お酒の味を教えてくれるダンデさん

「あー!お酒飲んでるー!!」

 今日は仲良い人たちを家に招くと聞いていて、それは私も未来の妻としておばさんのお手伝いをしなきゃと勇んで来て数時間。食事の配膳はほとんど私がしてたというのにいつの間にかこの大人たちはお酒を飲んでやがる。

「なんでお酒飲んでるの!」
「自分たちで持ってきたのと母さんが出してくれたヤツだぜ」
「おばさんが!?」

 そんな、身近に裏切り者が居たなんて……っ!それに自分たちで持ってくるとは考えていなかった。
 確かに顔ぶれはダンデさんを始め、キバナさんやネズさん、ルリナさんといった錚々たるジムリーダーの方々だ。こんなど田舎の酒ではなく、お高いオシャレな酒じゃ無いと満足出来ないのだろう。くっ。

「オレさまたちが飲むのとお嬢ちゃんに何か関係があるの?」
「私が一緒に食べれない!」
「あはは!なるほど!」
「ちょっと飲んでみますか」
「えっ!」
「やめてくれ」

 ダンデさん以外の人が大笑いする。中でも一番笑ってるキバナさん、ぜってぇ許さねえからな。
 一人だけ笑わずため息を吐いてたダンデさんが立ち上がると少しだけ抜けると言い放ち、こちらに向かって歩いてきた。

「ナナシ、ほら。今日はもう帰るんだ。……というか、今日は来るなって言ったよな」
「わ、押さないで!……うぅ、酷いよぉ」
「泣き真似しても意味ないぜ。母さんにはオレから言っとくから」
「……でも!私は未来の妻としてっ!」

 再び大きくため息を吐いたダンデさん。これ以上怒らせるのはいよいよマズイかも。今日は大人しく帰るしかないのか。
 そう考えていると右腕の手首を掴まれ階段の踊り場まで引っ張られ登らされる。な、何。

「ダンデさん……?」
「ナナシ」
「わっ」

 壁に背中をぶつける様に押されたかと思うと、何かによって唯一の光源であった玄関の照明の光が遮られる。恐る恐る視線を上げると、薄暗く狭い空間と少し怒った様に目を細めたダンデさんの顔があって。
 所謂壁ドンをされていて、私の心臓はお祭り騒ぎだ。痛い、苦しい、うるさい。

 顔を真っ赤にした私が面白かったのか、ふふと笑ったダンデさんが近付いてくる。反射的に目をぎゅっと瞑ると唇にいつもより高い温度の何かが触れてくる。
 少し前からたまに何度かされる事はあって、でもそれはダンデさんの部屋であったり、誰も来ない牧場の隅であったりと人目のつかない場所だ。それなのに、こんな、こんな、誰かが階段を覗き込めばすぐに分かってしまう場所でなんて。

 緊張から前に教えられた様には動くことも出来ずに目も唇も硬くぎゅっと結んでいると、顔にそっと触れてきた指が容赦なく私の口をこじ開ける。
 口の中に入り込んで来たダンデさんの指を噛む訳にも行かず、従順に促されるまま力を緩めるとすぐに私の口を覆う何かがくっ付いてくる。う、お酒臭い。

「ふぁ、んんっ」
「ん」

 私のより一回り以上大きい舌が歯列を裏側から舐めてきたり口の中を動き回る。入ったままの指も私の舌を撫で摩ってきた。いつも以上に激しい動きに一段と私は何も出来なくなる。
 でもやらないと怒られて、でも頭がぼーっとしちゃって。

「ぷはっ、はあっ、うぅ」
「ちゅ、はぁ、ふふ」

 やっと解放された、何分されていたんだろうか。苦しいし、口の中がじんじんする。あと僅かに残る苦さ。これが、お酒の味なんだろうか。

「どうだ、酒の味は」
「に、苦い、です」
「ふふ。やっぱりまだナナシには早いな」
「うぅ」

 分かってるもん。そもそもがまだ飲んじゃ行けない年齢だし。でも、もう少しだけ、もっと。

「もっと」
「今日はダメだ」
「あ……」

 頬にちゅっと可愛い音を立てて離れていくダンデさん。
 『今日はダメ』って事はまたいつかしてくれるって事で。私がお酒の味を知りたいんじゃなくて、ただキスをして欲しいって強請ったこともバレていて。
 私も少しだけ頬にキスを返して、落ち着くまで抱きしめあって、そのまま手を繋いで家まで送ってもらう。ダンデさんが迷わない距離に私の家があることに両親には毎回感謝している。

