「銀さん!お願いがあるんだけど!!」


駆け込んできた小春さんは、いつものように銀さんの元へ。それが当たり前になっていた。そしてそれが当たり前になっていることが妙に不快だった。
誰かに何かがあると、頼られるのはいつも銀さんで。それは例外なく小春さんにとっても同じで。何かあると助けを求めに来る。
ここへ来てくれる。会いたいと思っている僕からしたらとても嬉しい事だけれど。彼女が会いに来るのはいつだって僕じゃない。
困ったときに頼りになるのも、些細な相談事を持ちかけるのも全て、僕にじゃない。銀さんは、彼女が来るたびに厄介ごと持ち込まれて溜め息をつくけれど。僕にとってはそれですらうらやましく思うんだ。

「新八ー!」

彼女が僕を呼ぶときは、大概暇つぶしの話し相手がほしいとき。
道で100円拾っただとか、今日は占いの結果が最高だとか。嬉しそうに、楽しそうに話してくれる。それだけでも、僕は嬉しくなる。彼女にとっては暇つぶしでも、彼女の話に笑って相槌を打つこの時間を好きになれる。
でも、彼女が頼りにしているのは僕ではない。困ったとき、助けて欲しい時。必要とされるのは僕じゃない。
いつだって頼りにされるのはあの人で、僕はオマケみたいなもので。
確かに僕はあの人ほど強くはないけれど。あの人ほど頼りにはならないけれど。あの人ほど、あなたを安心させる事はできないけれど。
それでも僕は、少しでもあなたの力になりたいと思っているのに。少しでも頼ってくれたら、うれしいのに。
だけどあなたは僕の目の前で些細な事を嬉しそうに話すから。それだけで、マイナスな気持ちは消え失せてしまう。


「新八知ってる?」


いつだって楽しそうに話すあなたを見ているだけでも幸せだと、僕は自分に言い聞かせるんだ。嬉しいことや楽しいことは、いつだって全部話してくれるから。
近くで話を聞けるだけで幸せだと教え込むんだ。そうすると悲しさは少し和らいで、いつものように自然に相槌が打てる。彼女に気付かれる事も、心配をかけることもしたくはない。一緒に笑って話している時間がしあわせで、あぁ僕は本当に彼女のことがすきなんだ、そう思える時間。
力になりたい。けれど彼女がそれを望まないなら僕はここから動かない。彼女が一番望む位置にいてあげると決めた、これが彼女のために僕が出来る全てだから。


「例えば、嬉しい事があったとき」


だから伝わる事もないだろう。あなたが望まない限り僕がこの気持ちを打ち明ける事もないんだから。気持ちが先走って、あなたを傷付けるような事は決してないんです。
この気持ちがあなたより先に立つことなんて。あなたに勝つことなんて決してないんです。情けない話、臆病なだけかもしれないけど。それでも心に決めたんだ。
あなたを傷つけたくは、ないんです。


「それを誰に伝えたいかって、思ったとき」


それでもやっぱりすきだと思う。
誰よりも僕が一番近くにいるのに、頼りにされないのはあの人の背中が大きすぎるから?
彼女の願いを背負うには不釣り合いだと、そう思われているのなら、僕はあまりに情けなくて滑稽だ。わかっていても、それでも好きだと思う僕は、伝えられない僕は更に滑稽だ。
でも滑稽でも何でも、それであなたが満足するのなら。いつも通りに、笑って無意味な会話を続けることが出来るなら、それでもいいと思うんです。
なによりあなたを大切に思うから、僕はあなたに負け続きです。いつも通りに笑って、得意そうに、嬉しそうに話してくれるだけで。いっそ想いなど通じなくても僕は負けなど気にしないんです。
あなたが隣にいるときだけは、この気持ちの行方など、どうでもいいんです。


「最初に頭にうかんだ人が、一番大切な人なんだってさ」


あぁ、それでも結局、僕はあなたには勝てないんです。





 負け戦の恋の時期

===070822