「へぇ、先輩って妹いたんだ」

昼休み。心地好い風が頬を撫でては弄ぶように髪を揺らす。
現在地は屋上。久々に綱吉と二人兄妹団欒な昼食時間は思いの外盛り上がる。というより、その内容の鮮度が大きいのかも知れない。それは昨日の放課後発覚した、思わぬ共通点だった笹川先輩の事だ。そこから点々と移り変わり、今は双子の兄である綱吉の恋の話であるが。
クラスが違うせいで顔も知らないその相手は、どうやら笹川先輩の妹さんで、私と同学年の笹川京子という人物らしい。

「知らなかったの?」
「だって、先輩って基本ボクシングの話しかしないんだよ。私の事は聞いてきたりするけど」
「……お兄さんらしい」

お母さんお手製弁当をつついて綱吉が苦笑する。ちなみに今日のメインは唐揚げで、勿論だが私のお弁当にも同じおかずが敷き詰められている。

「あ、綱吉ってば先輩の事お兄さんなんて呼んでるんだ。妹さんと付き合う気満々だね!」
「う……っうるさいな。良いだろ別に!」

何気ない発言をからかってやれば、綱吉は恋する乙女のように頬を染めた。うんうん、綱吉ってば初々しい事この上ない。

「それにしても、笹川先輩の妹ってどんな人だろう!」
「どんなってそりゃ京子ちゃんは……」
「まず優しくってでも人の話聞かなくて、運動部所属。熱血漢で口癖は極げ……」
「いやおかしいから!」

鋭いツッコミが繰り出される。私の思想の中の“京子ちゃん”は呆気なく綱吉の言葉に掻き消えてしまった。

「……違った?」
「違い過ぎる!京子ちゃんに失礼だろ!」
「だって……ん?」

何だろう。ふと頭に過るその名前は、やけに耳に残ってしまう。そういえば京子ってどこかで……

「ねえ綱吉!お願いがあるんだけど」

はたと動きを止めた私の様子を怪訝そうに窺うように声をかけられた。けれどそんなのはどうだって良い。
私が握り拳を勢いよく振るうのを見て、綱吉は顔を引くつかせた。

「一応聞くけど、……気乗りしないんだけど」
「うん。あのね、私もその子と仲良くなりたい!」

突拍子もない思いつきの様な発言の翌日。私のちょっとしたわがままは、どうしてだか綱吉と笹川先輩の2人の協力の下叶えられる事となるのだけど。
その時の綱吉の驚きようから、どうやれば話がそこまで高速で進められたのかなんてその現場を見ていない私は知る由もなかった。


2009.09.12.sun

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