小さな約束

私には小さい頃からずっと好きな人がいる。その人は家が隣同士で同い年の幼馴染。大きくなったら結婚しようねなんて言い合っていたけれど、気がつけば彼の視界に私は入ることすらも出来なくなってしまった。

彼が変わり始めたのは近所の空き家に同い年の女の子が引っ越してきた時。そして変わっていったのはその女の子と彼が参加したジムチャレンジの時。

彼女がガラルでも一番の田舎町と言われているハロンに引っ越してきたのは私たちが十一歳の時。当時ハロンには私と彼以外に歳の近い子供はいなかった為、自ずと私たちは三人で日々を過ごすようになった。
彼女が今まで住んでいた地方のこと、ポケモンバトルやコンテストのことなど色んなことを話したし、私にとってもそれはいい思い出だ。ただ、私はバトルが苦手な事もありそれまで我慢させていた彼のバトルへの熱が彼女と話すことによって一気に燃え上がることになったのだ。
彼のお兄さんがチャンピオンなのはもちろん知っていたし、何度も顔を合わせたり、彼と一緒に面倒を見てもらったこともある。バトルの話になると彼とお兄さんの会話に入れなくなってしまう私はさぞかし彼にとってお荷物だっただろう。彼女が引っ越してきてからは余計に劣等感を感じるようになってしまった。
彼女が引っ越してくる前のジムチャレンジに参加できる年齢になった時、彼は一緒に兄に推薦してもらおうと何度も提案してきたが、ジムチャレンジに参加する気のなかった私は周りの大人たちのセリフそのままにまだ早いよと宥めたのだ。彼もその時は諦めたものの、ウールーと一緒に特訓をし続け、自信に満ち溢れていた彼は彼女が引っ越してきたのを機に再びお兄さんに推薦のお願いをするようになった。お兄さんも渋ってはいたものの許可を出し、最初のパートナーも連れてきたのだ。
最初に彼女がメッソンを、彼がヒバニーを。そして私は、受け取らなかった。ジムチャレンジには参加しない私にはパートナーは要らないとお兄さんにサルノリを引き取ってもらったのだ。お兄さんは本当に良いのかと申し訳ない事に何度も確認して来てくれたが、心配そうな彼女の傍らの彼は黙ってこちらを見つめるだけだった。
翌日には二人はジムチャレンジに出発し、毎日顔を合わせていた日々がパッタリと途絶えてしまった。
何度か彼のお母さんに誘われジムに挑戦する彼の姿を観に行ったりもしたが、彼の側にはいつも彼女がいて一人で勝手に悲しくなって苦しくなって会いにいくことは無かった。
ジムチャレンジ中盤辺りまでは順調だった彼も徐々に苦しい顔を見せるようになっていた頃、ハロンでは驚く出来事が起こっていた。
彼のウールーとアオガラスが二匹だけでハロンに帰ってきたのだ。彼は自分のポケモンには手作りのミサンガを着けていたので間違いなく彼のポケモンだったのだ。
これにはハロン中が大騒ぎだったが偶々帰ってきていたお兄さんが二匹を連れてどこかへ行き説得したようで、すぐに彼のもとへ送り届けた。
その後は進化したバイウールーとアーマーガアが再び手持ちに加わり彼と彼女はチャンピオンカップへと進んだ。
その頃には世間も彼らに注目し、例年よりもずっと盛り上がっていた。私はというと、ますます彼との距離を感じ彼のお母さんには悪いがジムチャレンジの試合の誘いにも断りを入れるようになった。
彼がチャンピオンカップで彼女に負け敗退した時も私はスタジアムへは行かず、家で中継を見ているだけだった。チャンピオンカップの後には前リーグ委員長のテロ行為やお兄さんのケガなどガラルを震撼させる出来事が立て続けに起こったがそれを治めたのが彼と彼女で、二人は名実ともに伝説を従わせガラルを救った英雄となったのだ。
彼女がお兄さんに勝ち新しいチャンピオンになってからは詳しくは知らないが彼は新しい夢を追いかけることにしたらしい。らしいというのは彼がハロンに帰ってきても会うことがなく、私の母親伝いに聞いた話だからだ。ガラルの一大イベントであるジムチャレンジに参加しなかった私は勉学に励むべく、ハロンを離れスクールへ通う道しかなかったのだ。

****

スクールの中でも難関校であるナックルシティのスクールに通っている私は卒業論文に行き詰まっていた。
卒業後は植物関係の仕事につきたい私はスクールでは主にきのみなどの植物についての研究を行っている。教授にガラルでは珍しいぼんぐりで論文書きますと宣言してしまった私も悪いのだが、ワイルドエリアや道路などを探索しても一向に見つからずこのままでは空想の幻のきのみぼんぐりについて論文を書かなければならなくなる。

「え!ぼんぐりの成る木を知ってるんですか!?」
「ああ、ぼんぐりだろ?よく見かけるぜ?」

図書室で資料をコピーしていると隣のコピー機にスクールの特別講師をしているナックルジムジムリーダーのキバナさんがやってきた。話しかけられたので論文が行き詰まっていることを伝えると衝撃の事実を伝えられる。

