:家庭教師ヒットマンREBORN!
:沢田綱吉


カツン、高い靴音が一歩一歩と近付いてくる。ゆったりしたその音は逆に恐怖心を扇いで後退る私の全身を酷く震え上がらせる。

「やめて……」

震えは喉までを侵食し、か細い声は正しく言葉を発するのがやっとだった。

「来ないで、綱吉」

カツン。壁までの僅かな逃げ道は尽き、正面の人物を見上げる。その表情は暗がりでよく見えないものの、いつもと違う事だけは明らか。私は彼の利き手に持つ凶器に目を移して、祈る思いで囁いた。それでもどうやら私の言葉は届かなかったようで、頭上に振り下ろされた手は利き手だった。
身体に直接衝撃が訪れる直前に、綱吉の私を呪うような声が聞こえた気がした。



「……っは」

どくどくどくどく。心臓の音が酷くうるさい。息も荒く、激しい運動をした後の感覚だ。どうやら綱吉に殺されたのは夢の中での出来事だったらしい。

「依泉?どうかしたの?」
「!綱吉」

いっそのこと、これも夢なら良かったかもしれないと思うのは贅沢だろうか。夢の中と同じ狭い部屋。光は今綱吉の入ってきた扉から漏れるのみで、寝起きなのもあって現状把握に視覚は使い物にならない。
綱吉は私がベッドから落ちているのを確認すると、手を貸しつつも同時に疑問を口にした。ジャラと身動きするのと同時に手元で金属が擦れた。手枷の音だ。
私にこんなものをつけたのは他でもない綱吉で、その綱吉が理由を促せばどんな内容だろうと夢の話をせずに済む術など私は持たない。
手枷のおかげでベッド周辺1m以内でしか行動できない私はそのベッドに腰掛けて、綱吉の思う通り動くしかないのだ。

一通りの説明をした私はもうすっかりと暗闇に慣れていて、聞き終えた綱吉がにこりと微笑むのを視認できた。

「心外だなぁ。依泉をこうしてるのは依泉が逃げない為なのに」

いつからこうなってしまったのか。昔の綱吉はこんな笑い方を知らなかったし、勿論こんな考え方もこんな行動もしなかった。ああ、一体いつから?

「まぁでも夢に見るほどお望みなら、そろそろ殺してあげよっか」
「…………え?」

悲壮感に思考を費やしていたらしい脳が一気に現実を思い出した。今、なんて言った?

「夢と同じじゃつまんないね?やっぱりマフィアらしいのが良いかな」

そう平然とと言うよりはむしろ楽しそうに綱吉が取り出したのは、確か護身用に持っていたはずの小銃だった。真っ直ぐに伸ばした腕の先で、延長的に最後に伸びた銃口は私の心臓部に当てられていた。信じられなかった。まさかそんな。正夢に?

「バイバイ」

ああやっぱりだ。これも夢なら良かった。



「ひどい夢だねソレ」
「……はは、だねえ」

やっぱり、夢だった。目が覚めた私は現実を思い出して酷く安堵した。暗闇じゃない。よく知る私の部屋だ。
休日の昼間から悪夢を見てしまった私の前に、なんの偶然か綱吉がやってきた。泣き跡を笑いもせず、呆けてフリーズしたと思えば一方的に話し始めた私に何の文句も言わずに聞き手になってくれた綱吉は夢の中とは正反対だ。
そうだよね、へたれた綱吉にそんな事できるわけないよね。狂った姿も病んだのだって全部ただの夢だ。

「っこの綱吉が本物で良かった!」
「なっ泣くなってば」

刺殺に銃殺。私は綱吉に殺されたい願望でもあるんだろうか。いやまさか。
ぶわりと糸が切れたように蹲って泣き出した私の背中を少ししてぽんぽんと叩いた綱吉をこの時ほど頼もしく思った事はない。


「夢と同じじゃつまらない……か」


狂気

‐‐‐‐‐‐
以前のメモ消化してみる。
ホラー?ミステリー?
最初から最後までもう何の事やら。
しかし夢の中で夢って見れるんでしょうかね?

2011.02.03.thu

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