小さい頃の話

「ねー、ナナシはどういう人が好きなの?」
「え?好きな人?うーん」

 今の今まで女子特有の男子には入り辛い話題が続き離れようにも離れがたい苦痛な時間だった。それがソニアの話題転換によって意識が耳に集中する。ナイスだぞ、ソニア。

「んーー、そうだなあ。カッコよくて、優しくって、バトルが強い人!ポケモンの事が好きなのは必須かな。あ、あと髪の毛が長い人!」
「……」
「そういやこの前シロナさんのバトル見てたもんね。そんなの当てはまる人シロナさんくらいしか居ないかもよ」
「え〜そうかなぁ。じゃあお髭が生えてる人!」
「おっさんじゃん!」
「もーー!」
「………」

 キャッキャと二人が盛り上がる横でオレの頭の中では何度も先程のナナシが言う条件がリフレインしている。カッコよくて優しくてバトルが強くてポケモンのことが好きで髪の毛が長くて髭が生えている人。オレはカッコいいかは分からないがナナシには絶対優しくしてるしバトルはまだまだこれからだからまずはソニアに教えてもらいチャンピオンになるとして、ポケモンの事はもちろん好きだし髪の毛はこれから伸ばすし髭も生えるようになったらナナシが好きなくらいで整えるようにする。絶対にする。そしてナナシと恋人になる。

「ねえってば!ダンデくんは?」
「え?」
「ダンデくんはどんな人が好きー?」
「お、オレは……。年下で、笑うと可愛くて、甘えん坊で、泣き虫で、ポケモンの事が好きな、子、かな、」
「なんかそれってナナシの事みたい」
「はぁっ!?」
「え!そうなの?ダンデくん」
「ち、違う!ナナシの事なんかじゃ絶対絶対絶対に違うからな!」
「あ、ダンデくん!」

 ソニアに言い当てられてしまった事に動揺し、思わずその場を逃げ出してしまった。ごめん、ナナシ!本当はソニアの言う通りナナシのことなんだ。キミの言う条件を満たした暁には想いを伝えるから待っていてくれ!

───この出来事がオレの人生で唯一やり直したい事になるのは言うまでもなく、ここからナナシには避けに避けられチャンピオンになって数年が経ち、条件を満たしたと言える今でもナナシと二人きりで話せるチャンスすら訪れていない。更に条件をほぼ満たすキバナというライバルも現れ恋人になるのは益々遠のくのであった。


****


「ダンデくん走って行っちゃった」
「……ダンデくん、私のこと、嫌いなのかなあ」
「ああ!泣かないで!あんな天の邪鬼なんかほっとけばいいのよ!」
「あまのじゃくって……?」
「いいのいいの!ねね、私も髪伸ばしたら好きになってくれる?」
「っうん!ソニアちゃんのこともっと好きになる!」
「えへへ、じゃあ伸ばしちゃお〜」
「絶対似合うよー」

 くすくすとソニアちゃんと笑い合う。でも、さっきあんなにダンデくんに否定されたの結構ショックだな。まだ恋とかよく分からないけど多分ダンデくんの事はママやソニアちゃん達とは違う意味で好きだった気がする。
 さっき言った条件だって、途中まではダンデくんの事言ってるって気づいたから慌ててこの間バトルのビデオを見たシロナさんの事に変えたのだ。

── ナナシの事なんかじゃ絶対絶対絶対に違うからな!

 うう、思い出しただけでまた涙が出てきた。

「大丈夫だよ、ナナシ。今日はお家帰ろっか、送っていくね」
「……うん、ありがとうっ!」

 ソニアちゃんが優しい声をかけて家まで送ってくれた。暫くはダンデくんと顔を合わせられる自信無いなあ。

───この出来事から私は幼馴染の一人を避けるようになり、何故か定期的にソニアから出来もしない恋人の有無を確認されるという人生を歩む事になるのだった。




改稿:2021/08/18




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