『琲世さん』
そう声を掛けて、一拍おいてから「なあに?」と優しくこたえてくれた。いつもの優しい笑顔と声。前まで大好きだったはずのものが、今では恐ろしくなってしまった。

『今日は、ご飯入りますか?』
その言葉に少し考えたあと必ずこう言うのだ。
「今日は遅くなるから、外で済ませるね」
今日はじゃなくて、今日もでしょ。そう言いたかったけど、ぐっと言葉をのみこんだ。物分りのいい彼女なら

きっと彼はもう私を愛してはくれていない。








あれは1ヶ月くらい前のこと、この頃から彼の行動が少しおかしいと感じていたけれど、仕事が忙しいのだと結論づけてあまり深くは考えていなかった。


大通り越しに見えた白と黒の髪。

綺麗なヒト‥‥琲世さんと彼女は笑いあっていて、そんな絵になる二人を呆然と眺めていた。

本を読んでいる振りをしているけれど、目線はあの綺麗な女の人を目で追っていた。








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