遮るものがひとつとしてない青い空、その上に伸びるわたあめみたいな白い雲、小鳥の囀り、遠く聞こえる元気な子ども達の声、そして鮮やかに花を咲かせる庭の朝顔。

「うーん、良い朝だねえ」

縁側でぐんと体を伸ばす。昨日就寝が早かったからか、2日連続の早起きだ。まだ時刻は6時を過ぎたところで、兄に割り当てられた隣の部屋からは物音ひとつしない。まだ寝ているんだろうと思う。別に起こす必要もないので、布団を片付け身仕度を整えて部屋を出る。
散策開始だ。迷子の心配はしないでおく。そんな事をしていれば身動きが取れなくなるし、辿り着く事に関してはダメでも、戻る事くらいはできる……多分。ゆっくり考えて歩いていたら、道は覚えられるもんね。

「――あ」

庭を歩いていると朝顔に水やりをする人影を発見。あの後ろ姿は、大おばあちゃんだ。柴犬のハヤテもいる。挨拶の為に特に迷いもなく話しかけると、大おばあちゃんは少し驚いたように振り向いて、すぐににっこりと人当たりの好い笑顔を見せた。

「早いね。昨日はぐっすり眠れたのかい?」
「はい、おかげさまで。いつもは寝坊助なんですけど」

他愛もない会話をしながら、何となく私も一緒に水やりをした。庭の植物はまさか、全部大おばあちゃんが育てていたりするのだろうか?……そんなまさかね。
水やりを終えると私は大おばあちゃんの部屋へと招待された。おもむろに取り出されたのは手の平に乗るほどの小さな箱。

「知ってるかい?花札のルールは」

しっかりとした声の質問に、ようやくそれが何であるかに気付く。
花札。以前、数学以外の自分の価値を見出そうと色々模索していた時に少しだけした事がある。一度も勝った事はないんだけど。それを伝えると大おばあちゃんはにこりとした。ルールを知っていれば上等、とでもいった感じの笑みだ。

勝敗は……まぁ、皆様の思う通りである。
相手をしながら思ったのは、大おばあちゃんにとって花札はきっと相手と仲良くなる為だったり、時には腹を割って話し合ったりする為の最強のアイテムなのだということ。穏やかに話をして、笑いあう、1対1のコミュニケーションツール。

「お前さんは礼儀正しくてよくできた子だね」
「突然押しかけてしまったのでそう言ってもらえると嬉しいです」
「それに健二さんの方もだね。二人ともしゃんとして、優しい子だ。こりゃあ親が良いんだねえ」
「ありがとうございます。私も両親の事は大好きです。そうですね、兄の次くらいですけど」

最近じゃ滅多に顔も合わせない親が世間一般では良い親とされるのかは分からなかったけど、とりあえずは自分の意見を言う。最後は冗談めかして言ってみれば、大おばあちゃんは愉快そうに声をあげて笑った。なんだか、やっぱりこの人は素敵な人なんだ。万人が好きでこの人の傍に集まるような、そんな感じ。

「さ!せっかく早起きしたんだ。子供は朝食まで遊んでおいで」
「え、でも朝食の準備が……」
「そんなのはアンタのする事じゃないさ。子供は元気に遊ぶのが役目、お客様はもてなされるのが役目だよ」

あ、やっぱり血は争えないのかも。昨日の佳主馬君もそんな事言ってたな、確か。言い方に随分差はあるけれど。とりあえず私はその言葉に甘える事にして、のんびりと部屋を出た。

佳主馬君かー。佳主馬君といえば結局あの後どうしたんだろう。見なかったけど、ご飯ちゃんと食べたのかな?用事ってなんだったんだろう。
夏希先輩もあの侘助さんって人が来てから健兄ほっぽってあの人にべったりだったし。それで落ち込む健兄も気になるし。なんだか落ち着かないなあ。なにか忘れてる気がする。
頭を捻ったところでふと、そういえばもう丸一日OZにログインしていない事に気が付く。だから何って事もないけど、朝の日課だったのに。メールとかが溜まっているかもしれない。よし、とりあえずログインだけでもしておく事にしよう。


おはよう、私の分身。


2010.09.12.sun

1 / 1 | |
|


OOPARTS