昔から暗闇は嫌いだった。
周りは見え辛いし、相手の表情が掴めない。元々良いイメージなんて微塵もなかった闇が本当に嫌いになったのは、私がそこそこ聞き分けられるような年になり、また健兄がそんな私の面倒を見れるようになった頃だろうか。
その頃から両親が家を空ける事が目に見えて増えて、日中家の中がガランとしているのが当たり前になった。それでも健兄はいつも私の傍にいてくれたから、あまり寂しいだとか感じた事はなかった。
けれどそれも限度があったようで、成長していく毎に私の中では疑惑が広がっていった。

小学校に入って4年が過ぎた頃のある日の夜、帰宅してきた両親に私は癇癪を起こした。それはお互いが起きている間に対面したのが実に2週間振りという状況下での事だった。
その時の事はあまり覚えてないけどその時私は2人に向かって「こんなの家族じゃない」と言って泣き叫んだらしい。
酷い話だ。2人は家族の為に毎日寝る間も惜しんで働いているのに、寂しさのあまりとは言えそんな言葉を吐くだなんて。勿論その後、冷静になった私は2人と仲直りをした。

少しの間母さんが家にいようとしてくれていたのもあってか、その後しばらくして過去最高の忙しさを見せた時期があっても、私は2人の仕事を素直に受け入れられるようになっていた。むしろ、自分の両親はそれほど社会で必要とされているんだと感心すらできるようになった事には少し驚いた。

けれど私はあの日から暗闇が苦手になった。1人でいると頭の中が嫌な事でパンクしそうになって、しばらくは健兄と一緒じゃないと安心して眠る事もできなかったくらいだ。
今では勿論暗くたって1人で眠れるし、考え事で眠れないなんて事もない。けれどひとつ嫌な事を思い出すと、当時の記憶の鎖が引っ張り出されてしまう事は稀にある。嫌な予感が嫌な予感を連れてくる。それが今日の酷い自己嫌悪の一因でもあったのかもしれない。
こういう時、いつもその嫌な連鎖を止めてくれるのは健兄で。嫌な顔ひとつせずいつも根気良く丁寧な対応をしてくれる、とてもよくできた兄妹に私は生まれてこの方ずっと頼ってきたのだ。
けれどこの中学1年生の夏休み、私のこれまで築き上げてきた私の中での常識が音を立てて崩れ去ろうとしていた。
この陣内家に関わり、そして、

「螢の事が好きだから」

この少年、池沢佳主馬に出会った事によって。



「……し、」

長く重い沈黙を最初に破ったのは、自分の擦れたような声だった。どうしてこんな事になっているかと言えば、私が会話を途切れさせたからで、それは混乱した頭が理解に追いついていないからで、でもそれは佳主馬君が突然私に告白したからで――……

「っ信じらんない!こんな日に……告白って!」
「螢が鈍すぎるからだよ」

平然と言われて更に頭の中がごちゃごちゃになる。いや、これは佳主馬君の態度とかよりもむしろ、多分、初めて告白なんかされたからそれで混乱してるんだ。
こうなるともう過ぎた時間ですらもそれに結び付けてしまう。あぁなんで私、さっき佳主馬君の胸借りちゃったりしたんだろう!
ぐるぐる回る思考回路は本筋からは一本逸れた道を突っ走っているようで、それだって何の結論も出てはくれない。急展開過ぎて私にはもう既に何が何だか分かりません。


差し出される手は知らない温もり


2011.01.14.fri

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