『夢と現つの幻想曲』
恋人の死を受け入れられない彼女と10年前からの来訪者達。
:家庭教師ヒットマンREBORN!
:沢田綱吉

【完結済】
1:夢と現つの幻想曲
2:幻想曲はまだ終わらない
3:そして戯曲は永遠に
4:プロローグよもう一度




「ツナは生きてるよ」

窓の外からは穏やかな春の陽射しが室内を明るく照らしている。一つ朗報を知らせた私の言葉に、武は大きく目を見開いた。
信じられないんだろう、一度亡くなった姿を目の当たりにした後の彼にとっては。それは私だって同じだけど、私は見て、体験した事実を話しているだけ。
ツナは生きている。

「なに……言ってんだ?」

動く事を忘れていたように止まっていた武の唇がゆっくりと開いた。
何、と言われても。私は肩をすかせて、けれど口元には隠しきれなかった笑みがどうしてもこぼれてしまう。

「悪い冗談やめろよ、ツナは」
「嘘じゃないよ。ツナは修業から帰ってきたの」

昨日の出来事が鮮明に浮かぶ。そう、私はツナに会った。
突然居なくなり、次にその顔を見たのは棺桶の中で眠る姿。実感すら湧かなくて放心状態でいた私の元に現れた人物は、紛れもなくツナだった。

「修業?」
「うん。リボーンにね、ボスになったからって調子乗んなって、いきなり修業に連れ出されたって」

リボーンの言った「ツナが死んだ」なんて事、やっぱり無かった。
棺の中にいたのはツナそっくりな人形とかで、そんなの悪い冗談だったんだ。だってツナはちゃんと帰ってきたんだもの。リボーンの話だって、聞いた途端真っ青になって否定したんだよ?私はちゃんとこの目で見た。ツナは死んでなんかない。ねえ、そうでしょう?
また昨日の内に修業に戻っちゃったけど……ちゃんと、また帰ってくるって約束したもの。

自信満々に言った私に、武は先程より顔色を青くさせていた。

「昨日……?」
「昨日だけど?」

なあに、辛気臭い顔して。いつもみたいに「そっか」って笑わないの?ツナが生きてたんだよ。
依泉、と私の名前を呼ぶ武の

「ツナが死んだのは、1週間前だぜ?」

言ってる意味が分からなかった。

「何言ってるの?リボーンが悪戯したのは昨日でしょ?武こそ、変な冗談……」
「依泉!」

言わないで、と続く筈の言葉は武の怒鳴るような声と剣幕に喉から出る事も叶わなかった。自分の記憶を私に話すと言って、武はゆっくり話し出す。

「ツナは1週間前に死んだ」
「っ……だから、」

そして、と反論しようとしていた私の名前をやけに重々しく、やけに勿体振って口にした武。彼の次の台詞に、私は魂が抜け落ちたようにぴったりと固まりついた。

「お前はその日、精神的ショックで倒れこんだ」
「…………え?」
「丸1日経っても眠ったままの依泉を、日替わりで皆が様子見に来て……」

目を醒ます今日まで、1週間を依泉は眠ったままで過ごした。
そう言って、武は説明を終えた。混乱する頭は中々働いてくれない。やっとの事で絞り出した言葉は、うその2文字。

「嘘じゃねぇよ。依泉は丸1週間眠ってたんだぜ?」
「うそ……うそだ!だってそれじゃあ、私の前に現れたツナは?なんだって言うの!」

八つ当たりにしかならない言葉をぶつけた私を見る事もなく、武は冷静に呟く。

「……夢だったのかもな」
「ゆ……め?」

さっきまで鮮明だった昨日の記憶は、いつの間にか霧に隠れたかのように薄れ見えなくなっていた。記憶が過去になってしまう。違う。それはただの夢で、記憶ですら無かったんだ。後に残るものは、何もない。
いやだ。やめて。お願いだから、消えないで。自然と流れるのは、武の言葉を肯定するような涙。

「依泉、」

ぽろぽろぽろぽろ。溢れ出る涙を止めようともせず、薄れた記憶を思い出そうと躍起になる。
だってツナ、笑いかけてくれたじゃない。また暫く修行しなきゃいけないけどってツナ、私に……

「絶対帰ってくるから、依泉も生きててって」

あれは全部嘘だった?全部、夢?
もう現実では会えないの?

「言ったのにっ」

本当に、私を置いて死んじゃったの?


夢と現つの幻想曲

現実なんて要らないから、だからどうかツナを帰して。


執筆2007.09.15.sat
修正2009.04.01.wed

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