おつかれ刃ちゃん

*星核ハンター夢主





「ひっ」

 突然お腹に冷たいものが押し当てられ、目が覚めると同時に声が出た。冷たいなにかはそのままするりと肋骨辺りまで移動し、不幸にもその場で落ち着いてしまう。
 そして勝手に布団の中に入り込んでいる、すぐそばでモゾモゾと動くでかいなにか。

「……刃ちゃん?」
「……」

 無視。

 一体なんなんだと様子を伺っていると、あっという間に、これまたなんとも言えない体勢で落ち着かれてしまった。簡潔に言うと『巻きつかれている』だろうか。足が腕が胴体が、私に絡みついてきたのだ。

 そっちが落ち着いたとしても、このままでは私が落ち着かない。早く脈打つ心臓は抜きにしても、何故かこの男は堂々と肩に頭を乗せてきたので普通に痛い。
 刃ちゃんとは反対側の唯一自由に動かせる腕で無言で肩に乗る頭を押しのけ、ごめんねと肩を撫でて詫び、そのまま背中に手を回す。

「どうしたの、刃ちゃん」
「……」

 無視。

 どうしたのだろうか。
 あまりない珍しい出来事に返事があるまで問いただしたくなるが、私も睡眠を取りたい。

 カーテンの隙間から漏れるのは薄暗い月明かりのみ。今日は頼りなく線の細い三日月だった。まだまだ日の出には遠い時間だろう。時間を確認しようにも、スマホは刃ちゃんの向こう側にある。
 今から何時間寝れるだろうかと考えていると、隣から長く息を吐く、小さな音。

 そっちに視線を向けるも、刃ちゃんは結局私の肩におでこをくっつけることで落着したようで、残念ながら顔は見えずつむじしか見えない。

 そういえばと、最初にお腹に触れてきた冷たいなにか──結局手だった訳だけど、それが私の体温で充分にあったまっていることに気付く。

「さむかった?」
「……」

 無視。

 今日の夜は冷え込むとサムが言っていた。その言葉通り、いつもよりかなり冷え込んでいる。
 きっと刃ちゃんも寒かったのだろう。任務が予定より長引いたようだし。少なくとも私が寝支度を整える時にはまだ戻っていなかった。

「おかえり、おつかれさま」
「……」

 巻き付く手足がぴくりと少しだけ反応し、聞こえているのかと安心する。やはり重い事態ではない。

 刃ちゃんを抱きしめながら、一定間隔で刻まれる呼吸音と鼓動を感じて。体温が低い刃ちゃんの身体に、私の体温が馴染んでいって。
 ああ、段々と瞼がくっつこうとする頻度が高くなってきた。

 なんだか穏やかな夜だなあと、刃ちゃんのつむじに頬をすりよせ、「おやすみ」の四つの音が紡げたかは分からないまま、そこで私の意識は無くなった。





2024/1/21




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