自撮りを見せる話
「なあこれ、全部顔が違うくないか?」
「は?」
私の口から思わず出た低い声に慌てたのか「いや違うんだ」と弁解される。は?何が違うのよ。
先日久しぶりにスクール時代の友人とお出掛けをした。その事は前もって伝えていたし、一応聞かれたので女性だとも伝えていた。「楽しんで来てくれ」と笑顔で送り出されたのも覚えている。
そして今日、そういえばと久しぶりの再会はどうだったかを聞かれ、その日あった出来事を話しながら写真を見せていた。ついさっきまで、いやまあ今も進行形で見せている。
普段あまり写真を撮らない私も一応は女の子(年齢の事は置いておいて)なので、友人に感化され写真を撮った。話題のカフェのアフタヌーンティーであったり、映えスポットであったり、はたまた風景だったり。
その中には久しぶりに会った記念という事で、何枚か自撮りが含まれていた。勿論標準カメラなんかでは無く、若い世代からも支持されるカメラアプリだ。
つまり、普段よりはちょーっと、ちょっとだけ、顔を可愛く写す魔法が掛けられているのだ。うんうん、化学の力ってすごいね。
それを目の前のこの男は、それはそれは不思議そうに、訝しそうに、絶対に言ってはいけない言葉を口にしたのだ。
確かにお互い自撮りも久しくしていなくて様々なフィルターを試行錯誤しながら撮った。だがそこまで強い加工の物は選んでいない。ちょっと顔がシュッとして、ちょっと目が大きくなっただけだ。
それなのに、この男は。
「どうせ私はダンデくんとは違ってブスで可愛くもなければ綺麗でもなくて、加工で顔を変えてしか写真に映れませんよーだっ!!」
「ち、違うんだ!そこまで言ってないぜ!」
「『そこまで』って、ちょっとは思ってるんじゃん」
「……」
否定しないんかい。無言は肯定。世界の理。……ダンデくんに加工がヤバいブス女って思われたの、ちょっとショックかも。
悲しさはかなりある。だけど、暗に自分は加工無しでも見れる顔をしていると言われている様でイライラもする。
涙を流しながら怒鳴り散らすという醜態を披露しない為に目を閉じて深呼吸をする。よし。
「今日は帰らせて頂きます」
「は!?ちょっと待ってくれ!違うんだ!」
「違いませんし、今日のところは帰ります。決定事項です」
「ダメだ!今すぐ却下してくれ!」と玄関へ向かおうとする私の腰にみっともなく纏わりつくダンデくん。無理矢理進もうにも、お腹に回された腕が食い込んで苦しい。
でも私は帰るのだ。私は怒った。言われたく無い事を言われて傷付いた。顔が違うだなんて、とんだチクチク言葉だ。今日距離を置くだけで許してあげると寛大な心を持っているのに。この男は。
仕方なく足を止め、ダンデくんの腕にそっと触れる。ホッとしたのか少しだけ拘束が緩み始めた。何許されたと思ってるの?
「ダンデくん」
「なんだっ!?」
「今後一切私はダンデくんに写真を見せないしダンデくんと写真に映りません。動画も含めてです」
「は!?」
「それと」
勿体ぶりながらダンデくんを振り返る。何か言おうと口が動きかけたのに気付かないふりをして言葉を被せる。先手必勝。先制攻撃だ。
「私とのトーク画面の背景にしてるブッサイクな私の寝顔、今日中に変えておいてね」
「っ!?」
「じゃあね」
すっかり緩んだ拘束から抜け出しさっさとお暇する。
何故それを、と呆然とした呟きが後ろから聞こえた気がするが放っておこう。案外気付くものだけど、私は言わないで居てあげただけだ。別に勝手にスマホを見た後ろめたさとかじゃ無いし。
それにしても。
あーもう!あの男本っ当ムカつくー!!
(ダンデさんには本当に悪気は無く、純粋にあれ夢主の顔が違って見えると思っただけで不細工だなんて思ってません。本当です。多分。あとトーク画面の背景うんぬんについては会えない時でも夢主の顔が見たい→自分だけしか見れない寝顔の隠し撮りする→でもロック画面もホーム画面も設定して誰かに見られたら→どこかのトップジムリーダー「トーク画面は?」な感じです。完璧だと思っていたダンデさんですが残念ながら早々にバレています)
(別にこの喧嘩で拗れる事はありません!)
2021/12/05