過去から10年バズーカで飛ばされてきたツナと隼人。守護者探しから帰ってきた2人はボロボロで、行動を共にしていたはずの武も、連れ帰ってきた京子達も10年前の姿に戻ってしまっていた。
「こんな所にいたら……みんな殺されちゃうよ!」
意識不明だったツナが目を醒ました。
病室の前を通った時に聞こえた悲痛な叫びに入室を断念した私は、それだけを自分に言い聞かせ、気付けば森の中に足を踏み入れていた。アジトにいるのがこれ程苦痛だなんて思いもしなかった。過去の皆が交わす会話はどんどん私を孤立させていく。
『はひ?この女性は誰ですか?』
『えぇっ!オレの……こっ恋人ぉ!?』
私は彼らを知っているのに、彼らは私を知らない。皆から問い掛けられる“誰?”の言葉。
前はツナがいて、武がいて、隼人がいて……ファミリー皆が笑いかけてくれた。毎日が幸せと思える日々。家なんかにいるよりずっとずっと暖かい気持ちになれたのに……今私の気持ちを察してくれるのなんて、勘の鋭いリボーンくらいだろう。
『平和な並盛に帰りたいです!』
「私だって……できるものなら帰りたいよ」
まだ何も知らない10年前。平々凡々が当たり前の毎日に、少しで良いから戻りたい。そう思って溜め息を溢す事くらいは許されても良いはずだ。
何故なら所詮それは無理な話で。10年前並盛にすら居なかった私は当然ただの一般人として暮らしていて、そんな私に10年バズーカが撃たれるなんて可能性は皆無。一欠片の希望も寄せる余地はないのだから。
「ツナ、」
無意味にひたすら歩を進めていた足は、どういう訳か気付けばツナの棺の前まで私を連れてきていた。
綺麗なボンゴレの紋章の入った棺桶はしっかりと蓋を閉ざしているけど、私が思うに、多分その中は花の山のみ。
10年前から来た君の代わりに、何処かへ行っちゃったんでしょう?
そんな事をボンヤリ考える私は偉く滑稽だったかも知れない。
棺の前に腰を下ろして木々を見上げれば、その隙間から覗く空が酷く青々と広がっていた。とても綺麗な青空。
あの日も今日と同じように空が広がっていた。真っ青な快晴の日、それが人の、大切な人の命の断たれる日だなんて夢にも思わなかった。
でも、もういない。
「……ねぇ、ツナ」
貴方は今何処で、どうしていますか?この世界のどこかにはちゃんといますか?
もう一度その声が聴けますか?もう一度その微笑みを向けてくれますか?
もし私がこの残酷な世界を、少しでも変える事ができたなら。
「答えてよ……ねえ?」
戻ってきて
また抱き締めてよ
また仕事抜け出して
のんびりお茶して、笑いあって……
私の叶いはしない願望は結果ただただ涙を生み出すだけ。弱い弱い私は、それでも一時足りとも忘れられない。
逢いたい、なんて何度願った事か。
「ツナ……っ」
「……え?」
私の呟きに帰ってきた声。それは正しく聞き慣れたツナの声だった。そして咄嗟に振り返った先にいたのもツナ。木陰からゆっくりと歩み寄る彼は当然と言えば当然だけれど、10年前の姿だった。
「あぁああのっ!リボーンが此処にいるって教えてくれて!」
あたふたとその場を取り繕うように話し出したツナは瞳をあらぬ方向に向けている事からも分かるように、あの初対面と言い決して私に慣れてなどいないだろうに。
「その……あんまり外に出ちゃ、危ないですよ?」
その一つ一つの言葉からは嫌味なんて欠片も感じられない。あるのはただ純粋に仲間を想う気持ちだった。
この世界に慣れないツナの方が、私なんかよりずっと危険だなんて気付いてもいないのかも知れない。
「心配して……きてくれたの?」
「そ、そりゃ仲間なんだし……っ!」
昔も今も、貴方は本当に変わらない。その優しさも、芯の通った強さも。
微かに高ぶった感情を、私はツナを抱きしめる事で隠した。
「なっ、え、依泉さん……っ!?」
戸惑うツナを直ぐ様離して誤魔化すように笑えば、彼は真っ赤になっていた。
「ツナ、勝ってね」
そうだ。いつまでも皆の優しさに付け入ってくよくよなんてしてられない。ツナの為仲間の為、私もそろそろ覚悟を決めて前へ進まなくちゃ。
「、はい!必ず」
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