ツンツン幼馴染夢主
*夢主がツンツン(デレ)
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オレはハロンタウンのダンデ!
ガラル地方のチャンピオンに成るべく、もうすぐジムチャレンジに挑戦する十歳のひよっこトレーナーだ!
ハロン生まれ、ハロン育ちのオレにはあまりよくわからないが、ハロンは世間的に田舎に分類されるらしい。同年代の子供は居ないし、そもそも家がオレの家と誰も住んでいない空き家の二つしかない。
他はウールーたちの牧場のみだ。
そうなると一緒に遊ぶのは一番道路をまっすぐ行ったブラッシータウンに住む子供たちになる。
マグノリア博士のポケモン研究所に入り浸っていたオレは特に博士の孫のソニアとナナシと遊ぶ機会が多かったと思う。
ソニアは同い年で、ポケモンに詳しくよく話したりもしていた。
一つ下のナナシはどうやらオレの事が嫌いな様でいつからかゲボクとまで呼ばれるようになり、オレが研究所に顔を出すといつも避けるように外に出て野生のポケモンたちと過ごしていた。
八歳になってすぐぐらいから縁あってチャンピオンのマスタードさんの元でポケモントレーナーとしての修行を行えることになり、あまり顔を出せなくなってからは何故かナナシにさらに避けられる様になってしまった。
博士もソニアも構わなくていいと言うのでこちらからどうこうする事はなかったが、彼女と普通に話したいとは日頃から思っていた。
ジムチャレンジまであと三ヶ月のある日のこと。
修行の途中に道を間違え何故かハロンまで帰ってきてしまった時、牧場の中にナナシがいるのに気がついた。
ウールーたちは警戒するでもなく普段通り寛いでいたし彼女の周りにも集まっていたので彼女は前からよくここに来ていたのかもしれない。
「ナナシ?」
「えっ、な、なんでアンタがここに居るのよ!修行中でしょ!」
「いや、まぁそうなんだが……気がついたら何故かここに来ていたんだ」
「迷ったの!?いくら方向音痴でも海越えるってありえないわ!どっかおかしいんじゃないの!バーカ!」
「なっ!確かによく迷子になるがバカじゃない!」
「うるさい!バーカバーカ!チビ!私帰る!」
立ち上がって牧場から出て行こうとするナナシ。に、ウールーが飛びかかった。飛びかかった!?
「いったーい!」
「何をしているんだウールー!ワンパチ!」
「イヌヌワッ!」
「ナナシ!大丈夫か!?」
「うぅっいたいよぉ……」
牧場犬を任せているワンパチを呼び寄せウールーを慌てて追い払う。
ナナシは足を擦りむいたようで膝から血が出ている。かなり痛いのだろう、涙をぼろぼろ流している。
「大変だ……家で手当をしよう」
「い、嫌よっ!お家帰るの!!」
「だが、」
「痛いけど大丈夫だもん!帰るの!」
「……仕方ないな」
オレの家へ行くのを拒むので、応急処置として修行服の腰紐をほどきナナシの膝に巻く。
「家まで送っていく、背中に乗って」
「歩けるもん!ほら!っ!」
「かなり血が出てるんだ、歩けないだろ?それともちびっ子ナナシちゃんは抱っこがいいのか?」
「……もう!おんぶでいい!」
彼女は年齢の割に身長が低いのを気にしているようで、ソニアから聞いていたようにからかいつつ背中に誘導する。
「……」
「ウールーが悪かったな。これからは常にワンパチにオマエの側にいるようにさせるよ」
「……だいじょうぶだもん」
「ああ」
眠そうな声で、でもちゃんと生意気な返事。やがて寝息が聞こえてきた。泣き疲れたのだろう。
怪我をしたナナシが心配で着いてきたワンパチにポケモン研究所まで案内してもらう。
「こんばんは、マグノリア博士!」
「ダンデかい?なんでここに……ナナシ?」
「ナナシが怪我をしてしまって。牧場のウールーのせいです。すみませんでした」
「そうだったのかい。運んでやってくれてありがとうね」
