仲の良い友達はそれなりにいた。兄弟をからかわれた事はあってもいじめられた事はなかった。特別な病気にかかる事もなく、学校はちゃんと行っていたし、授業中だって話を聞いていなくても居眠りをした事まではなかった。
最初の親友と言えば綱吉と答えるだろうし、お互いどちらかが悲しいと訳が分からずとももう一人も悲しくなったりして、支え合って生きてきた私達はある意味運命共同体なんだろう。
そんな綱吉は中学に入って初恋をした。私は綱吉が好きになる子ならと相手も知らずに応援をした。そんな私は、今。



「ここはどこ」

赤い赤い空の下、私は途方に暮れていた。今日は買い物に来たのだ。町外れにある、いわゆる穴場の客足の緩い一帯。その中でも一際孤立した場所にある一件の雑貨屋の前で、紙袋の類いを両手に持って私は立ち尽くしてしまっていた。

以前友達に教えてもらったこの場所は私にとってもすぐにお気に入りスポットとなった。けれど一度来たからと言って、方向音痴が再び行って帰ってくるには少しばかり難易度が高い道のりだったようだ。どちらへ進めば良いのか、右も左も見覚えのあるようなないような風景で分からない。
いや、この場合行きは難なく来れた事についてを、むしろ称賛されるべきではないだろうか。なんて事を言ってみるけれど、さて、どうしたものか。

「網ではないか!」





「助かりました」

私は一つそっと安堵の息を漏らした。
なんと運の良い事か。ランニング中の先輩こと笹川了平が、偶然私の前を通りかかったのだ。こんなところでどうしたかと首を傾げる笹川先輩に事情を話せば、親切にも見知った道まで同行してもらえるとの事だった。荷物もそこまで量がある訳でもないのに、俺が持つと張り切る先輩に取り上げられた。

「なんか、前にもありましたよねこんな事」

苦笑しながら記憶を呼び出す。そう、確か初対面の話だ。入学式の日に校舎内で道に迷った私に助け船を寄越してくれたのが笹川先輩だった。
勿論今は校舎の大部分を記憶している。方向音痴の代わりに必死に培ってきた記憶力はそれなりのものだ。あれからもう随分と経ったもので、懐かしいなんて思えるほど。けれど学校の見取り図を必死に暗記したって、私はこうして変わらず、結局別な場所で先輩の手を煩わせてしまっている。
申し訳なさからすみませんと謝罪をすれば、先輩は何でもないように笑った。

「気にするな。俺も帰り道だったからな!」

がしがしと、笹川先輩に撫でると言えるかは果たして謎だが、がさつな力の込め具合で私は頭を撫で回された。
途端身体が強張り、全身の血液が循環のスピードを早める。手の置かれた頭には血が著しく集まっているんじゃないかと言うほど熱さを覚えた。

あれ?おかしいな。呼吸を苦しくさせた心臓は最も簡単に表せばどきどきと高鳴っている。その感覚は何となく知っている。
例えば、もしかしたら、まさか……

「……ッ!」

辿り着いた答えに肯定するように、かぁっと心臓がその速度をまた早める。隣で笹川先輩が何か言っているのでさえBGMとなり得る程に私は動揺していた。

私はもしかしたら、笹川先輩の事を好きなのかもしれない。


2009.12.31.thu

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