刃ちゃんがショタ応星になっちゃった!

*星核ハンター夢主





【あらすじ】
 刃ちゃんが、ショタ応星(十二歳くらい)になっちゃった!頑張って元に戻ってもらうぞ!(結構手詰まり)


「ほら、ここが今の羅浮だよ」
「……っ」

 繋いでいた手にぎゅっと力が入った。街を、人を、忙しなく飛び交う星槎を追いかけるその瞳はキラキラと輝いている。幼い男の子のその微笑ましい姿に、少しだけ胸が痛むのは。
 あちらこちらと目を動かし、色んなものに興味があるだろうにその場を動こうとしない少年の手を引き、小さな歩幅に合わせ足を動かす。

 幼い少年──刃ちゃんが、子供の姿に、それも応星としての記憶しか持たない少年になったのは数日前。刃ちゃんというよりは応星の子供の頃に戻ったのだろう。
 なんとか刃ちゃんに戻ってもらおうと星核ハンター総出であれこれ試してみたけれど、残念ながら彼は今現在も応星のままだ。
 今回は一か八かで応星の記憶を辿るように、仙舟・羅浮にまで足を伸ばした。子供の姿だからと言って指名手配をされている地だ。内心怯えている私をこの子は知らないのだろう。なんて言ったって八十一億だぞ。

 ただ、羅浮に来たからと言ってはいすぐ戻りましたとはならないのが現実だ。
 そもそもの話、刃としての記憶がなく、応星としての記憶しか持たないこの子が何に興味があるかが分からない。私は応星の頃を知らないし、刃ちゃん自身も知らないと言うのだから私には知りようがないのだ。

 だから、彼が無意識に孤族の女性を目で追っているのも、何も知らないのだ。

 私が知らない刃ちゃんの、応星としての過去を知っていて、そして未だになお刃ちゃんが囚われ続けている女性。
 この子はもうその人には出会っているのだろうか。孤族を目で追っているのだから出会っているのだろう。もうその人は居ないんだよと教えてあげたくなるのは、ぐちゃぐちゃに汚い色をした醜い嫉妬からだ。刃ちゃんならまだしも、こんな幼い子にそんな感情を見せるわけにはいかない。

 笑顔を貼り付け、目に入る店を示しては応星に興味はあるかと尋ねる。
 彼は食には興味が薄いようで、残念ながら私とは趣味が合わない。これは刃ちゃんと同じだなと共通点を見つけ、少しだけ彼を知れた気になる。
 とはいうものの、あまりにも興味を示すものが少なく──というよりは遠慮からなのだろう、あっという間に回りきってしまった。そも、私自身羅浮に詳しくないのでスマホで現在地を確認しながらなのだ。それを見ているのならなおさら。
 慣れない地で子守をしながら歩き回るのになかなか体力を消耗するなと新しい気づきを得ながら次の目的地を探す。

「ねえ応星くん。行きたいところは無い?」
「……えっと」
「会いたい人……は難しいか」

 応星くんはあまり主張をしない。ので提案しようにも彼が過ごした時より数百年経っているのだった。相手が長命種だとしても会いたい人に会うというのは厳しいかもしれない。
 あ、でも。と、とある人物に思考が追いついたところで後ろから「やあ」と声をかけられる。振り返るとまさに思い描いていた人物。

「こんにちは。また懐かしい顔を連れているね」
「……こんにちは」
「景元……?」
「おや」

 ああ、この応星は、彼を知っているのか。ならやはり、彼女のことも。
 目がこぼれ落ちそうなほど見開き、声を掛けてきた景元将軍サマを見上げる応星くん。危害を加えなさそうなら、この先はこの人に預けてもいいかもしれない。
 そう思いながら二人を観察していると、あまり好きにはなれない黄色と目が合う。

「てっきり君と彼の子かと思ったよ」
「だったらよかったんですけどね」
「ははは、冗談だ。怒らないでくれるかい」

 「なあ」と何故か応星くんな同意を求め、その頭を撫でる。のを嫌そうに応星くんはその手を振り払った。

「やめろ!」
「すまない、つい『幼子』の姿を見るとね」
「……っ!」
「将軍サマ」
「しょうぐん……?」

 驚いた顔で将軍サマを見上げる応星くんに、目線を合わせるように将軍サマは膝をつく。その行動にムッと眉尻を上げているのを見て、こんなに小さいのにプライドだけは一丁前だと、また刃ちゃんとの共通点を見つけてしまった。

