マサル「あのダンデさんに彼女が居るかもしれない……」

*マサル視点
*最後だけ一瞬R-15注意




 それは本当に偶々だった。

 偶々同じトーナメントに出て、偶々同じ控室になって。今回も優勝を懸けて対戦した相手。勿論僕が勝ったんだけど。
 トーナメント後の会場向け、メディア向けの挨拶も終わって、スタッフさん達と後処理の確認もして。

 で、現在控室。手強い相手によくやったとポケモンたちを労っていたらその相手が入ってきた。で、軽く挨拶を交わしてまた次もお願いしますなんて軽口を叩いて。
 そしてさっさと着替え始める後ろ姿を偶々何とはなしに眺めていたら、そう、偶々見えてしまったのだ。

 その人の褐色の肌でもよく目立つ幾つもの赤い筋。平行に引かれたそれは間違いなく、何者かによって爪で引っ掻かれた傷だ。
 ポケモンバトルをするトレーナーは、確かに身体への傷は絶えないものだ。まだ年数の浅い僕にだって幾つもあるし、跡が残ってしまったものもある。
 ただそれは腕や脚がほとんどで、今しがた目に入った背中に、しかも両側の肩甲骨辺りになんかは滅多に負うことはない。よっぽど油断をしていたのか、野生のポケモンに襲われたのか。それにしては他の部位への傷が少ない。

 ならば何故そこに傷があるのか。経験は無いが知識だけはあるからこそ、僕には分かる。

 ──ダンデさん、彼女居るんだ。

 背中に引っ掻き傷。きっと大人の行為をした際に出来たのだろう。詳しくは無いがそういう表現のある……、いや何でもない。

 とにかく、女っ気ゼロのポケモンバトル一筋!なイメージを十年以上維持し続けているこの男に、ソウイウ行為をする相手が居るという事なのだ。
 相手はどんな人なのだろうか。いつ何処で出会って、どうやって関係を深めて、いつから付き合って、いつからソウイウ事をしていたのだろうか。今までそんな会話を誰かとしているのすら見たことは無い。いや、それは僕が知らないところでしていただけかも知れない。それとも最近に。

「マサルくん?」
「は、はい!?」
「どうかしたのか?」

 すっかり私服に着替え終わっていたダンデさんが、その間微動だにしていなかった僕に気付き「バトル中に怪我でもしたのか」と心配してくる。しまった、いつの間に。着替え終わっているのにも気付かずに見つめ続けていた。

「いえ!全然!全く!この通り元気です!」
「はは!そうか!ならよかった!」
「はい!」
「だがあまり無理はしないでくれよ?チャンピオン」
「了解です!」

 勢いよく敬礼ポーズを取ると元気だなとボールを向けられたのには流石に辞退し、僕もようやく着替えを始めた。それを確認してからダンデさんが出口へ向かって行く。
 あ、確か暫くスタッフさんが近くに居ないって。

「ダンデさん!今外にスタッフさん居ない筈で」
「ん?ああ、迎えがあるから大丈夫だぜ!」
「へ」

 それってもしかして彼女さん、とは言えず、にこやかに手を振りながら出ていくダンデさんを呆然と見送る。急げば間に合ったかもしれない、と気付いたのは控室の清掃をして軽く行い、鍵を閉めた時だ。

 このモヤモヤはどうしたら良いんだと、とにかく僕がまず行ったのはホップへのアポ取りだった。


****


「え!?アニキに彼女が!?」
「そう。ホップ何か知らない?」

 僕の問いに答えず、アニキに彼女と呆然としながら何度も呟くホップを見て、ああこれはダメそうだなと判断する。
 あの背中の傷をホップが見ていたら一体どうなっていたのだろうか。……いや、そもそもホップはそれがナニによって出来た傷なのか分かるのだろうか。まあそれは今は置いておいて。

「マサルはいつ知ったんだ!?」
「知ったというか、もしかしてって思う事があって。ホップなら何か聞いてるかなって思ったんだけど……」
「初耳だぞ……」
「そっかー」

 だよねとは言わないでおく。初っ端の反応から分かっていた事だし。
 それにしてもホップにも言っていないのか。家族なら教えているかと思ったんだけどな。おばさんたち……には流石に聞き辛いかも。それならダンデさんに直接聞いた方がマシ……いや、うーん。

「誰にも言ってないのかな」
「どうだろうな……。他の人……、ジムリーダー、とかか?」
「んー、あとソニア博士とか?僕らが思い付くダンデさんの交友関係と言えばそうなるよね」

