やるよ、の一言にきっかけを頂いた、あたしの淡い淡い淡い恋。

「……薔薇?」
「こういう自己主張激しくて無駄に大きい花、君は好きだろうと思ってな」
「や、好きだけどさぁ、何かトゲがあるなー今の言い方。薔薇だけに。ウマい!」
「ウマくない」

日曜日の朝。フクロウ便の波が少し落ち着いた頃。朝食のマフィンで胃袋をいっぱいまで満たしたあたしは大満足で寮に戻ろうと席を立った。
何と言っても日曜日。課題は昨日やっつけたから、今日は1日フリーダム!と意気揚々大広間を出たあたしに声をかけたのが、同じく朝食を終えて寮に帰ろうとするドラコだった。
後ろにいつもの2人はおらず、ふと振り返ってみるとスリザリンのテーブルの端で意気揚々とデザートに手を付けている2人を見つけた。それも、ものすごい勢いで。
うわ、と声を漏らしたあたしの隣で、「あれを見ていると気分が悪くなる」と眉を顰めるドラコ。
その彼の手に、小さな包みと赤い1本の花が握られているのに気付いて、何となしに聞いてみたのだ。
それ何?と。

「今朝届いた菓子箱についてたんだ」
「あーラッピングに使われてた花。ってことはつまりあれか。ゴミか」
「まぁそうだな」
「そっかーどうもありがとうドラコ!ゴミくれて!って畜生!!お花をゴミとかいうなバカ!」
「君が言ったんだろ!」

薔薇を抱きしめて涙目になると、ドラコは馬鹿らしい、と言わんばかりに肩を竦めて先を歩きだしたので、とりあえずあたしもドラコのゴミ 綺麗な帯紅色の薔薇を両手で弄びながら、彼の後に続いて寮へ向った。
朝の太陽を浴びていっぱいに花びらを開かせている薔薇を見ながら、あたしはふと思いついたことをドラコの背中に向かって発した。

「てゆーか、ドラコってあたしの事好きだったんだ?」
「は?」
「だって赤い薔薇だし」
「……だから?」
「え?薔薇の花言葉」

短い会話を繰り返して、それでもドラコは意味が解らん、とでも言うような表情。
あっれ、花言葉って万国共通のものだと思ってた。特に薔薇なんてメジャーな花だし。そんなことを言いながら両手で持った薔薇を口の前でまっすぐ立てて、あたしはドラコに向かってこう言ってやった。

「意味は、I love you. 」
「…………」

あ。ちょっと赤くなった。
無言のままのドラコの頬がほんのり赤くなったのを見て、あたしの心臓が少し騒がしくなる。
ドラコはそのまましばらく黙っていて、あたしも何も言わずにドラコを見つめていた。すると時間が経てば経つほどドラコの顔はどんどん赤くなっていって、あたしは思わず吹き出してしまった。

「あっははは、ドラコ可愛いー」
「……返せ」
「え、うそ、酷」

短い言葉と共に差し出された右手を無視して、あたしは彼の横をすり抜けた。

「おいっ!」
「ちなみに本数にも意味があってね。1本だと一目惚れ。2本だと相思相愛で、3本だとー」
「もういいもういいもういい!」

あたしの声をかき消す程の声量でドラコが叫んで、声が石の廊下に響き渡る。
周りにちらほらいた生徒たちが何事かと振り返ってあたしたちを見る。ドラコもそれに気付いたらしく、少し声を落とすと慌ててあたしの後を追って駆けてきた。
あたしの持っている薔薇を奪おうとドラコが手を伸ばし、あたしはさっとそれを避ける。
彼の眉間にしわが寄ったが、あたしは構わず笑顔を返した。

「あ、帯紅の薔薇はもう一つ意味があってねー」
「だからもういい!早く返せ!」
「えー、つまんない。面白くない」
「面白くなくていいんだ!早く返せ」
「だーめ。これはもうあたしのものですー」
「…………」

右手で薔薇をくるくる回していると、不意にドラコが立ち止った。あたしが振り返ると、ドラコは難しい顔をしてあたしの持った薔薇を見つめている。

「どしたの?」
「そんなに欲しいのか?」
「何を?」
「……僕から、薔薇」
「うん、欲しいよ?」

はっきりきっぱり、あたしがそう言うとドラコが驚いた顔であたしを見た。
薔薇が欲しい、っていうのはつまり、「あいしてる」の言葉を待ってますよ、と言っている様なもので。
ドラコもその意味には気付いたらしく、その表情にさすがのあたしも少し恥ずかしくなった。
でも、これくらいはっきり言わなきゃ、普段のあたしの態度じゃ絶対気付いてもらえないだろうし。そう思って、あたしは真っ直ぐドラコに向き直る。
告白なんてガラじゃないけど、それ以上に、この機を逃すのは絶対勿体ないって思った。

「じゃぁ、今度はあたしからドラコへ」
「は?」
「薔薇。ドラコにあげるよ」
「!!」

ああ、また赤くなった。
今度こそ真っ赤になって言葉をなくしたドラコがあたしを見つめる。まったく。やめてよもう、あたしまで赤くなっちゃう。あたしが誤魔化すように笑うと、ようやく声を取り戻したドラコがう、と唸った。しかしどうやら、それ以外の言葉は出てこないらしい。
普段の余裕や嫌味っぽさなんて全然感じさせないくらい、本気で慌てているんだって解って、あたしはちょっと気分がよかった。

「いらない?」
「ちがっ、……あ、あげるって、それは元々僕のだろう!」
「ドラコがくれたんじゃん。今はあたしのものですー」

目の前に薔薇を突き出すと、ドラコは少し躊躇った後、渋々といった感じで薔薇を受け取る。その行動が思っていた以上に素直で、今度はあたしの方が赤面してしまった。ああ、やばい。あたしもう重症かもしんない。
ドラコが好きで好きで仕方がない。

「……ホントは、I love youとは少し違う意味であげるんだけどね」
「な、何だ違う意味って!」
「そんなに怒んなくてもいいじゃん、恥ずかしいからってもードラコってば可愛いなー」
「おまっ……!」
「っていうかそもそもそれゴミだしねー」
「な……っゴミって言うな馬鹿!」


その後、律儀に枯れ防止の魔法をかけて飾られている薔薇を見て、あたしは思わず彼を抱きしめてしまった。





早くあたしをつかまえて

===2011.11.26