ダンデくんトーク
『こっち来て』
『遊んで!』
『寂しかったの』
テレビ画面の中のワンパチが目を輝かせカメラ目線で、つまりはトレーナーに向かって嬉しいと尻尾を振りアピールをする。その傍らに映り込むスマホロトム。画面に映し出されているのは鳴き声から推測されるワンパチの気持ちを書き出すアプリ。
お留守番をしていたのか、数時間ぶりに家に帰ったトレーナーを熱烈に歓迎しているのだ。
「か、可愛い〜……!」
「そうだな」
「ウチの子たちもこんな風に思ってくれてるのかな〜!そうだといいな〜!」
「そうだな」
「……。ちょっと、聞いてる?」
「そうだな」
「……」
テレビからは私と同じように出演者たちの可愛いと興奮する黄色い声が上がり続けていると言うのに、私の隣にはテレビに目もくれずタブレットでいつだかのトーナメントのバトル映像を見ているダンデくん。
前に何でも良いから返事してよと怒ったのを覚えているのか、感情の全く篭って居ない生返事だけを返される。
あの時は何を話しかけても無視されたのにカチンと来たけど、聞いてないくせに返事をされるのも中々にカチンと来るものだと今分かった。適当に返事をするな。
ダンデくんが釘付けのタブレットの前にわざと手をかざして邪魔をする。適当にあしらわれて傷付いたの。少しだけ構って欲しい。
「見えないぜ」
「見えなくしてるの!ねえ、私の話聞いてた?」
「ワンパチが可愛いって話だろう?」
「……それもそうだけど!そうじゃないの!」
何を言ってるんだという顔を向けられる。テレビを無言で指差していいから見ろとダンデくんを促す。今度はホシガリスにさっきのアプリを使っている様だ。
「……ホシガリスを捕まえたいのか?だがヨクバリスになった時のことを考えると、キミ料理の腕を上げなければ」
「違うってば!それは今関係ないでしょ!?アプリよ、アプリ!」
「アプリ?」
もう一度テレビに目を向けたダンデくんが漸く興味を持ったのか何をしてるんだと聞いてくる。ほら、何も分かってないんじゃない。仕方なく鳴き声から気持ちを推測するアプリを使っているのだと教えてあげる。
途端に目の色を変えさっきとは打って変わって、真剣にテレビを見始める。これはこれで私放置されてる気がするんだけど。本末転倒になってない?
「すごいでしょ?本当かは分かんないけどなんとなくそう言ってる気がしない?」
「そうだな」
「……、ウチの子たちもこんな風に思ってくれてるのかなって」
「そうだな」
「…………」
結局興味を惹く対象がバトルからテレビに変わっただけで私は居ても居なくてもどうでも良いと言うことが分かった。
カッチーンと来たのでスマホロトムを呼び寄せてメモ帳を開く。そこに入力した文字を見てロトムが呆れた様に笑う。うるさいわね。
文字サイズを大きくして、太くして、と。ふふ。
「見て!」
「……『ダンデくんトーク』?……なんだ、コレは」
「ふふふ!ズバリ!素直になれないダンデくんの本心を読み取るアプリです!」
「は?」
オニゴーリの様な冷たい視線を感じるがなんのその。『ダンデくんトーク』とデカデカと書かれた文字の下に今の「は?」から読み取った本心を入力する。
「ほら、今の『は?』は『ナナシは可愛いな』だって!」
「は?」
「今のは……、『すごい!本当に当たっているぜ!』だって!」
「……」
口を開きかけたダンデくんが何も発する事無く口を閉じ、グッと横に引き結ぶ。流石はチャンピオン、対応が早い。
……でもこれ、話してもらわないと何もできないんだけど。
「……ね?当たってるでしょ?ね?ね?」
「……はあ」
「今の溜息も反応した!『ナナシは天才だ!』だって!キャッ!嬉し!」
「……」
「……」
あれ?此処は真冬のキルクスタウンだったかな?とても寒い。突き刺さる視線が痛い。おかしい、こんな筈では。
ダンデくんが口を開いた瞬間に文字を打てる様に、とにかくキーボードの上で指をくるくる動かす。次は何にしようかな。いやこれはダンデくんの本心を読み取っているのであって別に私が言われて嬉しい事では決して。
「……キミなあ」
「あっほら!えーっと、『ナナシは美人だな』だって!」
「本当にそう出ているのか?」
「う、うん!ほら、今のはき、『キスがしたい』、だって!」
「へえ、そうか。じゃあこれは?」
「う……」
怒りが少し滲んだ目で見下ろされる。座っているからいつもよりは距離が近い筈なのに、なんだか遠く感じてしまって。
和やかになる様に、ちょっとだけ欲張ってみたりもしたけど余計に火に油を注いでしまった様だ。きっとこれは巫山戯てはいけない。
「……『うるさいから黙ってくれ』、だって」
「……」
「……」
気不味い沈黙。構って欲しいなんて思わなければ良かった。でもでも、寂しかったし。
「……」
「……あの、」
「……ふっ」
「ぇ、……ンっ!」
え、なんでどうして。
笑われた気がして顔を上げると何かが唇に触れて、見開いた視界の中には楽しそうに細められたイエローの瞳が近距離で映り込んできて。
キス、されているんだけど、この状況が分からなくてパニックになる。離れようにもいつの間にか頭の後ろに回されていた手がしっかりと固定して来て身動きが取れない。
ぎゅっと目を閉じると唇を舌でなぞられ、咄嗟にそれを迎え入れてしまう。うぅ、慣らされている。
にゅるりと入り込んできた舌は私の咥内を好き放題に一通り弄び、暫くしてにちゅ、と音を立てて離れていった。
だらしなく開いた口から必死に酸素を取り込んでいるとまた下唇に吸いつかれ、そのままちゅっちゅと音を立てながら頬を辿り、耳に向かって上がっていく。
「正解は、『愛してる』だ」
「ふぁっ」
「もっと精度を上げてもらわないとな」
そう耳元で囁かれたかと思うとぐいと持ち上げられる浮遊感。あれ?
「だ、だんでくん……?」
「なんだ」
「ど、どこに」
「分からないのか?……ほら」
目の前に差し出されたスマホの画面にはさっき私が入力した文字の下に、見覚えのない文字。
「し、しんしつ」
「ああ。色んな状況でも読み取れる様に、オレもしっかり協力するぜ」
「ちょ、ま……ヒィッ!」
(この後「今のオレの気持ちは分かるか?」って聞きながらスマホを渡してくる(と言いながら何をして欲しいかを書き出させる)羞恥プレイが行われます)
2021/10/25