:銀魂
:沖田総悟 ※not夢、独白的


もう半年近く前の事だ。
俺は成人式とやらに参加させられた。そんなかったるそうな行事なんて誰が行くもんか。そう思っていたのに、残念ながら近藤さんは真逆の意見を持っていたらしい。
成人式は人生の一大イベント。良いか、誕生日が来たからと言って油断をするな。これに参加する事で、お前は本当に大人になるんだ。なんて懸命に語られてしまえば、もう俺にはあの人に逆らう術などない。
そうでなくとも、その日は既に近藤さんによって仕事を休みにされていた。

そんな成り行きで参加した成人式だが、やっぱりつまらないものはつまらない。
途中酒をイッキ飲みして病院行きになった野郎もいたが、俺は元より普通に飲酒はしていたし、喫煙は死んでもやらねェと決めている。見た目や心境、はたまた見える景色が違ったりなんて微塵もない。そうなるとどこがどう大人になったのかなんてさっぱりだ。

時間の流れは早いもので、そんな俺ももうあと少しでまた年をとる。俺が真選組の一番隊隊長である事も未だ変わらずだと言うのに。



平和過ぎる程平和な白昼の江戸で、もしも真剣に見廻りなんてする奴がいて、そんな光景を見てしまいでもすれば屁吐が出そうだ。

ぽかぽかと日本晴れと呼べる空はふとした瞬間にも夏が近付いていると思わされる。そんな中欠伸を合図に向かうのは、青々としたそれが草原のように広がる河原だ。土手に大の字で寝転がり、ポケットに突っ込んでいたアイマスクを慣れた手付きで頭部に引っ掛け、視界を覆う。
天気の良い日にゃ、これが一番。
ふわ、ともう一度欠伸をした所で、間もなく眠気が俺を襲う。長年同じようにされてきたそれに従い俺の瞼は重くなる。
さぁ、と腕枕を心地好い位置に移動させた時、異変が起きた。


―――プツン


耳元で聞こえた小さな音に反応して眠気が吹っ飛ぶ。
「人が気持ち良く寝ようってーのに何事でィ」ひとりごちた俺の視界は気付けば、真っ暗闇から変わって真っ赤な光を浴びていた。まるで、そう。眩しい眩しい太陽を見上げた時のように。
ゆっくりと目を開ければ、それが例えでも何でも無かったのだと気付く。俺の瞼は確かに直射日光に当てられていたらしく、少しだけ視界が白くぼやけている。

「……あ?」

上体を起こしてみると、手をついた直ぐ隣に見慣れたアイマスクが落ちている。言わずもがなそれは自分の所有物で、見れば後頭部に位置する辺りの生地が綺麗に擦り切れてしまっていた。どれだけ年季が入っていたのか、それほどの長い間をコイツと過ごしてきたのかと思わず感心してしまう。

そういえば。
不意に忘れていた記憶が呼び覚まされる。

そういえば、コイツは上京してきて一番初めの買い物で見つけたんだったか。当時は単なる日除けの為と、ただの面白半分でもあった気がする。
いつの頃だったか。もう随分昔に姉上が亡くなって、その頃から表情隠しの役割とワンセットで使うようになったんだ。
当時まだ未成年者だった俺はその事実が受け入れ難くて、そしてその責任を嫌いで嫌いで仕方ない土方の野郎に押し付けては呪った。弱い俺はそれでも意地張って強くみせようとした。虎の衣を借る狐……ってか。ともかく寝てる間も油断しないよう、いつ悪夢を見ても苦痛に歪む表情をしても良いように、と。

その不細工加減が面白くて決めた、愛用のアイマスク。はかった訳でもないのに、その表情を隠すにはピッタリすぎる目付きをしているのではないか。
俺は天才だ。なんて。



「――下らねェな」

思考に溺れている内、どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。どれだけの間だったのか、気付けばもう西日が眩しく輝いている。
やっとの事で忌まわしい記憶を見せた悪夢から這い出せた俺は意味も無く鼻で笑った。自嘲なんかじゃあない、俺はもうそんなに弱くはないのだと、これでは寧ろ自分に言い聞かせるようじゃねぇか。

少しの間じっとその不細工にプリントされた双眼とにらめっこをしていた俺だが、ふいとアイマスクを拾い上げた。
今から帰って適当な女中にでも繕わせよう。使い捨てしないなんて、俺ってば随分地球に優しい心がけじゃねェですか?

緩慢な動作で膝を付き、立ち上がって、そのままゆっくり俺は土手をのぼった。


イントロダクション

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突発ネタなのと夢じゃなくてごめんなさい。二度連続でメインジャンル無視してしまった……!

2009.09.16.wed

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