:D,Gray-man
:アレン・ウォーカー


クロス・マリアンの弟子について3年。
依泉と出会ってから2年。
僕を殴って姿を消した師匠の最後の話は、「依泉と黒の教団へ挨拶に行け」だった。

ちなみにこの時買い出しに町へ出ていた依泉は、帰宅し倒れた僕を見るまで何も気付かなかったし、ティムがその映像を見せるまで何も知らなかったらしい。
挨拶も何も僕達は黒の教団の場所すら知らない。手掛かりなんてないのに、一体どうしろと?恨みがましく愚痴を溢せば隣で依泉が苦笑する。師匠は恨むが、僕は割と、依泉とのこんな時間が心地好くて好きだった。いや、依泉が好きだった。けれどそれがどんな意味での“好き”なのか、そんな事はどうでも良かったんだ。

でも、だからこそ師匠を恨んだ。戦えない少女と共に半人前の僕を行かせた事を。
ねえ、君は師匠が置いて行ったのと、僕が不甲斐ないせいで命を落としたんでしょう?





いつもと同じように始まった1日だった。朝から珍しい程土砂降りの雨が鬱陶しかったけれど、先日古い知人を訪ねて、ようやく教団の場所を特定できた。
あとは向かうだけなんだから、そこまで焦る必要もないかと小さな町の古宿でのんびりと考えていた時だった。

「きゃぁあっ!」

雨音に混じって高い悲鳴が聞こえた。それは宿泊客の一人だろう、そう考える内にも身体が動くのはもう反射的にもなりつつある。走る度に木造の床が、ギシギシと今に壊れてしまいそうな悲鳴をあげる。段々近付く目的地は玄関の方で、買い物から帰ってきていたのか聞き慣れた声が響く。

「落ち着いて」
「今の内に避難を!」

よく通る依泉の声がその場の人間を誘導していた。名前を呼ぶと安心したように顔の筋肉の緊張を解いて、宿泊客の一人がAKUMAだったのだと説明してくれた。

「もう皆避難させたけど、一緒に来ていた人が一人」
「……分かったよ、ありがとう」

即席の結界装置を手にする依泉はどうやらAKUMAを捕らえていてくれたらしい。
こうなれば後は、破壊するだけだ。なんて半人前が油断をしていたのかもしれない。

対AKUMA武器を発動させて、一撃。その筈だったのに、AKUMAは壊れてくれなかった。攻撃の拍子に結界の威力が弱まってしまったらしい。解放された砲口がデタラメに弾を撃って、建物に穴が空いていく。その流れ弾が、

「……っ、危ない!」

依泉の腹部を貫いた。



どくん、どくん、どくん、

規則的に、でも急な運動の後のように鼓動が暴れる。次の攻撃で破壊できたAKUMAだが、今はそんな事どうだって良かった。崩れた依泉に駆け寄るが、何度見たってAKUMAの弾丸を受けた事実は変わってくれない。

「依泉、っごめん。僕が油断したから!」

ゆっくりゆっくりと毒の侵食は進んで、腹部を軸に身体中をペンタクルが蝕む。血の吹き出す熱い身体は段々と石化するように冷え、石のように固くなっていく。早かった鼓動も直止まる。

「……っ」
「みっともないなァ……アレン、泣きそうな顔しちゃって。私と違って強い筈でしょ?」
「だって君は、僕と違ってウイルスが猛毒になるから」

どっちかと言えばエクソシストのアレンが特殊なんだよ、と力なく依泉が笑う。
彼女の毒に侵された血が地面を伝って僕の手に触れる。あぁもう本当に、そろそろ別れが近いのだと。

「ねぇアレン、約束しよう。いつかアレンは、私以外にタメ口で話せるくらいの仲間を見つけること」
「……依泉は?」

いつも言う“交換条件”の約束事を、いつものように提案する依泉の身体はもう頬まで蝕まれていると言うのに、決して折れない彼女の心は何と。

「意地でも天国へ行って、空の上からアレン達をずっと見守ること」

何と僕より強い事だろう。

「、見守ってて……くれるだけ?」

依泉が辛うじて機械的動作で頷く。そんな小さな動きですら今の彼女には難しく、温度の消えた首筋がパキリと軋んだ。

「見守るだけじゃご不満?」
「いや、……十分過ぎるくらいだよ」
「そ、良かった」

直後硝子の弾けるような音がした。ウイルスが全身に回って、身体が崩壊する音だった。
最期に遺した言葉は普段と変わらない程の軽口で、穏やかな空気が流れるのは、とても不本意な他殺と思えない。

埋葬できない代わりに彼女の衣類などを火葬して、それから間もなく僕は黒の教団に入団する事になる。
そこでたくさんの大切な仲間ができて、二度と彼らを失わない為にも強くなろうと考える僕は、これが人並みの幸せなのかもしれないとひっそり思った。


世界がもし平和であったなら

でもね依泉。時々思ってしまうよ。科学班に入る為師匠の後を着いてきた君が、黒の教団に辿り着けていたなら。
もしもそうであれば、僕らが今笑っている輪に君もいるのかと。


‐‐‐‐‐‐
元はアレンが伯爵に頼み彼女を生き返らせようとする話だったのですが、結局勝手に立ち直ってしまった。←
それにしても都合の良い事に、ウイルスの侵攻がとても遅くなりましたがご愛嬌って事でどうですか。

2009.10.05.mon

1 / 1 | |

|


OOPARTS