やっぱり、ここにいるのは息が詰まる。この5年間で、何度そう頭の中で繰り返しただろう。その度に零れる溜息は、もう何度目だろうか。
アリアは杖をローブの内側にしまいながらそう考えた。
椅子を引く騒々しい音が耳に響く。隣に座っていた生徒は杖と教科書を片付けながら隣の生徒と騒がしくおしゃべりを始めた。
たった今変身術の授業を終えたマクゴナガル教授は、教壇のデスクの向こう側で名簿を広げて羽ペンを握っている。
窓の向こうに広がる空は鈍い色だが、時々冬の終わりを予感させるような青い空を覗かせていた。雪の季節は終わり、湖の氷は少しずつ溶けだしていく。アリアがぼんやり見つめていた窓と空の間を、鳥が一羽横切っていった。晴れやかに飛び回る鳥が、無性に腹立たしかった。
教室から生徒が粗方出払うと、アリアはようやく自分の鞄を持ち上げて席を立った。マクゴナガルが一瞬視線を上げたが、アリアはその視線に気付かずドアに向かって歩きだす。最後までもたもたと教科書を片付けていたネビル・ロングボトムが躓きながら教室を出ていき、アリアはその後に続いた。
OWL試験まで時間がない。
ホグワーツの5年生は寮に関わらず全員がピリピリした空気を纏っていた。廊下ですれ違う者、大広間や空き教室で教科書を広げる者、談話室でブツブツ呪文を唱えながら羽ペンを走らせる者。誰も彼も眉間にしわを寄せ、楽しそうに談笑する他学年に向かって怒鳴っては、試験のストレスを少しでも発散しようとしていた。
おかげで生徒同士のライバル意識も高まり、その意識が悪い方向へ膨らんで寮同士の間柄も悪化しているように思える。アリアはただ溜息をついた。
談話室でも女子寮でも教室でも、同学年がアリアを見る目はひどく攻撃的だった。必死に勉強している生徒から見れば、アリアの試験に対する態度は余裕綽々に見えて気に入らなかったのだろう。アリア自身そんな余裕を見せびらかすことはしなかったが、隠すこともしなかった。周囲を気にしないアリアのペースは、元々彼女を嫌っているグリフィンドール生にとって不愉快以外の何者でもなかったらしい。
女子寮で教科書以外の本を読めばラベンダー・ブラウンが癇癪を起こし、談話室で欠伸をすればロン・ウィーズリーが舌打ちとともに罵声を浴びせてくる。その度にグレンジャーが彼らを諌めに入るが、その所為で状況はさらに悪くなるばかりだ
さらりと嫌味を返していたアリアも、こんな状況が一か月も続けば、時々怒りが爆発してしまうのではないかと思うこともある。
アリアは時計を確認して、大広間へと向かっていた足を止めた。やめよう。昼食なんて気分じゃない。こんな時間に広間へ行ったら、ざわめきと苛立った同級生とチキンの匂いのせいで具合が悪くなる。
外の空気が吸いたくなって、アリアは玄関ホールへと向かうことにした。外はまだまだ寒いが、だからこそ人も少なく静かだ。お気に入りの本を開いていても罵声を浴びることは無いだろう。
けれどそんなささやかな願いは、踵を返して数歩と歩かないうちに打ち砕かれることになった。
アリアの期待に反して、進む先から突如険しい声が聞こえてきた。ホールへ続く階段前で、誰かが言い争っているようだった。
全く、なんて運が悪いの。アリアは言い争っているのが5年の生徒ではないことを願いながら、さっさと通り過ぎようと足を進めた。
「いい加減にしろよマルフォイ!僕は監督生だぞ!」
けれどそんな願いさえ空しく、聞こえてきたのは最近飽きるほど聞く同寮生の癇癪声と、その名前。