「ああ、私は羅浮の雲騎将軍、景元だ」
「……」
「君は?まだ名乗れない年頃かい?」
「っ、応星だ!」
「知っているよ」

 あははと楽しそうに笑う将軍サマを、ますます応星は睨みつける。……この二人は、そんなに仲が悪かったのだろうか。
 ぎゅうぎゅう強く握られる手を握り返し、庇うように少しだけ前に出る。これが母性というものなのかもしれない。守ってあげなくてはと本能がざわつく。

「将軍サマ、揶揄うのはやめてください」
「……!」
「すまない。あまりにも懐かしくてね」

 申し訳なさと、どこか寂しさを滲ませる将軍サマに、そうかこの人も残された側だったなと思い出す。
 ……この人なら、大丈夫だ。きっと良い方向へ動く。それが私たちにとってかは分からないけど。

「将軍サマ、お願いがあるんです」
「珍しい。なんだい?」
「少しの間だけこの子の面倒を見てくれませんか?」
「……な!」
「私がかい?」

 私の提案に将軍サマは意外そうな顔をする。まあそうだろう。こんな幼い姿をしていても、記憶がなくても、彼は指名手配犯なのだ。
 それを運騎将軍に渡そうとしている。ただ、きっとこの人は『何もできない』。

「少し急ぎの任務が入ってしまって。それにきっと貴方なら、この子にとってもいい方向に持っていけるでしょ?」
「……うーん、それはどうかな」
「悩む必要が?」
「参ったな」

 答えは決まっているであろうに答えを出ししぶる将軍サマに苛立ちを感じていると、くいと腕を引かれる。
 目を向けると少しだけ不安そうな顔がこっちを見ていた。もう帰ろうかと声を掛けてしまいそうになるのを堪え、手を解いて背中を押す。

「では、よろしくお願いします」
「まだ承知した訳では無いんだけどね。……本気かい?」
「ハイ」
「……」
「ふむ。もし戻った場合は」
「そうなったら……、ふふ。私たちの『刃ちゃん』は戻ってくるので」
「……」

 何かを訴えようと口を開き、そして何も発することなく閉じる動作を繰り返す応星くんにヒラヒラと手を振る。チラリと将軍サマを見るとため息をつかれてしまった。
 彼はそのまま幼子を抱き上げ何処かへと歩いていく。それを眺めながらほうと息を吐く。安堵、疲れ、寂しさ。様々な感情が複雑に絡まったそれを吐き出すと少しだけ楽になった。

 将軍サマの元で応星くんが刃ちゃんに戻ったとして、果たしてその刃ちゃんは『私たちの刃ちゃん』なのだろうか。次会う時には敵対したりしてね、なんて最悪のケースを想定しつつ一応カフカに報告を入れる。選択肢の一つに知己を頼るというものもあったのだから苦言の心配はない。
 案の定『了解』とだけ返ってきたのを確認し、スマホの電源を落とす。

 暇だ。急な任務なんて入っていないので不審者にならない程度に羅浮を練り歩く。さっき散々歩き回ったものの、特に印象があった訳ではないのでまた店を冷やかしに回ろうか。
 ダラダラと歩き回り、小腹が空いたら何かを食べ、また歩く。羅浮はなんて広い舟なのだろう。ただどれだけ広くとも終わりは来る。
 四週目をしたあたりでもう限界だと足を止めた。ちょうどそこは港で、日が暮れてきたにも関わらず忙しなく飛び交う星槎を眺める。

 そうだ、と冷やかしすぎて顔を覚えられてしまい仕方なしに購入したオルゴールを取り出す。渋々買ったものの、気に入ったものではあるので不満という訳ではない。
 裏側のネジを巻き、蓋を開ける。途端にくるくると星と月の仕掛けが周りだし、何かの音楽を奏ではじめた。あまり聞き馴染みはないがこの地ではメジャーなものなのだろう。それを聞きながら欄干にもたれかかり、行き交う星槎を眺め続ける。
 時間を無駄にしているのだろうが、これも必要な時間なのだ。そう言い聞かせ、あの星槎の中にはもしかしたら彼の求める孤族の女性がいるかもしれないななんて考える。そんな訳はないのに。

 もう彼は刃ちゃんに戻れたのだろうか。そういえば集合場所もなんなら時間も決めていなかったな。あの幼子はスマホを持っていないし、将軍サマの連絡先なんか知る訳がない。
 あはは、私たちもう会えないかもね。

「ふふふ、あはは」

 すっかり辺りは暗くなった。離れて何時間が経ったのだろうか。彼は今何をしているんだろう。私を探してる?それとも、私のことなんか、私たちのことなんか忘れちゃった?新しい人生を歩みたくなった?