研究所の椅子にナナシを下ろすと博士が手当てを始める。
黒い腰紐が真っ赤だ。思ってたよりもかなり傷が深かったようだ。
「家で手当てしようとしたんですが、ナナシが嫌がってしまって」
「だろうねぇ。出血は酷いけどすぐ治るさ。気にする事はないよ」
「……はい。あの、」
「ナナシ!?」
騒ぎに気付いたソニアが二階から降りてきて、その声に反応してかナナシが目を覚ました。
「ん……お姉ちゃん?」
「け、怪我してる!?大丈夫なの!?痛くない!?」
「ちょっと痛いけど大丈夫だよ」
「そうさ、時期に治る」
「なら良いけど……ってアレ?ダンデくん?」
ナナシと博士しか目に入っていなかったソニアの視界にやっとオレも入れたようだ。
「その、牧場に顔を出したらナナシが居て……怪我をしたのもウールーのせいなんだ、すまない」
「は!?ナナシの側にいながらなんで怪我させてるのよ!」
「それは、」
「そんなんじゃチャンピオンどころかトーナメントにも進めないんじゃないの!」
「それとこれとは!」
「もういいよ!お姉ちゃん!アンタは早く帰って!」
「……だが、」
「もう!アンタは私のゲボクでしょ!言うこと聞きなさい!」
「……わかったよ」
久々にゲボクと言われたなとなんとも言えない気持ちを抱きながら玄関へ向かう。
帰り際にまた怪我の様子を観に来ると一方的に約束したものの、師匠の元へ戻ってからはジムチャレンジまでの追い込みで忙しく、結局ハロンに帰る事はできなかった。
次にナナシと会ったのはジムチャレンジ出発の前日の事。
その日は久々にハロンに帰り、寛ぐ暇も無いまま母さんと一緒に旅の荷造りをし、ヒトカゲやホップと一緒に英気を養っていた。
慌ただしくなったのは夕方になってから、ソニアが家にやってきたのだ。
「ダンデくん!ナナシ見なかった!?」
「ナナシ?いや知らないぞ」
「ここにも居ない……どうしよう……!こんな時間になってもナナシが帰って来ないの!」
「えっ?」
「こんなこと初めてで……。いつもは空が赤くなる前には帰ってくるのに……どこにいるの、ナナシ……」
もうほぼ日が沈み、外は暗くなり始めている。
「オレも探す!ソニア、何か心当たりは無いのか!」
「ここが最後の心当たりだったのよ……うぅっ!」
「そうか……」
あまりハロンに居なかった、かつ普段避けられているオレは彼女の行動範囲を知らない。だが。
「牧場……、ウールーたちなら知ってるかも!」
「ウールーたちがっ?」
「わからない、でもそんな気がするんだ」
母さんに事情を説明し、早く行きなさいと急かされつつ家を飛び出す。
「ウールー!ナナシがどこに行ったか知らないか!」
以前ナナシの周りに集まっていたウールーたちに問いかける。殆どが首を傾げる中、数匹がある方向へ転がり出す。
「あっちは……まどろみの森じゃないか!」
「っ!まさか!」
ソニアが顔を青くする。
「この間、研究所で植物図鑑を見ていたらとても綺麗な花があって……!ナナシがおばあさまにどこに生えているか聞いてたの……」
「それがまどろみの森だったのか?」
「うん、でもおばあさまはいつも通りキツく森に入っては行けないって言ってたしナナシも分かったって」
「なるほど」
とにかくまどろみの森に入って行ったので間違いなさそうだ。
もう周りは真っ暗でこれ以上遅くなると夜行性のポケモンたちが現れ、危険性が増す。
「ソニア、オレは森に入ってナナシを探してくる。キミは博士と大人たちを呼んできてくれないか」
「っでも、ただでさえ霧が濃い場所で真っ暗なのに、ダンデくんまで迷子になるよ!」
「オレにはヒトカゲがいるから大丈夫だ!何より時間がないんだ、頼んだぞ!」
「あっ!待ってよダンデくん!!」
ソニアの声を背中で聞きながらヒトカゲの明かりを頼りに前へ進む。
普段から方向音痴で迷う自分だが、何故か不思議と進む方向がわかる気がする。……いや、何かに呼ばれているのか?
