「妹さんも見つかったところで改めて自己紹介ね」
「ふたりとも、先にしとく?」
「あは……本当に迷惑かけてすみませんでした。4日間よろしくお願いします。中学1年の小磯螢です」
「えっと騒ぎ立てしてすみません。兄の小磯健二です。お世話になります」

きっちりするはずだった挨拶は謝罪に大半が消えた気がするけれど、とりあえず歓迎ムードは伝わってきて一安心だ。というかこの人達の中での私と健兄の解釈は多分面白い兄妹、だ。
次に陣内家の血統の方々の紹介だが、なんせ人数が多くてとても今すぐには覚えきれない。しかも、これで全員じゃないときた。後になってもう一度聞くのも失礼だし、もらった紙に今の内に特徴メモしとこうかな、と私が考えていると、隣で健兄が首を傾げた。

「あれ、さっき納戸に男の子がいたんですけど……ほら、なんて言ってたっけ?」
「佳主馬君のこと?」
「そう、その子」
「あぁ、それうちの子だわ。ごめんなさいね、こういう席苦手みたいなの」

そう言ったのは外見から落ち着いたママさんなイメージのする、名前は確か池沢聖美さん。って事は佳主馬君の苗字は陣内じゃないんだと変な関心をする。聖美さんはお腹が大きくて、つまりはもうすぐ佳主馬君ってお兄ちゃんになるんだなぁとぼんやり考える。生まれてくる子はさっき聞いた話では女の子、佳主馬君も健兄みたいな感じになるのかな。

「でもさっき、用事があるからって言ってましたよ?」
「え、さっきって?」
「私が迷子の時、佳主馬君と偶然会ったの。そこの角まで案内してくれたんだけど、用事あるからってどっか行っちゃった」

どっちが本当の理由なのかな?両方?そう思って出した言葉はなんだか予想外に反応を示され、聖美さんが意外そうに「あら、そうなの?」と瞬きをして、派手目の女性、多分直美さんと言った人が意味深に「へぇーあの佳主馬がねえ?」と笑った。





「あぁー楽しかったねえ!」

夕飯を終え、片付けもそれなりに手伝って。今日は遠くから来て、色々疲れたでしょうと適当に切り上げさせてもらう。庭先で健兄と偶然再会し、今に至る。

「食事って大勢でするとあんなに賑やかなんだね。小学校の給食の時間みたいだった」
「うん」
「……健兄?どうかした?」
「いや、ちょっと佐久間に電話してくる」
「じゃあ私その辺散歩しとこ」
「あんまり遠く行くなよ、迷うぞ」
「はーい」

ちょっと健兄の様子が変だ。もしかして、佐久間君今から叱られるんじゃ?……まさかね。



「あれ、健兄どこ行ったんだろ?」

少しの後健兄と別れた場所へ戻ると、そこには誰もいなかった。まぁ、でもその辺りはさっきまで宴会状態だったから誰か人はいるはず。てくてくと気ままに歩いていると、間もなく予想通り聞こえてきた人の声。何だか楽しそうだ。この声、夏希先輩?

「夏希先輩ーあれ?」

誰かと話しているのは分かっていたけど、夏希先輩といるのは健兄と、見覚えない男の人だった。さっきまでの食事の席に、こんな人はいなかった。

「ん?婿さん以外にも客か?」
「あ、螢ちゃん。この人、侘助おじさん。ずっと海外にいてさっき10年振りに帰ってきたの」
「はじめまして、夏希先輩の後輩でそこの健兄の妹の小磯螢です」

あれ?おかしいな。なんだか随分よそよそしい挨拶になっちゃった。なんだろう、なにか違う。空気がピリピリしてるように感じるのは気のせい?夏希先輩は楽しそうだけど、さっきまで宴会してたにしては静かすぎない?

「夏希、あとは婿さんとやんな」
「あ、僕まだルールが……」
「ねぇ、いつまでいるの?」

あ。あら……あららららー行っちゃった。縁側を離れたその人に、磁力で引き寄せられていくように夏希先輩が着いて行ってしまった。
健兄、親戚のおじさんに負けてる。落ち込んでる。これ、夏希先輩も良いのかな?いくら10年振りって言っても、この態度じゃ偽装恋人の事バレたりしない?うーん、とりあえず言っとこ。

「頑張れ、健兄」



その日はやっぱり早めに部屋に戻った。兄妹で隣同士の部屋をひとつずつ与えられて、一人になった途端いい感じに睡魔が襲ってきた。さて寝よう、と布団に潜ったのに、見計らったようなタイミングで携帯電話がメールの受信を知らせた。

「んー……こんな時間に誰?」

と言っても普段ならまだ眠らない時間なので、普通に友達からメールが来てもおかしくはない。しかしそれは普通のメールでなく、OZを経由したもので、だったら少しは時間を考えてほしいかも、と思ったのは仕方がない。緊急だったらいけないので、見ておきますけども。

「題名Solve Meってなんか、不躾だなあ」

本文を見るとそれは数字の羅列が画面いっぱいに、それでも暫くスクロールの必要なほどびっしりと表示されていたけど、最後の行まで辿り着くよりも先に睡魔に負けてしまった。意識が落ちようとする中で、隣の部屋から聞き覚えのある紙とペンの擦れる音がし始めた事は記憶にない。


大事件がはじまりを告げる音


2010.09.12.sun

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