なんだろう、この状況は。

オレは今京子ちゃんとボクシング部部室前を監視している。二人の視線の合致する場所には、ポツンと一人佇む網がいる。どうやらお兄さんに呼び出され、ここで待っているらしい。

「良いのかな……盗み聞きなんてして」
「何言ってるのツナ君!網ちゃんの事心配じゃないの?」

そりゃあ心配だけど、と言い終わりもしない内に京子ちゃんは「じゃあ気付かれないように静かにしててね」と網の方に向き直った。オレは呼吸よりも少し大袈裟な息を吐いてみてはこの遣る瀬無さを誤魔化した。
「お兄ちゃんったら、網ちゃんは私のものなのに!」といつものふわふわした雰囲気でなく、若干恐ろしいオーラを放つ京子ちゃんに冷や汗が流れた。京子ちゃんの黒さに気付かされたのはまだ記憶に新しい。
網が心配ではあるけれど、だからと言ってそれが盗み聞きをして良い口実にはならない……と思う。やっぱりやめよう、と京子ちゃんに声をかけたのだが。

「あ、お兄ちゃん来たよ」


タイミングを完璧に逃してしまったらしい。網だけならまだしも、二人に気付かれずこの場を去るなんて先ず不可能だ。
ああ、もうどうにでもなれ。

「あの、笹川先輩。話って何ですか?」
「うむ。その事だが網、今から言う事を極限真面目に聞いてくれ!」

何て言うか、妹が告白されるのを隠れてコソコソ見てるなんて変な感じ!

「俺は網の事が……!」
「網ちゃんっ!」

緊張の一瞬は京子ちゃんの出現によって打ち砕かれた。途端に驚くのは勿論、オレだけでなく網達も同じだ。

「京子ちゃん?」
「ちょ、京子ちゃん、出ちゃダメだって!」
「綱吉まで何してんの?」
「え!?いや……」

二人を影から見てただなんて口が滑っても言えやしない!
空気を読まない網はオレと京子ちゃんが一緒にいたのを気にしたようだが、実際は全く見当違いで気にするべきは自分な事を、本人は微塵も気付かない。そんな事を考えていれば、目の前の網の手をぎゅっと握る人物が一人。言わずもがな京子ちゃんだ。

「私達、友達だよね?」

勿論だよ!と吃りながらも返す網を京子ちゃんは上目線で見ていたりするんだけど、そこはさすが並中アイドル。その視線に射抜かれたのは網一人じゃない。

「嬉しいっ!」

満面の笑みで京子ちゃんは網に抱き付き、抱き付かれた網は絶句する。

「ちょ……えっ、京子ちゃ……ダメ!そんな事したら私の体型が学校のアイドルに分かっちゃうぅ!」
「何言ってんの網!?」
「網ちゃん、カワイイ!」
「きょきょきょ京子ちゃぁん……っ!」
「極限にタイミングを逃したぞー!」

さっきまで静かだった(どうやら状況把握に今までかかっていたらしい)獣のような雄叫びが響いた。
嗚呼今日も、騒々しい日々が続いている。オレはもう一度、何に対してなのか溜め息をついた。


2009.10.08.thu

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