 今回の問題点はその知らない交友関係なのだけれど。とにかく、知ってそうな人を当たっていかないとこの疑問が解消されることは無い。
 さっさと腹を括って直接聞けばとは思うけど、それはちょっと憚られる。それにちょっと探偵みたいで楽しいし。

「よし!ホップ、聞き込みだ!」
「ああ!アニキの彼女を突き止めるんだぞ!」


****


「ええ!?ダンデくんに彼女!?どういう事!?」
「こっちが聞きたいんだぞ……」




「ダンデさんに彼女が?知りませんでしたわ〜!」
「そうですか……」




「ダンデに彼女!?ソレ本当なの!?」
「いやそれが分からないんだぞ……」




「ダンデくんに恋人?それはおめでたいね」
「あ、あはは……」




「ボクは……何も……」
「そうか……」




「何か用ですか」
「……いや、何でもないよ」
「そうだな」
「は?何しに来たんですか」




「ダンデに彼女?知らないですね」
「ええ!?ネズさんも……」
「ダンデさん、彼女おると?」
「それを今調査中なんだぞ……」


****


 スパイクタウンから出て、二つのため息が重なる。

 まさかの連敗。ジムリーダーたちを回ってきたけど誰も知らなかった。
 アレは見間違いだったのだろうか。でも、確実にポケモンの引っ掻き傷では無かった。いや決めつけるのは良くないか。うーん、でもなあ。

「マサル、本当にアニキに彼女は居るのか?」
「え、うーん……。そうだと思うんだけどなあ」
「でもネズさんも知らないって」
「……まだ最後の砦がある。多分一番の有力な情報源だ」
「そうだけど……」

 正直、かなり望みは薄くなった。もうちょっと簡単に聞き出せると思っていた。

 ダンデさんとキバナさんがいくらライバルだと公言しているとしても、それは公の場での話。今回の様な特にプライベートな事は話していない可能性が高い。
 だって、ダンデさんとキバナさん、そしてネズさんの三人での目撃情報が多いのに先程ネズさんははっきりと知らないと言った。それが誰かを、この場合だとダンデさんと彼女さん二人を庇ったのだとしたらまあそれは仕方ないのだが、それならばこれから行くキバナさんも同じ結果に終わるだろう。

 ただ、ネズさんも本当に知らない様に見えた。もし嘘をついていたらマリィが反応してると思うし。

「なあ、そもそもオマエがアニキに彼女が居るって思った原因はなんなんだ?」
「え!?え〜っと……」

 困ったな、どうしようか。一応センシティブな内容だと思うし、ホップに伝わるかも分からない。そうだ、伝わらなかった場合は説明を求められ、僕が恥ずかしい思いをしなければならなくなる。それだけは避けたい。
 どうやって此処を切り抜けよう。はー、何処かから暇なキバナさんでも歩いてこないかな……。

「なんなんだ?よっぽどの事が無いとアニキに彼女だなんて思わないだろ?」
「そうなんだけど……」

 そうなのだ。あのダンデさんだからこそ、ホップの言う通りよっぽどの理由がないと彼女が居るだなんて発想にならない。仕方がない、ホップの知識欲が性にも多少向いている事を願おう。

「実はさ、この前の」
「お、マサルにホップじゃねえか!何してんだ?」
「っ!」
「あ!キバナさん!ちょうど良い所に!」

 びっ……くりした。折角話すと決心したと言うのにこのタイミングで暇な……かは分からないけど、フライゴンに乗ったキバナさんが目の前に降りて来た。もう少し早く来てくれれば良かったのに。

「キバナさん!今ちょっと時間良いか?」
「なんだ?研究か?」
「そうじゃなくって……」

 ホップが視線を向けてくる。ヒヨっちゃって。まあ仕方ないか。

「キバナさん、ダンデさんの事で聞きたい事があるんです」
「ダンデの?本人に聞かないって事は……バトルの傾向対策か?」
「いやそれも気になるんですけど、今回は違うんです」

 勿体ぶるなと笑いながら続きを促される。軽く深呼吸をして。此処で知らないと言われれば、手詰まりだ。本人に聞くしか手段は無くなる。

「じ、実は……その、ダンデさんって彼女さん、居ますか?」
「へ?」
「キバナさんが最後の砦なんだ!」
「だ」

「ダンデに彼女ォ!?」

 うるっさ!キバナさんの咆哮の様な叫びに耳を塞ぎながら、驚きすぎてツリ目になっているキバナさんを薄目で見る。この反応を見るに、ダメそうだ。終わった。
 これからどうしようかを考えていると両肩を強い力で掴まれる。痛い!この人自分の手の大きさと力の強さを分かっていないのか!?

