「佳主馬君、あれはいくらなんでも言い過ぎだと思う。泣いてたの、見なくても分かったよね」
「うるさいな、じゃあなんでここにいるの。それならお兄さんが迎えに行ってあげれば?あの子極端な方向音痴でしょ。何も考えず飛び出してったから、多分また迷うよ。僕はまだコイツを倒さないといけないんだから。ほら、アバター食って身なりも変わってるし、放っといたら何しでかすか分からない。こんなの僕が倒すしかないでしょ。それに螢が泣いた一番の理由ってアバター食われた事なんだから、機会があるならまずそれ取り返さないで何するって言うのさ。アバター盗られたショックで泣いてんのに慰めに行って取り返せなかったなんて本末転倒もいいとこ」

納戸にはキーボードを叩く音ばかりが静かに響く。螢の去った後の開けっ放しの扉を暫しの間見つめてからゆっくりと振り向く。キッと佳主馬君の目付きがさっきよりも鋭くなっていた事を冷静になって見てようやく気付く。少し、驚いた。

「……佳主馬君ってさ」
「なに」
「思ったより喋るんだね」
「…………はぁっ?」

何を、こんな時にと思っているかもしれない。佳主馬の素っ頓狂な声に思わず漏れたのは苦笑だ。

「あれ、無自覚なんだ?さっきの焦って喋ってたんじゃないよね。螢の事、僕が思うより大事に思ってくれてるんだ」
「何言ってんのお兄さん、大丈夫?大事にって、なに」
「佳主馬君は、螢のこと好きなんだよね」
「なっ……はあ!?」
「あはは、反論もできないんだ」
「そっそんな訳が!ないだろ!」

兄として気付いた以上、妹の涙を見た以上、言うべき事はっきりすべき事は言ったし聞けた。スッキリとして余裕の出た僕と裏腹に、図星の佳主馬君にはそんな余裕はなさそうだ。
そう、今螢を追いかけるべきは僕じゃなくて。螢がよく言っていた「ヒーロー」からは多分もう、僕は卒業する時が来たようだ。

「力んでる力んでる」
「僕をからかうな!」
「からかってないよ。からかったりなんかしないから、好きなら好きで螢にちゃんと接してやってね。ほら、僕の妹……鈍いから」
「……そう言うお兄さんもそうなんじゃない」
「あ、よく分かったね?たまに言われる」

残念ながら兄妹揃って鈍いと言われてきたが、僕に至っては運動神経的な意味でもある。いや、行動力があるだけで螢も運動神経は大差ないんだけど。
少しの静寂の後、佳主馬君がぽつりと確認のように言う。

「集中するから話しかけないでね」
「うん」


来たるヒーロー世代交代


2010.09.12.sun

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