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此処最近の忙しなかった日々が漸く落ち着いて、久々の休日はゆっくりと寝て過ごす筈だったのに何故だか何時もと変わら無い時間に目が覚めた。



夏とはいえ、少し肌寒くなる夜の気温に寝る寸前に消した冷房機は今も大人しく息を潜めている。早朝とは言え既に汗が滲む位には気温が上がっていて、纒わり付くその暑さを掻き消す様に冷房機のリモコンを無造作に手にしてボタンを押した。





『おはようございます!本日のあさイチ、ゲストは今をときめくアイドルグループWELECTWの皆さんです!』





本来動く筈の冷房機はうんとも言わず、付けるつもりの無かったテレビが騒ぎ出す。予想外の甲高い声と、その口から告げられた名前に思わず眉を顰めた。ただでさえ寝起きで気分が上がらないのに、普段はなんとも思わないテレビの音も今はただ煩わしくて仕方が無い。さっさと冷房機を付け直して二度寝しよう。そう思って再びリモコンの赤いボタンに指を乗せた途端、画面いっぱいに映る端正な顔の男。






『滅多に無いこの機会を乱用させて頂いて…実は私、大ファンなんです!』
『本当ですか?めちゃくちゃ嬉しいなァ、こんな綺麗な人に推して頂いてるなんて』






これからも俺の事応援して下さいね、と女に向けられた笑顔と言葉に思わず鼻で笑ってしまった。


馬鹿馬鹿しい。幾ら想った所で、仕事上の関係でしかないのだ。嬉しいと口にした言葉も本当だとは限らないのに、真に受けて喜ぶ女の顔は素直に喜んでいる様に見える。話してるその表情は何処か熱を持っていて、まさに恋する乙女と言う表現が正しいような様子だ。もっと現実を見た方がいい、夢見るには遠すぎると言う事に気が付くべきだ。





「そんなテレビの俺が気になる?」





掠れた声と一緒に吐き出された吐息が耳を掠めた。布団の中に埋まっていた腕を俺の身体へと巻き付ければ強制的に抱き寄せられて、距離はゼロになる。悪い起こしたかとテレビから視線を逸らし肩に埋まる頭を見れば、未だ眠たいのか小さい唸り声だけが聞こえた。




そうだ、もっと現実をみた方が良い。




幾ら想いを寄せて、夢を見たとしても叶う事なんて有り得る筈が無い。俺の事を応援してくれと笑っていた男は今、寝起きにも関わらず男である俺を愛おしげに抱き締めているんだ。




「テレビなんかよりも実物の方がいいでしょ」
「好きで見てる訳じゃない」





間違えてテレビを付けたら偶然御前が出ていただけだと口にすれば、埋まっていた顔が上がり視線が交差する。その表情は何処か不満げで、思わず笑ってしまった。




「消太」




手に握っていたリモコンを奪われてテレビの騒音が止むと、名前を呼ばれた。先程までテレビから聞こえていた声とはまた違う、俺しか聞けない声で。



呼ばれた名前に対して言葉は返さず、身体を反転させて奈知の方を向けば満足そうに目元を緩めた後柔らかな感触を唇に押し付けて来た。一切カサついてないその唇に流石アイドルだといつも感心させられる。そんな俺を他所に何度も唇を食べるように口付ける奈知を、俺以外誰も知らない。




それで、いい。




「あーーすげえすき」