アリアは足を止めて眉を寄せた。
「どうやらまた僕に減点されたいらしいな、ウィーズリー。僕は監督生で、その上尋問官親衛隊だ」
返された言葉はよく知った声で玄関ホールに響いた。
曲がり角から少し顔を出して、そっと階段下のホールの様子をうかがう。案の定、罵り合う2人は正面入り口の目の前で睨み合っていた。
アリアは小さくため息をついて、どうしたものかしら、と考えた。外へ出たいが、どうやらその為には彼らの目の前を通り過ぎる必要があるらしい。我関せずと通り過ぎれればいいのだが、彼らが
彼の八つ当たりにはもう懲り懲りだし、ドラコもグリフィンドールとの口喧嘩にアリアが引っ張り出されるのを嫌がるだろう。
お互い学校ではなるべく関わることを避けてきたが、ラジアルト家とマルフォイ家の友好関係くらい、ウィーズリーの耳には届いているだろう。
「あぁ、グリフィンドールの点はもうそんなに残ってないかもな。なんならお前の小遣いでも入れてみるかい?汚いクヌート銅貨をさ」
「相手にしちゃダメよロン!好きに言わせておけばいいわ、あんな奴ら」
「おっと、穢れた血が親衛隊を侮辱した。グリフィンドール20点減点だ」
「マルフォイ、お前!!」
「(……ドラコも、あんな奴ら放っておけばいいのに)」
幼馴染に向かって心中でため息をつきながら、アリアは玄関ホールへ続く階段の上で壁に寄りかかってその様子を見ていた。アリアのため息の届かないところで、ドラコは至極満足そうな笑みで彼らを罵っている。
スリザリン生は皆、例外なくプライドが高い。ドラコだけでなくスリザリン全体がそうなのだから、彼ひとりが特別傲慢というわけでもないのだろう。持たざる者に対して非寛容的なのは、あの寮特有の癖だ。特に相手が敵対するグリフィンドール生となれば、その楽しみも2割増になる。
面倒な争いや要らぬ闘争を煽ることは感心出来ないが、血に掛ける想いはアリアにも理解できる。
プライドが高いのは、自分の生まれに、家族に、血に、歴史に、誇りを持っているからだ。
この体に脈々と流れるこの血は、私だけのものではない。魔法を紡ぎ、生み出し、その存在を今この時まで永続的に守ってきたあらゆる魔法使いと魔女の歴史であり、史実である。彼らがいなければ魔法は生まれず、魔法族は守られず、私は生まれなかった。
受け継がれていく"純血"の血は代々伝わる家宝も同じ。魔法という、種たる存在を守ってきた歴史。それを、グリフィンドールの低能たちは傲慢と呼ぶ。生まれなど関係なく、魔法族もマグルも皆平等で、血には美も穢れもないと言う。
あまりに浅はかな考えだ。彼らがその考えを貫けば貫くほど、我々は彼らを遠ざけ、彼らから血とその歴史を守ろうとするだろう。種たる魔法族を滅ぼそうとする、刃のような迫害から。
アリアがそんなことをぼんやりと考えている間に、玄関ホールの言い争いは次第にヒートアップしていた。
階下ではドラコがせせら笑い、今にも杖を取り出しそうなウィーズリーを、彼よりは幾分か冷静なグレンジャーとポッターが抑えている。
現実に戻ってきたアリアはもう一度大きくため息をついて、激し言い争いを聞くともなしに聞く。どうにかこの場が収まって解散してくれないかと思ったが、どうやらそうもいかない雰囲気だ。
収まりの見えない状況に、アリアは玄関ホールから外へ出ることを諦めた。空き部屋でも見つけよう、と歩き出した時、アリアの耳に思いもよらない言葉が聞こえてきた。