「ウルゥーーード!」
「っ!」
霧が濃くなって来た時、何かの鳴き声が聞こえた。
野生のポケモンだろうか、聞いたこともない。ここで引き返した方がいいのだろうが声の方へと急ぐ。
「ウルゥーーード!!」
「っなんだ!?ヒトカゲ!」
「カゲ!」
不思議な声の持ち主であろう、図鑑でも見たことの無いポケモンが突然霧の中から現れる。
「ヒトカゲ!ひのこだ!」
「ガゥッ!っ!?」
「っ!攻撃が効かない!」
ヒトカゲの攻撃が何故か吸い込まれるように消えていく。こんなこと初めてでオレもヒトカゲも動揺を隠せない。
しかしそのポケモンは、攻撃をするでもなくこちらをじっと見つめてくるだけだ。かと思えば後ろを向きのしのしと歩いていく。
「一体なんなんだ……?」
「カゲェ……」
臆病な性格のヒトカゲには悪いが、もう少し頑張ってもらいながらそのポケモンに着いていくことにする。いや、着いていかなければならない気がする。
しばらく歩くと開けた場所に着いた。
そこは霧が晴れ、湖に月明かりが反射し輝いていて、まるで博士がよく話してくれる伝説の場所のようだった。
周りを見渡しながら歩いていると崩れ掛かった祭壇の前に人が倒れているのを見つけ、慌てて駆け寄る。
「ナナシ!」
「……うぅっ」
「大丈夫か!目を開けるんだ!」
「う……?」
薄ら開かれた瞼からオリンピアグリーンの瞳が現れる。
「……あれ、わたし……」
「よかった……ケガはないか?痛むところは?」
「だ、だいじょうぶ」
少しボーッとしながらもきちんと受け答えをすることに安心するオレをよそに、周りをキョロキョロと見回すナナシ。
「ワンちゃんは……」
「……ワンちゃん?」
「ウルゥード」
「あ!」
まさかナナシの言うワンちゃんとはオレをここまで案内してくれたこのポケモンのことだろうか。とても"ワンちゃん"と呼ぶには大きすぎるような。
「ワンちゃん、お願いを聞いてくれてありがとう!森の入口までまた案内してくれる?」
「ウルゥーーード!」
ナナシが"ワンちゃん"に手を触れた時、目の前が真っ白になるほどの強い光に包まれる。
「キャー!」
「ナナシっ!」
ナナシの腕を引き光が収まるまで抱え込む。一瞬にして周りの空気が変わった。
「っナナシ!ダンデくん!おばあさまっ!二人が戻ってきた!!」
「ナナシ!ダンデ!」
目を開けるとそこは不思議なことに森の入口で、泣きはらした目から更に涙を流すソニアと、博士やハロン、ブラッシーの大人たちが居た。
「……ワンちゃんが帰してくれたんだ」
「……そうみたいだな」
「って!アンタいい加減離しなさいよっ!」
「あ、あぁ、すまない」
いつもの調子に戻ったナナシが腕から抜け出していく。すると、マグノリア博士が近づいてきた。
「ナナシ!あんた何をしたのか分かってるのかい!?言いつけを破って!ダンデも!大人に相談もせずに勝手に森に入るんじゃないよ!」
「ご、ごめんなさい、おばあさま……」
「っすいませんでした」
「本当に、本当に、無事でよかったよ……!アンタたちに何かあったらと思うと……私は……っ」
「おばあさま……」
怒りながらも泣き出した博士に抱きしめられる。暖かい。あぁ、帰ってこれたんだな。
「ダンデ、今日はもう帰りな。明日からジムチャレンジだ。そんな大事な日の前日にナナシが迷惑をかけてしまって本当に申し訳ないよ。ゆっくり休んでおくれ、ホップも家で待っているよ」
「……はい」
「ナナシも。今日は疲れただろうから帰るよ。お説教は明日だからね」
「……はーい」
正直、予想外の出来事が起こり夕方から走り回っていたので今日はもうヘトヘトだ。
早く帰ってホップに会いたいしベッドに潜り込みたい。
「ダンデ、おかえり!さ、家へ帰ろう!」
「母さん……ただいま!」
母さんの顔を見たらすこし涙が出てしまったのはオレと母さんとヒトカゲだけの秘密だ。
家に帰ると心配していたじいちゃんやばあちゃんに怒られて、不安で泣いていたホップをひたすらあやしながら一緒のベッドで眠りについた。
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快晴の空にココガラの鳴き声が響く。今日はついにジムチャレンジだ!
