沢田網:オレと違って成績や運動神経なんかも平均並みで、人を引き付けられる双子の妹。
笹川京子:中学に入って一目惚れした(現在進行形)学園アイドル。
笹川了平:京子ちゃんの兄にしてオレの妹を気に入ってた様子の熱血漢で極限。

そんな中で誰より平凡、……いや、それ以下で何をしても上手くいかない。それがオレ、沢田綱吉。
こんな少し風変わりな組み合わせが揃ってしまい、あまつさえその関係を続けていたせいかもしれない。オレは、オレだけは気付いてしまった。オレの初恋の相手にして、並盛マドンナ笹川京子ちゃん。
彼女は、黒い。



バタバタバタン!比較的静かだった我が家に突然荒々しい足音が響き渡る。
2階へ上がってきた音の主は、その足でオレの部屋の戸を無遠慮に開けて入ってきた。まるで風か何かのようだ、なんて少し苦笑いをして思う。

「ただいま!」
「網、ノックくらいしろって!」

普段からそう言ってうるさい癖に、都合の良い事に自分はしないなんて本末転倒もいい所だ。
しかしその本人は平然とした態度で男女の差だと言った。挙げ句に「やましい事なんてないでしょ」と開き直りを見せるものだから、そろそろオレは怒っても良いかもしれない。

「どうせまた宿題もせずにマンガ読むかゲームしてたかのどっちかなんだから」
「な……そうだけど」
「ほら、単純なんだ綱吉!」

何故か得意気の顔をした網だけど、そんな事は今更過ぎてツッコむ気も起きやしない。オレはもう読み飽きた漫画を閉じて、適当に机の方へ放っぽった。

「……それで?」
「あぁ、そうだ。綱吉にお土産!」

何か用があるんだろうと視線を送れば、嬉々とした様子の網は真っ白な箱を目の前の机にちょこんと置いた。それはオレにとってももう見慣れてしまったもので、中身はチョコレートケーキとみた。けれどそれがおかしい。何故なら今日は

「あれ……今日は京子ちゃんにケーキ屋連れてってもらうって言ってなかった?」

友達に店の紹介をしてもらって、いつもの店で買い物を済ませるなんて“変”な筈だ。違う店のケーキを持って帰ってくるのが普通だろう。そう思い聞けば、たった今机を隔て腰を下ろしたばかりの網が、それがさ!と声を大にし身を乗り出した。

「なんと京子ちゃんのお気に入りの店ね、私の行きつけの店の事だったの!」
「へぇ……」

偶然ってあるもんだなぁとしみじみ考えていたオレに対して、網は「これって運命?」と聞いてきた。どんな運命!?

さて、ここで冒頭の流れを思い出して頂きたい。この時のオレにとって、京子ちゃんは憧れで初恋の相手。その無邪気な笑顔で皆を魅了する姿は正に並中アイドルに相応しい。それだけだった。
それが変わったのは、その翌日の昼休みの事。ちょうど鞄から弁当を取り出した時、オレの机に影がかかった。見上げた先にいたのは……


「ツナ君!」
「えっ、きょ……京子ちゃん?」

どきり、と心臓が跳ねる。話があるんだけど、今良いかな?と首を傾げる京子ちゃんに、オレの答えは勿論決まっている。4限の途中に腹減って死にそうなんて考えてた奴は何処のどいつだ。

「良かった!ここじゃ話し辛いから、校舎裏でも行こ?」

京子ちゃんはこのアンバランスな組み合わせに集まる、周りの視線を気にする素振りを見せた。
ええぇっ!何この展開!?これはまままさか告は…………



「お兄ちゃんがね、網ちゃんの事好きみたいなの!」

オレの淡い淡い期待はお約束のように打ち砕かれた。まぁ……そりゃそうだよね。大丈夫、本気で期待した訳じゃない。
自分を慰めるのも程々に、大人しく京子ちゃんの話の聞き手に徹する事にした。

「そ……それで?」
「私もね、恋愛感情ではないけど網ちゃんが大好きなの」
「……うん」

話がよく見えない。何が言いたいのか、今一判らない。するとそれを察したように、京子ちゃんは「兄として網ちゃんの事気にならない?」と問うた。

「まぁ……危なっかしいとは思うけど」
「でしょ?だからね、ツナ君に協力してほしいの」
「え?」
「私達でお兄ちゃんの恋愛を阻止しよう!」
「…………は?」

京子ちゃんの申し出は予想外にも程があった。だって今の流れは心優しい京子ちゃんでなくても、兄の恋愛が成就する事を喜ぶべきだろうに。なのにまさか、阻止なんて言葉が出てくるなんて。
一応聞いてみる。応援しないの?と。

「やだ、ツナ君ったら。あの熱血漢で人の話を聞かないボクシング馬鹿に、網ちゃんを幸せにできるなんて到底思えないから言ってるんじゃない」

あれ。京子ちゃんの雰囲気がおかしい。そんな事を考え始めたのはやっとと言った所で、決定的に「ボクシング馬鹿」なんて言葉が出たんだから気付かなければおかしい位だった。
そのせいか「それもそうだね!」と同意もできなければ京子ちゃんにどうしたのかと聞く事も戸惑わされる。

「だから手伝ってほしいの。網ちゃんの事でならツナ君が一番使えるもの」

何かおかしいなんてものじゃない、確実におかしい。天使の笑顔は変わらないのに、それにはとても台詞と雰囲気が釣り合わない。なんて言うかオーラ的なものが黒く漂ってる感じだ。なんて、考えてハッとしたオレはやっぱり馬鹿だ。

「勿論やってくれるよね?」

気付いてしまったのはオレにとっちゃ不可抗力であって、願わくは気付きたくなかったなぁと思うのは今回ばかりは仕方ない。

「ねっ、ツナ君!」
「…………はい」

何がってそりゃあ、可愛いあの子は真っ黒でしたって事。
あぁ……お兄さんとか、知ってるのかな。

「そうだ。今話した事と私の事、口外したらどうなるか分かるよね!」

オレは今度こそ登校拒否になるかも知れない、と本気で思った。
この分じゃオレの初恋は自然消滅の予感。


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書いたのが昔なものでノリがどうしても古っぽくなってしまいます。

2009.09.29.tue

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