「グリフィンドールから点を奪うのがそんなに楽しいのか?アイツだってグリフィンドールなのに!!」
ウィーズリーの声に、アリアは思わず足を止めて振り返った。怒りに震えるウィーズリーの顔と、相対するドラコの一瞬困惑したような顔が目に映る。彼の言う「アイツ」が己を指していることくらい、すぐに分かった。
「アイツ……?」
「嫌味ったらしい、性悪なスリザリンのスパイさ!お前と仲良しなんだろ?知ってるぞ、お前はラジアルトの
気付いたら、自分でも驚く程冷たい声が出ていた。同時に杖の先をウィーズリーに向ける。その言葉を最後まで聞くことが堪えられなかった。
バーン!と大きな音がして、ウィーズリーはその場から壁まで吹っ飛んで木製のロッカーの中に突っ込んだ。グレンジャーが悲鳴を上げて、それと同時にポッターが杖を持ったアリアに気付く。
杖を抜いたポッターに、アリアが杖の切っ先を向けたのが同時だった。こちらを睨むポッターの隣で、ドラコがようやく階段上のアリアを見つけた。
その表情が驚きから戸惑いに変わり、名前を呼ぼうと口を開く。
ダメよ
「一体何事ですか!!」
アリアの後ろに現れたマクゴナガル教授の声で、ドラコの小さな声が掻き消された。
壁まで吹き飛ばされたウィーズリーに駆け寄るグレンジャー、そして杖を向けて睨み合うアリアとポッター。状況に戸惑うマルフォイ達。
グリフィンドール生が起こした騒ぎに、マクゴナガルは一層眉間のしわを深くする。アリアは杖を持った腕を下げて、ポッターが口を開くより先にマクゴナガルに向き直った。
「手を出したのは私です、先生」
「ミス・ラジアルト……!」
アリアの言葉に、マクゴナガルは一度悲しそうに目を細めた。そしてもう一度威厳たっぷりに玄関ホールを見回して、厳しい口調で全員を睨みつけた。
「こんな騒ぎを起こして……!スリザリン、グリフィンドールともに10点減点。それから……ミス・ラジアルト」
「はい」
「お話があります。ついていらっしゃい」
静かな口調でアリアを見て、マクゴナガルは踵を返した。アリアは階下を振り返ることなく、黙ってマクゴナガルに続いた。
授業が終わってから通ってきた廊下を逆戻りして、アリアは変身術の教室へ再び入ることになった。マクゴナガルは教室の中ほどまで進むと、杖を振って扉を閉め、そしてアリアに向き直った。アリアは感情のない表情でマクゴナガルを見つめる。しばらくして、教授がため息とともに言葉を発した。
「一体どうして、ミスター・ウィーズリーを吹っ飛ばしたりなんてしたんですか」
諌めるような声だった。
アリアは正直に自分の見ていた状況を説明した。
「マルフォイとの口論で、彼が私の悪口を言ったのを聞いたからです。スリザリンのスパイだ、と」
「…………」
「軽率な行動だったと思っています。どうぞ、減点でも罰則でもなんなりと」
マクゴナガル教授はアリアを見て、辛そうに眉を寄せる。そして、ゆっくりを首を振った。
「ミス・ラジアルト、貴女はグルフィンドール生です」
「はい」
「つまり貴女は、私の寮の生徒です」
「ええ、知っていますが」
「私は貴女に、自分の寮を誇りに思って欲しいのですよ」
その言葉に、アリアはようやく無表情を少し崩した。
誇り。アリアはしばらく眉を寄せて、そして自嘲ぎみに口角を上げた。まさかこの人は、私がグリフィンドールに誇りを持つなんて、今更そんなことを期待しているんだろうか?