ハロンのみんなに応援されつつ、ブラッシーへ向かう。
とりあえずエンジンシティまではソニアと向かう事になっているので駅に集合だ。
ブラッシータウンの駅に着くとそこには既にソニアと博士が待っていた。
「ダンデ、ちゃんと時間通りに来れたね。よく眠れたかい?」
「はい!お陰様で泥のように眠ることができました」
「それはよかったよ、ソニアは眠れなかったようでね」
「うぅ……」
確かにいつにも増して真っ白い顔をしている。
「カゴのみでも食べるか?」
「電車で寝るつもりだから大丈夫……それよりナナシ来ないね」
「……そうだな」
そうなのだ。ナナシの姿がない。昨日の今日で会いに来てくれないのだろうか。オレは気にしていないのに。
「ま、私は家出る時お見送りしてもらったし。それにジム戦の時は来てくれるしね。もう電車の時間だし行こっか」
「あぁ……そうだな」
ナナシが来てくれなかったことを結構残念に思いながらも仕方なく改札へ向かう。
「じゃあ二人とも気をつけて行っておいで。チャンピオンの代替わりを楽しみにしているよ」
「「はい!」」
博士に激励を受け切符を改札へ通そうとした時。
「待って!」
「あ!」
「ナナシっ!?」
駅の入口から走ってくるナナシの姿が。
「ナナシ!見送りに来てくれたのか!」
「う……、こ、これ、アンタにあげる!」
「?開けてもいいか?」
「……」
ナナシから手渡されたシンプルな袋でラッピングされたものを開ける。
「これは……ピアスか?」
「……そうよ、押し花のピアス」
「あ!この花、まどろみの森に咲いてる花じゃん!」
「う、うん……」
「ナナシったら、この為に森に入ったのね?」
「ち、ちがうもん!たまたま、たまたまだもん!」
そういえば森に向かう途中ソニアが花がどうたらと言っていたな。
「ありがとう、ナナシ!さっそく着けたぞ!」
「えっダンデくん穴開けてなかったよね!?」
「刺したぞ」
「刺した!?」
「……似合ってるよ」
「ああ、ナナシが作ってくれたんだからな!ナナシ、オレは絶対にこのガラルのチャンピオンになってここに戻ってくる。その時にとっておきのお礼をしよう」
「ふ、ふん!チャンピオン様だもんね、さぞかし良い物なんでしょうね?」
「フフッ、それはお楽しみに、だ!じゃあ行ってくるぞ!」
「っいってらっしゃい!お姉ちゃん!だ、ダンデ、くん!」
「!」
「あら!」
ナナシに名前を呼ばれたのはいつぶりだろうか、いやもしかしたら初めてかもしれない。衝撃を受けながらも発車時刻が迫っているのでナナシに背を向け改札を通り電車へ乗り込む。
オレは絶対にチャンピオンになってここに戻ってくる。それまでは絶対に戻らないと決意しながら。
向かいに座るソニアがなんだかニヤニヤしながらこちらを見てくるが腹立たしいので無視だ。
どうせ、真っ赤なオレの顔を見て笑っているのだから。
改稿:2021/08/18