ウォロさんの所までおつかいにいく話

「こんにちは!ウォロさん!」
「はいこんにちは!また君は懲りずに来たんですか?」
「当たり前です!」

 眩しい笑顔を見つめながらホッと息を吐く。よかった、ウォロさん今日はサボってなかった。ギンガ団本部前で毎日露店を開いているイチョウ商会のギンナンさん達にウォロさんの居場所を聞く様になって早幾日。
 提供された情報が正確にも関わらず、残念ながらその殆どは役に立たない。何故ならウォロさんはよく仕事をサボって──というと本人は心外だと言うが、ヒスイ地方の各地にある遺跡の探索に行ってしまうからだ。大人になっても好奇心旺盛なところ、素敵。

 だから今日は運勢が良い日なのだ。もしかしてウォロさんも私に会いたかったとか?キャッ。

「さて、今日は何をお求めですか」
「それは……ウォロさんの心ですっ!」
「残念ながら今日は取り扱ってないですね!」
「えぇ〜!?今日も、じゃないですか!」

 「昨日はあったんですがね」とニコニコ笑いながら知らされる。ので昨日はサボって居なかったじゃないですか、と心の中で叫んでおく。指摘したらまた『如何にサボって居なかったか』の説明と長々とした遺跡や神話についての話が始まってしまう。
 ウォロさんの事は好きだけど、だからと言って同じ物に興味があるとは限らないのだ。

「じゃあ今日は移動日なので」
「え!?それは聞いてないですけど!」
「今決めたんです!」
「……!」

 ビシっと人差し指を向けられるだけで心臓が高鳴る単純な私。単純すぎてジブンでも呆れる。

 また勝手に持ち場を離れるなんて、他の商会メンバーに言いつけてやるぞ。とむくれているとフフと笑われる。
 きっと今私が何を考えているかなんてお見通しだし、それを実行する事も無いと確信しているのだろう。悔しいがその通りだ。好きな人を窮地に立たせ、自由を奪う事なんて私には出来ない。

 あれ、でも元を辿ればウォロさんがサボるのがダメなのでは。

「もういいですかね」
「あ!ま、待ってください!」

 いつの間にか本当に荷物を纏め、大きなリュックを背負おうとしているウォロさんに待ったをかける。思い立ったら即行動する姿はまさに早業の電光石火の様だ。

「今日はちゃんとお買い物に来たんです!」
「本当に?」
「はい!ラベン博士から頼まれました!」

 博士に持たされていた買い物メモを取り出し、採取に手の掛かるきのみや植物の名を読み上げていく。それに合わせて手際よく並べていくウォロさんは、自由人でもやっぱり商会の人間なんだなと関心してしまう。

 それにしてもかなりの量が積み上がってしまった。ポケモン研究の一環だと毎日張り切っているラベン博士だが、コトブキムラの人達からの依頼を内容も問わず引き受けてしまう為結構物入りだ。それもあの『空から落ちてきた女の子』の活躍によって大分マシにはなったのだけれど。
 これは帰り道が大変だとため息をつきながら代金を支払っていると目の前にまた人差し指が突き出され、顔を上げる様に動かされる。

「今日は掘り出し物もあるんだけどどうですか?」
「え!掘り出し物ですか!?あ、でも。……手持ちが底を尽きたので……聞くだけでもいいですか?」
「もちろん!」

 ウォロさんに掘り出し物の紹介をされるのは初めてだ。漸く私も常連になれたと言う事だろうか。
 だと言うのに財布の中には三十円しか入っていない。元から入って居た分に足して博士からの資金も加えたはずなのだけれど。不足分はきちんと請求しなければ。

 せっかくの記念すべき一つ目の掘り出し物を購入できないのは博士のせいだと恨みながら涙目でウォロさんを見上げる。

「今日の掘り出し物はムラまでの同行権です!」
「ムラまでの同行権……?」
「はい!イチョウ商会の人間が責任を持ってお客様をコトブキムラまで送り届けるんです」
「コトブキムラまで、送り届ける……イチョウ商会の人間が……?それってウォロさんが……?」
「はい!どうですか?」
「買う!か、買います!いくらですか!」
「一万円ですね」
「い、イチマン……」

 緊張か興奮か、震える手で財布のお札入れを覗いてみる。もしかしたら財布と同化して見えないだけで本当は入っているかも……、入ってなかった。
 うう、ウォロさんがコトブキムラまで送ってくれるというのに。これは酷い、全部博士のせいだ。許せない。

「うう……。すごく買いたいんですけど、今回は……」
「今だけなんと!初回購入のお客様だけ特別価格、無料です!」
「え!?無料!?」
「買いますか?買いませんか?」
「買います!!」

 一万円が無料になる衝撃では無い。ムラまでとは言え無料でウフフアハハとウォロさんと歩ける衝撃。そんな上手い話があっていいのか。いいのだ。

 ウォロさんと一緒に居れる事実を噛み締めている間に私が購入した品を再びリュックに仕舞い込んだウォロさんがこちらに向かって笑いかける。

「さあ、行きましょうか!」
「は、はい!」




 楽しい楽しいドキドキキャッキャウフフのいつもとは違うコトブキムラまでの道のり、とは行かず。あれこれ言いくるめられ、ムラとは正反対の遺跡探索に付き合わされ。
 結果ムラに帰り着いたのが夜中になり博士やテルくん、ショウちゃんに心配を掛けてしまうのはまた別の話。
 




2022/02/04




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