キミは本当によく怪我をする

 オレの恋人はよく怪我をする。怪我と言っても小さなもので、擦り傷や切り傷、痣程度ではある。だが怪我は怪我だ。
 一応は恋人という関係なのだから、心配になる。本人も知らない内に出来ていたと能天気に笑うものだから尚更だ。

「で、ここはいつ切ったんだ」
「え?……うわ、本当だ!いつだろ」
「今朝はなかったぜ」
「じゃあ昼間どこかに引っ掛けたのかも?分かんないや!」
「キミなあ」

 「だって知らないものは知らないもん」と、オレの心配を他所に面倒くさそうに唇を尖らすナナシ。
 一体誰の身体なんだ、なんでオレの方が把握しているんだ、と口から出かかった言葉の代わりに大きく息を吐き出す。
 言ったところで傷が減るなら、とっくの昔にナナシの身体は傷ひとつない身体になっている。

 明らかに話題を変えたいのだと分かる素振りでナナシは「あ!見て!」とテレビを指差す。
 リビングのあちこちで自由に眠る体制を整えているオレのポケモンたちを気遣い音量を抑えられたそれは、昨日のトーナメントの様子を映し出していた。

 チャンピオンの思いつきで不定期に開催されるトーナメント。昨日は久しぶりの開催だった。
 タッグバトルだと張り切るチャンピオンがパートナーに選んだのはオレで、当然の如くオレたちは優勝を勝ち取った。

 中には白熱したバトルもあり、今ナナシの膝に頭を乗せ、うとうと微睡んでいるリザードンは、決勝戦でキョダイマックスを決め大活躍をしてくれた。
 「かっこいいねえ」と頭を撫でるナナシの手を気持ちよさそうに受け入れているその姿は、テレビで映し出されている姿とは正反対のもので。
 メディアが称する勇敢さはもちろんあるものの、生まれつきの臆病さも抜けきらないリザードンが、よくここまでナナシに懐いたものだなと考える。いつの間に仲良くなったのやら。別に嫉妬をしている訳ではない。

 オレも横から手を伸ばし、鼻筋を撫でてやるともう少しこっちだと頭を浮かせる。……ん?

「キミ、膝にも痣が出来てるじゃないか。しかも両膝。これも知らない内に、か?」

 「本当にキミは」とナナシの顔を見る。と、予想とは違いナナシは唇を尖らしておらず、キッとオレを睨み上げていて。

「これは!誰かさんが!昨日帰ってくるなり盛ったから!でしょ!」
「……?……ああ」

 そういえば、昨日は玄関で、だったな。
 久しぶりのトーナメントだったから、興奮が抑えられなかったから、ナナシにそれをぶつけてしまった。

 キミもノリノリだったじゃないか、というのは飲み込んで、ならば対策を考えなければならない。と。

「……玄関にクッションでも置いておくか」
「玄関の選択肢を消して!ベッドまで我慢して!」
「まあ、それは……善処しよう!」




2023/04/15




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