「……帰ろうかな」

 任務中、一時帰還するだけだ。なんの不都合もない。仲間とは逸れちゃったけど、それは任務遂行のため。大体今回の目的自体が仲間を元に戻すことだったのだから。うんうん、なーんにも問題ない。もう帰ってしまおう。

 最後にもう一回だけオルゴールのネジを巻き、目を閉じる。もたれた欄干はずっと冷えている。羅浮の夜は案外冷えるのだな。
 今回で羅浮の現地状況をかなり把握できた。今後何かの役に立てるといい。……こうやって無駄なことではないと自分に言い聞かせなければ、なんだかくじけてしまいそうだ。

 小さな金属音が弾ける音は次第にゆっくりとなり、やがて止まる。ああ、終わってしまった。
 大きく息を吐いて身体中の空気を入れ替える。よし。

「帰ろう!」
「帰るのか?」
「!」

 ガバリと欄干から起き上がり、声のした方を振り返る。そこにいたのは、刃ちゃんで。

「も、戻ったの?」
「そうでなければ何故俺は此処に居る」
「そりゃそうだけど……」

 ちらりと刃ちゃんを見上げる。子供らしさは一切なくなった、よく知る刃ちゃん。本物かと確かめるために、刃ちゃんの頬をつねる。
 途端に舌打ちをしながら手を跳ね除けられて、現実で、本物なんだなと実感する。

「戻っちゃったんだね」
「……随分と残念そうだな」
「あはは、まあ……ね」
「……」

 戻らなかったら人生やり直せたかもしれないのにねという言葉は飲み込む。それでも結局彼は死ねないまま生きていくしかないのだから。
 なんだか沈黙が気まずくて視線を逸らす。

「……羅浮は、いいところだね」
「分からない」
「そっか。……ね、どこまで覚えてるの?」

 昔のこと、私たちのこと、さっきまでのこと。どの解答が来てもよかった。
 刃ちゃんを見上げると、僅かに目を細めて私を見ていた。それは一体どういう感情なのだろうか。

「さあな」
「え、なんで」
「質問内容が曖昧すぎる」
「……」
「帰るんだろう。行くぞ」
「……うん!」

 視界の隅に映っていたふんわりとした白い髪の後ろ姿に軽く頭を下げ、歩き出した刃ちゃんの後をついていく。
 二人はどんな時間を過ごして、どうやって刃ちゃんは元に戻ったのだろう。刃ちゃんはきっとそれについて教えてくれない。
 もしまた羅浮に来ることがあれば、あの人に聞いてみようか。あまり関わりたくは無いけれど。

 もし刃ちゃんが元に戻らなかったら、こうして後ろをついていく事も二度となかったのかもしれないなと思い、安堵の笑みが浮かんだ。



****


「……彼女も行ったようだね」
「……降ろしてくれ」
「はいはい。さて。応星、……あー、まさかまたこの名を呼ぶことになるなんてね」
「……俺は、いつから『刃』と名乗っているんだ。何故、俺は生きている」
「それを今の君が知ったら面白くないんじゃないかい?」
「……ふん」
「さあ、応星。君はどうしたい」
「……」
「現代の技術の進化でも実感するかい?流石に工造司に連れていくことはできないけどね」
「戻りたい」
「おや」
「今の俺の、元の姿に戻りたい」
「……何故だい?」
「あの人が、ずっと寂しそうだ」
「ああ、彼女は随分と疲れているようだったね」

 応星はずっと彼女が去った方向を見ている。それにしても。

「君がそこまで気を許しているのは珍しいね」
「……ずっと、気にかけてくれている」
「そうかい」

 昔の今くらいの君は、と思いを馳せ、くすりと笑いが込み上げる。

「なんだ」
「いや、なんでも無いよ。ならやはり彼女を追いかけようか」

 おいでと幼子を呼び寄せ歩を進める。彼のプライドにかけて手は繋がないでやろう。彼は面倒な怒り方をする。

 ……懐かしさによる寂寥感を味わっていたのはそこまでで、ちょろちょろと動き回る女を付け回し、かと思えば陰から熱心に見つめる幼い姿に、彼の異常な執着心も思い出し、乾いた笑いしか出なかった。





(おまけで元に戻れなかった!星槎眺めてぼーっとしてる夢主が一人で帰ろうとしてて俺を置いていくなって元に戻った(そこを書け))

2024/2/27




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