「なるべく約束は守ってくれ」
「……は〜い」
「じゃあな、おやすみ」
「おやすみなさい。……あんまり飲みすぎないでね!」

 私の言葉に片手だけ上げてダンデさんが帰って行く。その後ろ姿が見えなくなるまで見届けて、家に入り、自分の部屋まで直行する。
 私の部屋からなら丁度ダンデさんの家のリビングが見える。夜だと明かりが付いているかいないか位しか分からないけど。

 まだほんのりと残っている口の中の苦さを感じながら唇に指で触れる。
 ダンデさんは、……ダンデお兄ちゃんは、こうやってキスしてくれる様になったけど、一体私はお兄ちゃんにとってどういう立ち位置に居るんだろうか。偶にとはいえ私の為にハロンに帰ってきたと言われた事もある。
 昔から好きだと伝えていたけれど、いつかは恋人にしてくれるんだろうか。

 でも。今日来ていた人の中にはルリナさんは勿論、何名か女の人が居た。都会で生活しているその人たちはこんな田舎の子供とは違って、キラキラしていて。
 お兄ちゃんの隣にはそんな人が似合う。こんなちんちくりんな私なんかが引き留めて良い存在では無いのだ。きっとシュートには他にもそういう魅力的な女性が沢山いる。
 そう分かっているけれど、私からは離れる事は出来ない。軽いキスも、大人のキスもお兄ちゃんに教えられて、私はもうお兄ちゃんじゃないと満足出来ない様になってしまった。同年代の子になんて興味すら湧かない。

 ただ反応が面白いおもちゃとして遊んでくれてるのかな。それなら、もっと頑張って、少しでも飽きられ無い様にしなくちゃ。

 深夜になっても明かりの消えない家を見ながら、私は一人気付けば涙を流していた。


****


「すまない、結構空けてしまったな」
「おせえよダンデ、うんこか?」
「違うが」
「女性も居るのに最低ですよ、キバナ」
「本当に。あり得ないわね」
「うるさいうるさい!それよりダンデ、オレさま達に紹介してくれねえのかよ」
「何をだ?」
「オマエの『未来の妻』ちゃんだよ!」
「……は?」
「さっきの子よ!」
「ダンデ、くれぐれも週刊誌には気をつけるんですよ。年齢差が少し」
「あの子はそんなんじゃ無いぜ!」
「またまた〜」
「オーナーになってからちゃんと休みを取ってリフレッシュしてるみたいだってスタッフから聞いてたけどよ〜」
「あの子に会いに来てたのね」
「それはホップたちもハロンを離れがちになったからで」
「だから寂しく無い様に会いに行ってやってたって?それは無理がありますね」
「それはオマエが気にかける事じゃねえよ。それもあの子の人生なんだから。それも弟よりも下の奴に」
「…………」
「変なことしてないかオレさまたちが話を聞いてやるよ」
「そうだ!そろそろお開きにしようか!」
「人目も時間も気にせず大所帯で集まれる場所を提供してくれたのは何処のどいつですか。まだまだこれからですよ」
「ヒューッ!ネズかっけえよ!」
「いい飲みっぷりよ!ほらダンデも!」
「いやオレは」
「オマエはオレと飲み比べだダンデェ!今日こそは出した方が負けだからな!」
「待てキバナ、オレは」
「さっさと潰れなさい!根掘り葉掘り聞かせてもらうわよ!あ!ソニアも呼びましょう!もしもしー!ソニアー!?」







「掃除だけはちゃんとして帰りなさいよ」
「……分かってるぜ、母さん」
「あと帰ってきたならナナシちゃんだけじゃなくてウチにも顔を出しなさい」
「…………はい」




2021/10/06




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