空は青空、日本晴れだ。普段の練習の成果を発揮し実力を試す時。それが今日から始まる、皆が待ち構えていた夏のボクシング大会中学生の部だ。

「勝ち負けなど構わん、俺達並中ボクシング部初の晴れ舞台だ。正々堂々全力を出し切れ!その上に勝ち取った勝利こそが極限に意味を成すのだぞ!いいか、必ず勝て!」

我が部の救世主、笹川了平による小演説。台詞の前後で丸っきり言っている事が変わっている事を、思っていようとわざわざ声にしてツッコむ者は最早部員内にはいない。
そもそも負ける気で今日を迎えた者などこの中にはいないのだからそれも当然だ。それはマネージャーの網にも同じで、仲間が勝つ事を信じて疑ったりなどしなかった。


その期待通り並中は試合に勝ち続けた。地区大会の予選とは言え、長らく廃部同然だったボクシング部の見事なまでの復興にその会場にはギャラリーもそこそこ、多忙であろう学校長までも顔を覗かせていた。その中には勿論笹川京子や沢田綱吉もおり、更には山本武や獄寺隼人なども観戦していた。

順調な滑り出しをし、遂に試合も残す所最後の一試合のみ。これに勝てば市町村ではなく、今度は都道府県を相手にした本選トーナメントが待ち構えている。その運命別つ最終戦のリング上には、並中生が立っていた。3年生同士の餞試合。恨みっこなしの一本試合だ。
相手はこの地区の優勝トロフィーをここ数年独占している強豪校。
両者声援すら負けず劣らず、堂々と向かい合い佇む姿からはどちらが勝っても可笑しくないとすら思わせる。

「並中ーファイッオー!」

「ななななんかきき緊張するね!」
「網はし過ぎだよ」
「円陣楽しそーなのな!」
「関係ねーぞ野球バカ!」

客席で他愛ない会話が繰り広げられた頃、ゴァンと重いゴングの音が鳴り響き会場が沸いた。
同時に動き出した両者は素人目に見てもやはりある程度実力を持っている事は分かる。フットワークに身を任せ、自慢の拳を交える。良い勝負かと思われたが、ほんの僅かな隙をついて優劣勢が違えた。一度できた流れは早々変える事ができず、そのまま決着がついた。場外が歓喜や興奮に包まれる中、一部温度差があったのは他でもない、並中に関わる人達だった。


「嘘……負けた?」

少しの沈黙の後ぽつり呟いたのは網だ。そんな少女に周囲が声をかけようとするより早く、ぽかんとしていた表情はキッと強くなり彼女はリングの傍へと走り出して行った。
その険しい表情に何事かと思う者もいたが、次に網のした行動と言えばリングから降りようとする意気消沈した先輩に笑顔で汗ふきタオルを差し伸べる事だった。

励ます者、励まされる者、男泣きする者。こう言ってはなんだが、これは相手が悪かったと言うべき試合だった。部員数の関係とは言え、廃部寸前だった部活としては好成績。本人達にとっては納得のいかなかったとしても、初出場とも復活戦とも言うべき今大会で最強とされるチームを相手にした敗けは栄誉あるものだった。
こうして煮え切らない気持ちの下、並盛中学ボクシング部の夏は幕を閉じたのだった。


‐‐‐‐‐‐
気付いた方がいれば楽しいなという事で、冒頭ちょっぴり運動会の歌を意識。
お兄さんに個人戦をさせたら負けるはずないと思うので、まさかのチーム戦になりましたすみません。

一番進行方向に迷った話でした。が、次回、予定じゃラストになります。

2010.08.06.fri

|


OOPARTS