「……『帽子は常に正しい選択をする』。ダンブルドア校長にそう言われました」
「ええ、そうですとも」
「私はそうは思いません」
はっきりと言い切って、アリアは睨むように寮監を見た。
「申し訳ありませんが、先生。ここで私が自身の寮に誇りを持つことなんて、絶対ありません」
マクゴナガル教授はしばらくアリアを見つめて、小さなため息とともに視線を逸らした。
教授が杖を振り、アリアの背後の扉がさっと開く。
「……広間へお戻りなさい。もうすぐ昼食の時間が終わりますよ」
静かな声でそう言ったマクゴナガルに背を向けて、アリアは黙って教室を出た。
苛立ちが込み上げる。今更「グリフィンドールに誇りを持て」だなんて、言われると思っていなかった。壁に拳を叩きつけたい衝動を抑えながら大広間へ向かって廊下を歩いていると、アリアは曲がり角の手前でふと立ち止った。
視線の先にいた人物が、アリアに気付いてさっと駆け寄ってくる。アリアは咄嗟に視線を巡らせて、周囲に誰もいないことを確認した。2人だけの廊下に足音が響き、目の前で止まる。
「……ドラコ」
不安そうな表情の彼に少し微笑んで、アリアはその名前を呼んだ。
「罰則は?」
「お説教だけで済んだわ。罰則はなし」
ほっと息をつく彼に「心配してくれてありがとう」と言うと、ドラコは苦い顔でアリアを見た。
「どうしてあんなことしたんだ?」
「だって、ああでもしなきゃあなた、もっと酷い呪いをかけてたでしょう」
「…………」
「……うそ。ただカッとなっただけよ」
むっと顔を顰めたドラコにそう言うと、ドラコは盛大にため息をついてアリアを睨んだ。
その彼の胸に、『 I 』と書かれたバッジが煌めいているのを見て、アリアは苦笑いでそのバッジに触れる。
高等尋問官に選りすぐられた、監督生以上の権限を持つ「尋問官親衛隊」。正直言って、自分を支持する生徒を駒にするには上手いやり方だと思う。特に、スリザリン生相手には。
その例に漏れず自信満々にこのバッジを胸に飾っているドラコに、アリアは少し呆れた様に笑った。
「ドラコ、気をつけてね?」
「何がだ」
「このバッジの所為で、アンチアンブリッジの生徒に呪われない様に、よ」
「僕に呪いをかけようとした奴らは片っ端から減点してやるさ」
「……今年はスリザリンが圧勝かしらね」
玄関ホールの壁に据えられた大きな砂時計を思い出して、アリアは苦笑いした。エメラルドの溜まったスリザリンの砂時計以外は、どの寮の砂時計も殆ど空っぽ状態だろう。アリアはバッジから指を離して、ドラコの手を一瞬だけ握った。
「来てくれて嬉しかった」
「いつでも会いに来るさ」
「ええ、私もよ」
短い言葉を数回重ねて、2人はその場で別れた。アリアは昼食を食べに広間へ続く階段を下りることにした。胸の内に渦巻いていた苛立ちは、幾分か軽くなっていた。
「アイツ、ほんとにムカつく」
大広間はもう人もまばらで、各寮のテーブルに数人残っている程度だった。テーブルの上の料理も粗方片付けられており、いつものような騒がしさはない。
昼食を終えて出ていくハッフルパフのグループとすれ違った時、アリアの耳に苛立った声が聞こえてきた。グリフィンドールのテーブルの中程で、ポッター、ウィーズリー、グレンジャーが昼食を食べている。首を擦りながらブツブツと文句を垂れるウィーズリーと、それを諌めるグレンジャーの声が嫌でもアリアの耳に届いた。
「同じグリフィンドールじゃない。それに、あなたの言い方だって悪かったわ。彼女をスパイだなんて……」
「ハーマイオニー、あいつはグリフィンドールなんて糞だと思ってるんだ!」
「知ってるわよ!でも組分け帽子が彼女をグリフィンドールに選んだのよ。彼女にはその資質があるんだわ」
強く言い張るグレンジャーの言葉に、吐き気さえ感じる。違う意味で、ウィーズリーも同じものを感じたらしい。べぇっと舌を出して、不満そうに肩を竦めた。
「何であいつが僕らと同じ寮なのか、ちっとも理解できないよ。ラジアルト家って、マルフォイ家と同じくらい陰険な純血主義だぜ?」
「代々スリザリンの家系から突然グリフィンドール生が出ることもあるって、あなたはよくご存じのはずよ」
「スナッフルズとラジアルトじゃ天と地ほど違うだろ!」
「確かに、彼女は冷静で論理的だし、いたずらに校則を破ったりもしないわね」