「オイ!それ本当かよ!?ダンデに、ダンデに彼女だと!?」
「いやっ、その!確信が持てなくて聞いてるんですけ、どっ」
「聞いたことねえ!十年以上アイツと付き合いがあるがそんな話、一回も出た事なかった!」
「き、キバナさん!マサルが!」
「うお、悪りぃ!大丈夫か!?」

 凄い力でブンブン揺さぶられ、今にも中身が飛び出そうだ。体力ゲージは赤表示、いやもう目を回している。
 ゆっくりその場に座らされ、なんとか大丈夫だと手を上げる。なんで僕がこんな目に。

「本当に悪りぃ。水でも買ってくるわ」
「いえ、もう、う、大丈夫です……」
「マサル、ほら」

 僕のカバンを漁ってホップが水を渡してくれた。こういう時に一緒にジムチャレンジを経験した友がいると安心できる。深呼吸をしながら水を口に含み、少しだけ気分はスッキリした。
 しゃがんでくれているキバナさんと向き合う。少し非難めいた眼差しになるのは仕方がない。

「……で、さっきの話ですけど、キバナさんも知らないですか?」
「あ、ああ。取り乱すくらいには驚いたな……」
「そっか……」
「ホップも知らねえのか?」
「オレもマサルから聞いたのが初耳で」

 マサルから、という所でキバナさんと視線が合う。あ、これは。

「マサルは何処で知ったんだ?」
「あ、そうだ!さっきそれを聞こうとしてたとこにキバナさんが来たんだぞ!」
「そ、それは間の悪い事で……」

 キバナさんが気まずそうに首の後ろに手を回しガシガシと掻きむしる。僕としては間の悪いことでは無かったけれど、それを掘り返した罪は重い。
 結局ホップの前で言う事になってしまった。

「その……、この間のトーナメントで偶々ダンデさんと控室が一緒だったんです」
「あー、今改修工事で部屋数限られてるんだっけか」
「はい。それで、その時、ワザとじゃ無かったんですよ?その、偶々見ちゃって……」
「何を見たんだ!?」
「その……」

「せ、背中の、引っ掻き傷を……」

 沈黙。自然と俯いてしまっていた視線をチラリとあげ、二人の反応を伺う。
 驚いた様に目を見開くキバナさんと、ポカンとした顔で首を傾げるホップ。……やっぱりホップは知らないのか。その純粋さが羨ましいし、同い年として少し心配になる。

「引っ掻き傷?なんでそれが?」
「はー、なるほどなあ。……そう思う様な傷が?」
「はい。肩甲骨の辺りにビュッと平行に……」
「ダンデに、か〜……」

 まだ決め付けるのは早いなとは言いながら少し寂しそうなキバナさん。もし僕の憶測が真実だったとして、話されていなかったのがショックなのだろう。
 僕もホップに彼女が出来た事を黙られていたらちょっと、いやかなりショックかもしれない。

「な、なんなんだぞ!キバナさんは分かったのか?」
「あ〜、オマエは分かんねえの?」
「だってただの傷だろ!?」
「ただの傷じゃないって。この辺りに引っ掻き傷を付けるにはどうしたら良いと思う?」
「え、え〜っと」

 キバナさんがホップの肩甲骨に手を当て、考えさせる。まさかの実地に驚いたが静かに見守る事しか出来ない。
 ホップが自分の背中にどうにか腕を回し、示された場所を引っ掻こうとする。が、微妙に届いていない。

