ある日の石板前

*幻想水滸伝リマスター発売決定記念
*U時空(U主=リオウ(名前だけ出てきます))
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 石板に掘られた名前を指でなぞる。それぞれの役割が刻まれたこの石板に、同盟軍に入っているとはいえただの一般市民である私の名前が刻まれる事はない。

 つ、と勝手に指がなぞるのは、もう場所も覚えた天間星。そこに刻まれているのは、いつもこの石板を守っている人物の名前で。

「……君、またここに来てるの」
「あ、ルック!お帰りなさい」

 君も暇だねと言いながら石板の前の定位置に立つルック。初めこそ何を話しかけても無視され続けたが、最近ではなんとか少しくらいなら話してくれるようになった。
 しかも今なんてルックから話しかけてくれた。これは大きな一歩だ。きっと少し前までなら手に持っている長いロッドで無言のまま押しのけられたことだろう。

「今日はもう出なくていいの?」
「まあね」
「珍しい、久しぶりなんじゃない?」
「そうだね」
「……」
「……」

 会話が続かない。というか相手に会話を広げるつもりが無いんだから仕方がない。

 石板に背をもたれさせ地べたに座る。ここは人通りが多いので忙しなく人が行き交いするのを眺めるだけでも面白いのだ。
 それに、盟主さまに呼ばれない限りはいつもルックが見ている景色。

 ルックとの沈黙の時間が辛いと言う訳でもないのでぼんやりと人間観察を始める。と脇腹に衝撃。どうやらルックが手に持つロッドで小突かれた様だ。

「痛いんだけど!」
「大事な石板にもたれ掛からないでくれる?レックナート様から預かっているものだから」
「ご、ごめんなさい……」

 嫌がらせかと思えば御もっともな事を言われてしまい慌てて立ち上がる。
 彼の大事な師であるレックナート様。彼が誰よりも、何よりも尊敬している彼女に失礼があってはいけないのだ。

 一瞬にして沈黙が気不味くなる。完全にルックの地雷を踏み抜いたし、これは久々にやらかしてしまったな。

 遠くからビッキーちゃんのテレポート失敗の音と悲鳴が聞こえる。どこへ飛ばされたかは知らないけど飛ばされた不運な人が無事に帰ってくる事を祈るしかない。……あ、そうだ。
 ポケットに手を入れ目的のものを取り出す。今日はこれの為にここに来たんだった。

「ねえ、ルック」
「……」
「あの、これ」

 ツンと無視するルックにお守りを差し出す。彼はこの軍で一番と言って良いほど運が悪いと盟主のリオウさんがボヤいているのを小耳に挟んだ。
 だからお守り、と言っていいのかは分からないけど、少しでも彼の不運がマシになります様にと願いを込めて作ってみたのだ。

 彼がよく身に纏っているローブと同じ色の緑を基調に、中には運の石と、私が母から貰ったブレスレットのパーツを幾つか入れておいた。
 ブレスレットはバラバラにしちゃったけど、彼の為になるなら故郷で暮らす母も仕方ないと言ってくれるだろう。

「……何」
「お守り!ルックの為に作ったの。運気上昇間違い無しだよ!」
「くだらない」
「うぅ……」

 直ぐにバサっと切り捨てられ、差し出していたものをおずおずと引っ込める。やっぱり分かっていたけど受け取っては貰えないか。
 悲しいことに想定内ではあるので、考えていた通り私がルックの代わりに持って遠くから彼の幸運を祈るしかない。

 ごめんねと渋々立ち去ろうとした瞬間に、後ろから肩を抱かれる。

「よお、ルック。女の子泣かしてんのかよ?」
「し、シーナさん」
「……はあ」

 また面倒くさいのが来たとルック。私もシーナさんは正直苦手だ。多分ルックも。ルックはきっと喧しい私たちに早く立ち去って欲しいとか考えているんだろうな。

 目敏いのかはたまた今までのやりとりを見られていたのか、シーナさんが私の手に握られているものに気付く。

「ルックにプレゼントか?」
「あはは、まあそんな所ですかね。……受け取ってはもらえませんでしたけど」
「……」

 ジトっとルックを見るけど我関せずと腕を組み目を閉じている。全く、顔だけは良いんだから。

「じゃあおれが貰うぜ!」
「えっ」
「は?」
「ルックは要らないんだろ?」

 じゃあいいじゃんと手を出される。ど、どうしよう。これはルックの為に作ったんだし、ルックが受け取ってくれないにしても他の人に渡すのは絶対に嫌だ。

 断ろうとすると手からお守りが抜き取られる。ビックリして視線で追うと機嫌悪そうに眉間に皺を刻んだルックが居て。

「これはぼくのだよ」
「!」
「なんだ、つまんねぇな」

 仲良くしろよと言いながらシーナさんは側の階段を登って行ってしまった。残されたのは私とルックの二人きり。

「る、ルック……」
「何」
「ううん!何でもない、です」

 顔が熱い。ルックの顔はよく見れない。でも受け取ってもらえた。シーナさんが煽ったからな気もするけど、それでも受け取ってもらえたのは紛れもない事実だ。嬉しい。

「……返品は、出来ないからね」
「分かってるよ」

 チラリとルックを見上げるといつも通りの澄ました顔だけど、ほんのり耳が赤くなっていて。

「わ、私っ!お洗濯のお手伝いして来る!」

 ダメだ、これ以上此処に居ては心臓が保たない。そう判断した私は、階段を駆け上がる。嬉しい、嬉しい!

 神様、どうかルックの運勢を少しでも良いので上げてください!この戦争が終わるまででいいので、私を彼の側に居させてください!

 外に飛び出した私は雲一つない夕焼け空に向かって指を組み、私はひたすら祈り続けた。




(リマスター発売決定記念です!これ自体書いたのは一年ほど前くらいなんですがもう本当リマスター嬉しすぎるので記念投稿です!ルック!見てるかー!?未来はこんなにも明るいぞ!!)

(幻水の二次創作を読んだのが中学生とかその頃でもうその後はサイトが消えていたりと既に読む術がなく、多分この話と似たような物もあったかと思うのですがどうかご容赦ください。何番煎じでもこういうのが好きだしルックが好きなんです…泣 シーナさん当て馬ごめんなさい)


2022/09/17




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