「最近綱吉、その話ばっかり」

午後のティータイム。久々の余裕ができたらしい綱吉に誘われて、私は彼の部屋でお茶をいただく事となった。嗜好の似ている私達には共通したお気に入りのメーカーがあり、二人で茶会を開く事になれば必ずそれを用いる。
大好きな香りが鼻を刺激して、私は手持ちの書類を手近な机に置いて席へ着いた。
この時私は長閑かで平和な世界の住人となり、マフィアとは無関係な一人の女の子となる。小さなテーブルを挟んだ向こう側にいるのもマフィアのボスでなく、ただ普通の男の子だ。

さて、美味しい紅茶を頂いてご満悦だった私に、綱吉が持ち掛けた話は1週間程前に観た映画の事だった。学生時代の旧友が初主演に選ばれたもので、その映画を見てからというもの綱吉はもっぱらその子の話ばかりだった。私もそんな友達を誇らしく思いはするけど、だからって他の女の子の話ばかりっていうのはいい気分ではないし、いい加減退屈だ。
というか、少々彼は彼女を褒め過ぎではないだろうか。綺麗とか演技が巧いとか。確かに事実ではあるけれど。

「なに。妬いちゃったりした?」

ニヤニヤ。そんな言葉が似合う顔をして緩んだ口元に弧を描く綱吉。癇に障る言葉を言われたものの表情に出さずもう一度紅茶を含む。ガチャンと音を立ててカップを置いたのはわざとである。

「何の話?」
「はぐらかさなくて良いから、」
「妬いた」

あぁあ言ってしまった。言うのが予想外だったのだろう、驚いた顔をした綱吉が固まりつく。少し、と小さく付け足してから彼が動きを取り戻すまで暫しかかった。



「はー。やっとツッコんでくれて良かったよ」

職務再開の時間がそろそろ迫ってきている。そう思い食器を片付けているとようやく綱吉が復活した。伸びをして背筋を正す。もうさすがにネタ切れだったから助かったなんてまさか、私がこうして嫉妬してツッコむのをずっと待っていた訳?あの子への誉め言葉なんかを必死に考えて?

「そうだよ」

テーブルの脇から持ってきた書類を取る。にこりと笑った綱吉と流し台に適当に置いた食器達を放って、私は部屋を荒々しく飛び出すのであった。


You win!

2010.02.12.fri

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