「自分では無理だぞ……」
「だろ?じゃあオレさまの手使って良いから考えなよ」
「それなら簡単だぞ!」

 こうだ!と意気揚々と背中を向けるホップにキバナさんが違えよと背中を叩く。

「ヒントは向き合ったまま、だ」
「向き合ったまま?だと……こう……」

 お、ホップがキバナさんの手を背中に回させた。近いぞ。近い分、側から見る二人はうーん、まああまり広めたくは無い絵面だ。一部の方は喜ぶ、というか。

「これだ!」
「ふふ、そうだな。それでオレさまとはどんな体勢だ?」
「キバナさんと?……うわぁっ!」

 顔を青くしながらキバナさんを突き飛ばすホップ。良かった、ホップはソッチでは無いんだね。

「だ、抱き合ってた……?」
「そう!」
「でもなんでそれで、傷が……ぁっ!!」
「あ」
「お」

 じわじわとホップの顔が赤くなる。漸く答えに辿り着いた様だ。ホップにも知識があるみたいで安心したよ。

「そ、それでっ、背中に、引っ掻き傷……っ!?」
「そういう事だ」
「うん、多分ね」
「アニキに、彼女……、背中に、引っ掻き傷……」

 あ、これはダメかも。またループが始まってしまったみたいだ。誰よりもダンデさんに憧れているホップだもんね、ダンデさんのこういう部分に触れるのは初めてだろう。周りの大人たちもそうなのだから。

「キバナさんはどう思いますか?」
「あー、まあ何と言うか。彼女では無い場合もあるっちゃあるが、彼女が居るんだと思う」
「やっぱり!」
「ただなあ、オレにもホップにも紹介してないとなると聞き出すのは難しいかもな……」

 グッと立ち上がったキバナさんが頭の後ろで手を組み、大きく息を吐く。そう、そこなんだよな。もう他に当てになる人物は居ない。だから真相を暴くには直接ダンデさんに聞くしか無い。
 でも誰にも、それこそ家族にも話していないという事は本人が意図的に隠しているという事で。

 でも、やるしか無い。

「ホップ、キバナさん。僕、次会った時聞いて来ます!直接聞いてやります!」


****


 今日ほど早く来て欲しくて、来て欲しくなかった日は無い。

 前と同じ控室。トーナメントに誘ったらあっさり頷いてくれたダンデさんと二人きり。前と同じ状況。今しかない。やれるのは僕だけだ。

「あ、あの!ダンデさん!」
「ん?なんだ?」
「あの、その……!」

 只事では無いと判断されたのか、脱ごうとしていたユニフォームを元に戻して向き合われる。う、緊張する。ジムチャレンジのチャンピオン防衛戦よりも緊張する。それはちょっと言いすぎだけど。
 ただ真剣な顔をしただけのダンデさんと向き合うのにはかなりのプレッシャーが掛かるのだ。

「ダンデさんって、その……」
「ああ」
「か……、彼女、居ますか!?」

 どうだ!とダンデさんを見上げると、思っていた内容と違ったのか元々大きい目を更に大きく見張ったダンデさんと目が合う。
 しばらくの沈黙と、すぐに破顔し、笑い声。

「あっはっは!真剣に何かと思ったら!」
「し、真剣です!」
「ふふ、はははっ!本当にキミは面白いな」

 めっちゃ爆笑されている。目尻に浮かんだ涙を拭いながら笑うダンデさんに僕は誤魔化されない。絶対に聞き出すと約束したのだから。

「笑ってないで答えてください!」
「ふっ、ああ、すまない!くっ、……彼女が居るか、だったか」
「そうです!」
「居るぜ」
「へ?」

 あまりにもあっさりと答えられ、虚をつかれてしまう。

「あれ、違ったか?」
「い、いえ!合ってます!え!?彼女、やっぱり居るんですか……!?」
「ああ、居るぜ」

 ダンデさんに、彼女は居たんだ!キバナさんよりも、ホップよりも、誰よりも先にこの事実を知った僕は少しだけ浮かれてしまう。

 だから、気付かなかったのだ。

「なあ、何処で知ったんだ?」
「え!?」
「実はな、誰にも話していないんだ。彼女の事は」
「あ、えーっと!」

 なんだか笑顔なのに、真剣な顔をしている訳では無いのに、先程と同じような、でもまた別のプレッシャーを感じる。機嫌が悪い、とでも言うような。

「そ、その!この間、見えちゃったんです!背中の傷!」
「背中の傷?」
「あ!はい!傷というか、えっと、引っ掻き傷、が」
「……ああ、あの時」

 あの時、と思い浮かべているのは果たしてこの間の僕との控室の場面なのか、それとも。
 嫌な汗が背中を伝う。聞いてはいけなかったのだろうか。それにしてはあんなにあっさりと教えてくれたのに。

「それは悪いことをしたな」
「え?」
「見苦しい物を見せてしまってすまなかった。どうか忘れてくれ」
「え、あ、は、はい!」
「それだけか?他に聞きたいことは」

 本当は、彼女さんについて色々聞きたい。僕だって気になるお年頃だ。むしろだからこそここまで聞き回ったりしたんだ。
 先程よりは空気がましになったし、少しくらい良いだろうか。

