピタリ止まる。「なに、それ」別に誤解を招く言い方をしたのは故意ではないんだけど。「なんだか卑怯」そう言う依泉はちょっと人を疑う事を覚えたらしい。

「それに手紙で告白だけして返事する時間もくれないで、それで海外行っちゃうなんてのも卑怯。そんなの聞いてない」
「ごめん」

この後なんとなく可笑しくなってしまって、しがらみから解放されたようにどちらからともなく笑えたりなんかしたら良い。そんな漫画みたいな話はそれでも都合よく、叶ったりなんかするのだけど。


願ったり叶ったり

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サブタイトルは「いや、やっぱり結果オーライな感じで」で。←
ちょっと脱力感ある綱吉君に語り手をしてもらう事に全力を尽くしてみました。いやあ楽しかったです。

一応綱吉君お誕生日おめでとうな文。

2010.10.16.sat

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