キミはオレとソイツどっちが大事なんだ!

「……なあ、これ。受け取ってくれるか」

 いつも通り二人で一緒にソファで寛いでいると、目の前に差し出された小さな箱。ゆっくりと開かれたその箱の真ん中に鎮座していたのはシンプルなシルバーのリングで。
 付き合って数年、私たちはお忍びながらもそこそこの関係を築いて来た。つまりこのリングは、そういう事で。

「わっ!う、うん!勿論!でも、……本当に私でいいの?」
「ああ、キミが良い。キミ以外考えられない」
「うぅ……、嬉しい……」
「ふふ、本当にキミは泣き虫だな」

 そう言って涙を流す私を呆れた様に笑うダンデの瞳もいつもより潤んでいて。それは珍しい光景なのでよく見たいけれど、視界が滲んで揺れて、瞬きの度に涙が溢れ落ちてしまう。
 拭っても拭ってもキリがなく、困っていると肩を抱き寄せられた。自然とダンデのスウェットに顔を埋める体勢になり、申し訳ないけど意図を汲み取り有り難く涙を拭わせてもらう。

 それにしても。
 お互い部屋着だし、テーブルの上はさっきまで食べていたお菓子が散らばっているし、そもそも何の記念日でも無いし。
 何で今日このタイミングなのかとおかしくなる。

「ふふ、今度は笑って、忙しいヤツだな」
「ふふふ!だって何で今なんだろうって。思いっきり日常じゃん」
「……本当は、夜景が綺麗なレストランとか、ホテルとか、これでも色々考えたんだ」
「そういうの好きだもんね」

 ダンデは長い間チャンピオンとして観衆の前でパフォーマンスをして来た。言わば一種のエンターテイナーとも言えるだろう。その為に彼は相応の努力をしたし、楽しみながらも自分の魅せ方、雰囲気の作り方を充分に知っている。
 だからこそ、いつか来ると信じていたこのイベントも正に『理想の演出プラン詰め合わせセット』で来ると思っていたのだけれど。

「そうだな。でも、キミは好きじゃないだろう」
「!……えへへ、うん」
「それに、早く渡したかった。今しか無いって思ったんだ」
「うん……、ふふ!」

 派手な事が嫌いな私を優先してくれたんだ。その想いだけでもかなり嬉しい。
 くすくす笑っていると頬をするりと撫でられ顔を上げさせられる。直ぐに唇が温かいものに触れ、可愛らしい音を立てて離れていく。
 それを何度か繰り返した頃、スウェットを掴んでいた左手をゆっくりと握られた。

「ここに、着けても良いか?」
「……うん!」

 そっと丁寧な手付きで箱からリングを取り出す。きっとこれも、律儀に給料三ヶ月分とかなんだろうな。彼のひと月分を思い出し、絶対に落としてはいけないと気を引き締める。
 左手の薬指に触れられ、そのまま着けてくれるのかと思ったら、先に既にあった物を外そうとされる。

「待って」
「……なんだ」
「それは外しちゃダメ」

 不満気にムスッとした顔を向けられる。そんな可愛い顔をしてもダメ。それは私と彼にとって大事な物だから。
 暫くダンデと無言で睨み合っていると様子がおかしい事に気付いたのか、彼がボールから出て来てしまった。

「……リザードン」

 ダンデが低い声で彼の名前を呼ぶ。でもそれはダンデのパートナーではなくって、私のパートナーを指すものだ。
 リングを外すのかと私の頬に擦り寄ってくるリザードンの左腕には、私の左手の薬指のリングと同じデザインの腕輪。その中心には赤色とオレンジ色に煌めく、リザードンナイト。つまりメガストーンが埋め込まれている。

「ふふ、安心して。外すわけないでしょ」
「ばぎゃ」
「……」

 私にとっても彼は初めて貰ったポケモンで。色んな試練を乗り越えてキーストーンとリザードンナイトを手に入れた。これは人間同士では成し得ない、種族を越えた強い絆の証なのだ。
 そのおかげで地方を渡って、こうしてダンデとも知り合えたのだから少しは多めに見て欲しいのだけれど。

「……じゃあキミは、オレのリングは着けてくれないのか」
「着けるよ?二つ着ければいいじゃん」
「…………」
「ダメなの?」
「いや……」

 きゅうとダンデの眉間の皺が深くなる。やだ、バトル中みたいになっちゃった。間近で見ると迫力があって少し怖い。
 それを敏感に察知したのか、リザードンが私とダンデを引き離す。あらら。

「何をするんだ」
「ばぎゅ」
「ちょっと!リザードン、ダンデ!」
「……何だと!」

 ダメだ、二人の世界に入ってしまった。普段はこんな事にはならないのに時折こうやって、自分で言うのも何だけど、『私の取り合い』を始めてしまう。
 どうしたものか。今はどちらのリングを着けるかが争点なんだろうけど、私は両方着ければ良いと思っているから今すぐどちらか片方を選ぶなんて事は出来ない。

 悩んでいる間に少し離れた場所に移動した二人は取っ組み合いを始めてしまった。ダンデはポケモン相手に何をやっているのか。
 とりあえず決着が付くまでは何も出来ないなと溜息を吐く。すると、側でボールからポケモンが出てくる音。あらら。

「お騒がせしてます、リザードンくん」
「ばぎゃ……」

 ダンデのリザードンくんが呆れた様に未だ取っ組み合う二人を見て、申し訳なさそうに頭を下げてくる。いえいえ、こちらこそ私のリザードンがごめんなさい。
 暇なのでテーブルに置いてあったマシュマロをマドラーに刺し、リザードンくんの尻尾を借りて炙らせてもらう。絶妙な焼き加減で見事にトロトロになったマシュマロを頬張っていると名案をビビッと思い付いてしまった。

「ねえ!良い事思い付いた!」
「っ、なんだ!」
「ダンデが用意してくれたリングにキーストーンを埋め込めば」
「絶対ダメだ!!」
「ガウッ!」
「あらら」

 食い気味で二人に拒否をされてしまった。かなりの名案だと思ったのに。リザードンくんを見ると首を横に振られる。……そんなにまずかったか。

 こんな事になるんだったら、ギャーギャー騒げないお高いレストランとかの方が良かったかも。まあでも、きっとこうなる事もダンデの中では想定内だったんだろう。
 なんだかんだ、ちゃんと私のポケモンの事も考えてくれているダンデの事が好きだ。これからもずっと一緒に居られるんだと思うと嬉しくて、胸がぽかぽかとする。

 結局この日は二人の間で決着が付く事は無く。とりあえずの対処法として、日替わりで片方は左手の薬指に、もう片方はネックレスにして身につける事で落ち着いた。

 ……早く二人が穏便に和解してくれます様に!




(タイトルは数日後にダンデさんに言われるセリフです)

2021/09/20




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