日焼けの話

*ダンデ、夢主共に十五歳くらい




 久々に家に来たと思ったら何かの分厚い資料をペラペラ捲っているダンデくんを見て、ふと違和感を覚える。

「ダンデくん、なんか……」
「なんだ?」
「なんか……」
「?」

 訝しそうに片眉を上げる表情も、不思議そうに顔を傾ける仕草もいつも通りだというのに、この違和感。
 そうだ、なんか。

「なんか、黒くない?」
「は?」
「ダンデくん、日焼け止め塗ってる?」
「塗っ……たと言ったら嘘になるかもしれない」
「かもしれないじゃなくて正直に塗ってないって言いなさい」
「塗ってない」

 潔く言い切ると、小さい子供のように視線を斜め下に彷徨わせ少しだけ口を尖らせる。
 怒られると思っているのか。ならどうして再三注意していると言うのに日焼け止めをきちんと塗らないのか。ローズさんはこの事を把握しているのだろうか。

 貴方のポケモンだけじゃなくって貴方自身にも価値があるという事をいい加減自覚してほしい。チャンピオンになって何年目なのだ。もう五年目だぞ。

「そんなに焼けちゃってさ」
「……別に、オレがどうなろうと問題ないだろ。それに、」
「でも流石に痛かったりするんじゃないの?」
「……」

 口を幾度かパクパク動かし、「そんなに焼けてないから、大丈夫だぜ」と小さい声で反論される。そんな訳あるかい。
 私は小さい頃、ダンデくんの家の庭に毎年夏になると設置される大きいプールに入り浸り、日焼けで皮を剥いていた女だぞ。舐めないでほしい。ピリピリヒリヒリジンジンと死ぬほど痛いのだから。

 手持ち無沙汰にお行儀悪く資料の隅をくるくる丸めているダンデくんに近付き、昔とは違って模様がなくなったシンプルなTシャツを勢いよく捲り上げる。
 あら綺麗に線の入りかけた腹筋。同い年の男の子のお腹なんてそう見る機会は無いけれど、平均よりは鍛えられていそう。

 なんて本来の目的とは違う意味で眺めていると、私より遥かに熱を持った手に腕を掴まれる。

「な、何をするんだ!」
「どんだけ焼けたかを見ようと」
「だからっていきなり脱がせようとするか!?」
「なっ!脱がせようとはしてないし!ちょっと捲っただけじゃん!」
「いいからっ!離してくれ!」
「わ!……もう」

 Tシャツを掴んでいた手を指を一本ずつこじ開けられ離させられる。
 黒く焼けた顔がうっすら赤らんでいて、流石に昔からの仲とはいえ距離が近すぎたかと反省する。別にそれを見て、私の顔も赤くなんてなってないんだから。

「そ、そういえば」
「今度はなんだ」
「ダンデくん、その、……いいお腹してるね」
「はあ!?」
「あ、ちがっ!変な意味では無くて!……ぶっ」

 顔に向かって紙の束をぶつけられる。もしかしなくても先程までダンデくんの手の中にあったものだろう。痛い。
 乙女の顔に傷でも付いたらどうするつもりなのかと非難の目で睨むと、珍しく目尻を釣り上げた黄色とぶつかる。また口をパクパクさせ、そして放たれた言葉は。

「この、……、……変態女!」
「へ、ヘンタイ!?」
「そうだ!キミにピッタリだ!」

 そう言ってどすどすと窓際まで移動し、外に向かってボールからリザードンを出すダンデくん。リザードンが怒った様子のダンデくんと私をきょときょと見比べている間に、ダンデくんはどすんとその大きな背に乗る。

「ちょっと、ダンデくん!?」
「もう帰る!じゃあな!二度と来ないからな!」
「ダンデくん!?ダンデく〜〜……ん……ほんとに行っちゃった」

 オレンジのドラゴンはやがて黒い点となり、遠くへと消えてしまう。
 
「ごめんだけど、これ要らないの〜……?」

 一番上の紙に重要と大きく書かれた資料を手に、私は暫くの間窓から空を見上げ続けた。



 ……し、その数分後には恥ずかしそうに下唇を出したダンデくんが資料を取りに戻ってきたのだった。

 そのついでにシックスパックになったらまた見せてねとお願いし無言でデコピンされた私に、ダンデくんが彫刻のようなバキバキに割れたお腹を見せてくれるのは数年後の話。かもしれない。


2022/08/13




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