スナッフルズが誰のことを指すのかアリアには解らなかったが、その言葉に反応したのはウィーズリーだけではなかった。ポッターが持っていたグラスをガンとテーブルに置いて、厳しい目でグレンジャーを見る。グレンジャーは自分の失言に気付いたらしく、パイを取ろうと伸ばしていた手を引っ込めて視線をずらした。
「それじゃ君は、彼女の方がスナッフルズより優れた人間だって言いたいの?」
「わたし……そうじゃないわ。もちろん違うわよ。わたしはただ、彼女にもいいところはあるって言いたいの」
「君はあいつの成績が自分と同列1位だから庇いたいだけだろ」
鼻を鳴らして言ったウィーズリーをきっと睨んで、グレンジャーは今度こそパイに手を伸ばす。ウィーズリーは彼女の視線を無視して話し続けた。アリアは彼らから数メートル離れた席に座った。その瞬間、音もなく目の前に昼食が現れる。
「頭が良くたって人として最低な奴さ。僕、あいつの両親は絶対『死喰い人』だと思うな」
「『死喰い人』だよ」
少し声を潜めて言ったウィーズリーの言葉に、ポッターは躊躇いなくそう返した。アリアは手に持ったパンを一瞬落としそうになって、慌てて右手に力を込めた。
「ヴォルデモートが復活したあの日、レイバン・ラジアルトって奴もあの場にいた」
ぐっと、喉の奥が詰まるような感覚。
それほど大きな声でもなかったのに、ポッターのその言葉がアリアの脳内を騒音のように揺らした。
アリアは持っていたパンを、口に運ぶことなく皿に戻した。
しばらくの沈黙の後、ウィーズリーの不愉快な声が脳に響いてきて、アリアはぐっと拳を握った。
「聞いただろハーマイオニー、あいつは根っこから腐ってるんだ」
「楽しそうなお話ね」
自分が思った以上に、大きな声でそう言った。
3人が同時に振り向いて、数メートル離れた同じテーブルに座っているアリアを発見した。グレンジャーははっと息を呑み、ポッターは警戒するようにローブの中の杖を握ったのがわかった。
「また盗み聞きかよ!」
「昼食に来ただけよ。馬鹿みたいに大声で話しておいて、盗み聞きも何もないでしょうに」
怒鳴るウィーズリーに言葉を返しながら、アリアは一口も食べずに立ち上がった。
今度こそ本当に、昼食なんて気分にはなれなかった。
「待ってアリア!」
テーブルに背を向けたアリアを、グレンジャーが呼び止めた。振り返ると、戸惑った様子のグレンジャーが立ち上がってアリアを見ている。
「その……ご両親の事だけど。その、本当に……」
「マルフォイに言うみたいに、私にもはっきり聞いたらいいじゃない。「両親は死喰い人なの?」って」
「じゃぁ聞くけど、」
アリアの言葉に答えたのは、グレンジャーではなくポッターだった。視線を向けると、明るい緑の瞳と目が合う。アリアは眉を寄せて、それでもポッターの次の言葉を黙って待った。
「レイバン・ラジアルトは君の父親?」
「……ええ、そうよ」
アリアが頷くと、ウィーズリーの目がいっそう敵意に満ちた。グレンジャーが両手で口元を覆う。アリアはダンブルドアの部屋を出ていくときの父の背中を思い出した。
「あの方はいつかきっと戻ってこられる」
耳を離れないあの言葉の真の意味は、きっと父の腕に刻まれているのだろう
「その場にいたというのなら、父も『死喰い人』なんだと思うわ」
「そんな……!」
「驚く程の事でもないでしょう。私の家についての偏った風評なら、既に相棒の監督生様からお聞きじゃない?」
「風評じゃなくて事実だろ」
「人の会話に口を挟むのがお好きな様ね。あなたの家についての『事実』も語ってあげましょうか、ウィーズリー」
「でも……でも、『だと思う』って?」
言い返そうとしたウィーズリーより先に、グレンジャーがそう言った。
「あなた、確信は持っていないの?ご両親が……その、『死喰い人』だって?」
「……知らないわ」
「へーぇ、おっどろき。夏休みに例のあの人が家に遊びに来てても、知らないって言えるのか?」
「家には2年の夏から帰ってない」
短く答えると、ウィーズリーが眉を寄せて不思議そうにアリアを見る。アリアは感情を乗せない声で、短く言った。
「両親とも、もう3年以上会っていないわ」
驚きの表情でアリアを見た3人に背を向けて、アリアは広間を後にした。
===2011.10.30