「えっと、なんでも良いですか?」
「まあ、そうだな。物によるとしか」
「ですよね!えっと……、彼女さんってどんな人なんですか?いつから付き合ってるんですか?」
「ふふ、……そうだな」

 顎に手を当て、斜め上を見ながら考えるダンデさん。その先には彼女さんを思い浮かべているのだろうか。
 やがて視線が戻ってくる。ニッと弧を描いた口から放たれる言葉は。

「秘密だ」
「え!?」
「またいつか、話してやるさ」
「そんなー!」

 目を細めながらくつくつ笑うダンデさんをじとりと睨む。彼女の存在はあっさりと認めたくせに、詳細は教えてくれないのか。……普通にすっごく気になるんだけど!
 あのダンデさんを落とした女性がどんな人なのか、どんな関係性なのか、それを知れる日が本当に来るのだろうか。

 着替え始めたダンデさんの背中をつい視線が追う。そこに映ったのは、うっすらとした跡の上に、真新しい傷。
 あっ、あれからヤったんだな、というのを想像してしまい顔が熱を持つ。僕は何を考えているのか。

「そうだ、マサルくん」
「は、はい!?」
「オレに彼女が居る事は秘密にしておいてくれ」
「え、そうなんですか!分かりました!」
「ああ、頼むぜ」

 変に嗅ぎ回った連中にもよろしくなと言われて血の気がサッと引く。ば、バレている……というか、聞いた人たちに口止めをするのを忘れていた。
 これはかなり怒らせていたのかもしれない。

「あの!すいませんでした!」
「ん?何のことだ?」
「あ、えっと、初めから直接お聞きすれば」
「ああ、まあ良いさ。じゃあ、また呼んでくれ!勿論バトルタワーでも待ってるぜ」
「は、はい!顔出しに行きます!」

 すっかりいつもの笑顔で手を振りながら控室を出ていったダンデさん。これも前の時と同じだ。あ、そうだ、今日もスタッフさんは居ない、筈。
 急いでジャージを羽織って控室を飛び出すと、走って関係者入口へ向かう。

 辿り着いたそこにはさっきまで勇敢に戦っていたリザードンと、ダンデさん。そして。
 すぐに僕に気付いたダンデさんがリザードンの大きな翼で姿を隠す。しかし下の隙間から見えるのはダンデさんともう一人、女性の脚。

 強い視線を感じ、顔を上げた一瞬のうちに二人はリザードンの背中に乗っていて。前に女性を乗せたのだろう。ダンデさんの背中しか見えない。
 そして振り向いたダンデさんが目を細めながら口元に人差し指を当てる。

 僕はそれにコクコクと頷き、小さくなる影がやがて見えなくなるまで見つめる事しかできなかった。


****


「て訳で勘違いでした!ごめんなさい!」
「なんだよそれ!」
「本当ごめんってば!ちゃんと直接聞いたんだ、そしたら」

『……ああ、あの時』

「り、リザードンが抱きついて来たんだって!その時に爪がガッと」
「うわ、痛そうだぞ……」
「本当にね!それで、言われてみれば三本線だったの思い出したんだ。人間だったら四本になるでしょ?」
「まあ、そうなのか……?……と、とにかく!アニキに彼女は居ないんだな!?」

『秘密にしておいてくれ』

「うん、そうだよ!全部僕の勘違い……あはは!」
「まったく、マサルはもっとしっかりしてくれないと困るぞ!」
「あはは、気をつけまーす……」

「なあ」
「は、はい?なんですか、キバナさん」
「本当にダンデに彼女居ねえの?」
「え?はい!さっき言った通りです!」
「ふーーん」
「……、何か思い当たることでもあったんですか?」
「どう思う?」
「えっと……」
「アハハ!嘘だよ、何にもない。他の奴らにはオレさまが伝えといてやるよ。じゃあな」
「あ、ありがとうございます……」


****


「ん、ダンデくん……っ」
「……そうだ」
「んぇ?」
「今日は首に回してくれ」
「ん?ん……、ふぁっ」
「ふ、今度爪でもヤスってやろう」
「ぅあ……ん、爪、痛かった?」
「いや?まあ色々あったんだ」
「ごめんね。……ふふ、くすぐった、あっんぅ……っ!」
「ちゅ、ふふ、こっちのが良いかもな」
「んぅ、ダンデくん……っ、もう」
「ああ、好きだぜ。……愛してる」
「っ!ん、……わたし、もっ!」




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