:家庭教師ヒットマンREBORN!
:白蘭


送信者:綱吉
題名:no title
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大丈夫!?とりあえず君がこれを読めてれば良いんだけど……

良い?もしも身に危険があるなら一番に自分を守るんだよ?
君が助かるならボンゴレの情報だって話したって構うもんか
だから絶対無茶はしないで、オレ達が助けに行くまで無事でいてよ



「やだ」

ピッと実際には操作音は出ないのだけど、素早く返信をすると折り畳み式の携帯電話を閉じる。同時に聞こえたさも愉快そうな笑い声に不快感は最高潮に突入だ。

「ははっ本当にそれだけで送っちゃったんだ」

もうある程度お分かりと思うが、私は今ピンチに陥っている。マフィアという職業柄色々な危険に遭遇してきたが、そんなこれまでの人生でも最大と言って良い。

「馬鹿だなあ。せっかく君のボスから直々にお許しが出たのにまだ話さないつもりなんだ?」

私の視界の端に映るのは(本来なら視界のど真ん中に映る位置にはいるのだが、私がなるべく映さないようそっぽを向いているだけだ)、わたくし所属のボンゴレファミリーの現在最大の敵であるミルフィオーレファミリーボスこと白蘭だ。このいけすかない掴めない笑顔が私は大嫌いだった。
その表情をぶち壊してやって早々に帰りたいのだけど軽く拘束状態にあるのでそれは敵わない。辛うじて携帯は取り出し返信もできたけど、武器にまで手が届かない。というか私の武器は殺傷力はあれど破壊力はないのでどっちみち拘束を解くには頼りない。

ああここにいると何もかもストレスの種のようで苛立ちが拭えない。
どうせ捕まえるなら右腕辺りにしとけば良いものを。どうして寄りによって私なんだ。あ、でも隼人じゃ口割らないか。そこは認めてやってもいい、私と競えるほどの口の固さ。そこだけは揺ぎ無く信頼できる。

「うっさい。ボンゴレをあんたの好きになんてさせるもんか。それに、例えファミリーの最高権威が許したって話した時点で私はボンゴレに戻れない」
「ふうん?まぁ僕は良いよそれでも。どうせ時期が伸びるだけの無駄な足掻きなんだし」

忠誠心抜群だねー綱吉君てばこんな才色兼備な部下がいて羨ましいなーとか食えない笑顔で言ってる白蘭は本当に堂々私の嫌いな人間ランキング1位にランクインする事だろう。ちなみに2位はパイナップル頭の男だ。

「よく言う。それが事実なら態々ここまでして聞き出す意味が分からないね」

ぴくり、と白蘭の動きがほんの一瞬固まったように見えた。ほんのちょっぴりこちらの口角が上がる。私に口で勝てる奴なんて早々いない。

「……とりあえずこれは没収ね」
「あっ」
「大体囚われの身の分際でお仲間と連絡なんてして良いはずないんだからさぁ」

敵のボスの目がある前で堂々とメールしてる君は拍手ものだったけどね、とまた笑い出す白蘭にストレス加算。拍手ものって言うなら拍手しろ、拍手。
図星突かれたからって没収とかお前はどこの陰険教師だ。というのは言わないでおくけど、視線だけはきっちり送らせてもらう。

「あ、メールきたよ」

基本的に常日頃からマナーモード設定にされている携帯がバイブレータで着信を知らせる。手の中からの振動に勝手に人の携帯を弄り出すのを黙って眺める。どうせ内容は分かりきってる。他のメールだって見られて困るものは残していない。

「ははっ君の仲間が焦ってるよ」

馬鹿にしたように笑うと奴は携帯を閉じた。どうやら読んだのは新着のものだけらしい。それに勝手に返信をされる事が一番危ないと思っていた私は安心が顔に出てなければ良いのだけど。



「君は強いよね。とても」
「そんな君を殺す方法を僕は一つだけ知ってるんだ」

突然語り出す白蘭は演説するように両の手を横に広げた。

「どれだけ痛め付けたって死なないし自白もしない人間を殺す方法ってなんだと思う?」

さっきからこいつは何を言っている?一つだけとか、死なないとか、私だって人間だ。人間なんて死ぬ気があれば死ねるし、その方法は今やいくらだって世界に溢れてる。
私に限って一つだけ、なんて事は有り得ない。ついでに言えば私がそんな超人だとして、唯一死ぬ方法はむしろ何?

「それはね、綱吉君を殺す事なんだ」

ドキリと胸の奥に何かが刺さったような感じがした。身体が正直に反応を示した辺りどうやら図星らしい。
ああ、確かに死ぬかもしれないな。心とかそういう奴が。

「彼を殺したと言った事で傷付いた君が自殺する姿を僕はもう何度も見ている」

そう、もう何度も何度もね。
さっきまでより低くなっていた声が身体に伝わり震えた。いや、これは身震いだ。
白蘭は私を捕まえる事で情報を得ようとしていたと思っていたけど、それは少なくとも半分は不正解に思えてきた。むしろ情報を掴むとしたら私の方だ。今の会話は一般人には成し得ない。

「あんたのステータスがちょっと分かってきたわ。どうも人外な結論になりそうだけど」
「ああ、口滑っちゃった」

よくもまあいけしゃあしゃあと憎たらしい嘘がつけるもんだ。分かりやすい嘘をつく辺り、こいつはまさか私に自分の情報を探らせて遊んでいるのだろうか。そうは言ってもまだまだ信憑性も確信もない机上の空論みたいな話だけど。

「さて、そろそろ僕はお暇させてもらうよ」
「は?」

突然何を言い出すんだ、こいつは。この場所がミルフィオーレのものでない事は分かっていたけど、今ここを離れては意味がないんじゃないか?その間に私はいくらでも脱出方法を考えるし、仲間だってそろそろ来る頃かもしれない。

「最後に一応聞くけど、僕の仲間になるつもりはないよね?」
「なる訳ないでしょ」

最後に、という言葉はやっぱり何か見透かすような言い方だ。
私がミルフィオーレに入る理由なんてどこにもない。即答すればまたあの笑い声が耳に入ってきた。

「まあ分かってたんだけど。また君とはこういう機会があるからね。それまで考えといてよ」

こういう機会、とは誘拐して話をする、という事だろう。そんな事言えば警戒が強くなるだけで、余計その機会は遠ざかる。ただでさえ今回の件で当分私は表に立たされないだろうに。

「君は次の機会の事を仲間には言わない、絶対にね。だからまたね」

そろそろヒーロー達が来ちゃうからさ、と言い残して素早く消えた白蘭は、一応自分が悪者サイドな自覚はあったのだろうか。ラスボスが予言者なんて聞いた事ないけど。

「依泉ッ!」

そのほんの1分後くらいに白蘭が去ったのとは反対側にあった扉から登場したのは確かに私の仲間達だった。
結局私は無傷だし、助けにきた綱吉や皆も戦った気配はない。あっさりと終わったこの奇妙な誘拐事件に、私は余計警戒を強める事になりそうだ。


ある日ある日の誘拐事件簿

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綱吉夢として書いてたのに、書き上がった瞬間に綱吉夢とは言えない事に気付く。これって白蘭夢になるのかな……?

2010.10.17.sun

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