「ど、どこに!ガラルですよね!?」
「落ち着けって。ヨロイ島だよ。ホラ、マスタードさんが道場を構えている」
「よ、ヨロイ島…盲点でした…。私今から行ってきます!」
「待てって!あそこは強いポケモンがうじゃうじゃ暮らしてんだ、お前みたいなポケモンも持ってない一般人は行けねーの」
「こ、困ります!研究が…!」
「テーマ変えるしか無いんじゃないか?それか他に強いやつを連れて行くかだな」

オレさまは忙しいから行ってやれねーけどとの声を聞きながら考える。今までずっと探してきたぼんぐりの成る木が本当に存在するのだ。観察に行くしか無いだろう。だがキバナさんの言う通り、私はポケモンを持っていない。強いやつと聞いて、彼が思い浮かんだが母によると彼はソニアさんの手伝いをしていて随分忙しそうだとの事だし、久々に連絡を取った理由がこんな雑用では彼も良い気はしないだろう。
…彼のお兄さんはどうだろうか。リーグ委員長とバトルタワーのオーナーとの兼業との事だが以前よりは時間に余裕が出来たらしくハロンに居ることも多いらしい。十何年もの間チャンピオンをしていた人なのだ、間違いなく強いやつに当てはまるであろう。

「心当たりがあるので早速話して来ます。貴重な情報を頂きありがとうございました」
「おっそりゃよかったな!レポート出来たら読ませなよ」
「はい!では失礼します」
「おー」

スマホでお兄さんにメッセージを送る。休憩時間なのか、すぐに来週なら問題ないとの返事が来た。お礼についてはまた彼のお母さんに相談させてもらおう。

****

「ここがヨロイ島…!」
「ああ、オレも久々に来たぜ!師匠に挨拶に行ってもいいか?」
「はい!私も挨拶させてもらわないと」

お兄さんに連れられヨロイ島に降り立つ。駅から出ると砂浜と海!久々に目にした海に思わず感動してしまう。リザードンに先導してもらいながらお兄さんと共に道場へ向かい、お兄さんのお師匠さんに挨拶を済ます。

「この島のどの木にもぼんぐりは成ってたと思うが確か集中の森はかなりの確率で落ちて来た記憶がある」
「じゃあ集中の森に行きます!」
「わかった!こっちだ」
「その方角じゃ無いです」

お兄さんはびっくりするほどの方向音痴なので私がコンパスと地図を持ち着いてきてもらう。ジメジメとした湿原を通り抜けると集中の森に到着した。森の真ん中を大きな川が通っていて分断されているような地形になっている様だ。リュックからノートと鉛筆を取り出しいつでもメモを書けるようにする。あ!あれは…!

「これがぼんぐり…!本当にガラルにもあったんだ…!」
「念願のってやつだな。揺らしてみようか?」
「お願いします!」

お兄さんが木を揺らす。と、沢山のぼんぐりとオボンのみが落ちて来た。オボンのみは野生のポケモンたち用に置いておくとして、ぼんぐりは先程マスタードさんに許可を貰ったことだし頂いていく。教授!私はぼんぐりをガラルの地で見つけましたよ…!

「あれ?アニキ?…と、オマエ、は…」
「ん?やあ!ホップとユウリくんじゃないか!」
「えっ」
「こんにちは!」

木とぼんぐりをスケッチしていると、後ろからなんと彼と彼女がやってきた。今まで避けに避けてしまっていたのにこんな所で顔を合わすなんて、心の準備など出来ていない。でも、二人はお互い忙しくなっても一緒に居るんだなと思うとズキンと胸が痛む。

「何してるんだ?」
「あ、えっと、スクールの研究で、ぼんぐりをテーマに論文を書かなきゃいけなくて。ここは強いポケモンが居るから強い人がいないと行っちゃダメだったからダンデさんにお願いしたの」
「強い人…」
「それなら私たちに声かけてくれればよかったのに!」
「あはは、二人とも忙しいかなって…ダンデさんが最近暇してるのは母さんから聞いてたし」
「ム〜〜」

プリプリと怒った様子の彼女。そんな顔も可愛いなんてずるいなぁ、なんて思ってしまう自分が嫌だ。ジムチャレンジの時から一部のファンに言われていたがやっぱり二人はとてもお似合いだ。

「キミたちも時間があるなら一緒に来ないか?」
「え!いいんですか!ホップ行こう!」
「あ、ああ。わかったぞ!」

実はオレだけだと方向音痴で迷惑かけると思ってなとお兄さんが小声で話しかけてきたので思わず笑ってしまう。それも承知の上でお願いしてるんだから気にしなくて良いのに。ふと彼を見るとお兄さんからポケモンをもらったときの様にこちらを黙って見つめていたので思わずビクついてしまう。
それからは不思議な組み合わせの四人で集中の森を探索する。もし、ジムチャレンジやチャンピオンなどが無かったら、こんな風にハロンで過ごすこともあったのかなと考えると感慨深くなる。
集中の森の折り返しといったところでダンデさんのスマホロトムが着信をつげる。

「ああ、わかった。今ユウリくんも一緒にいるから彼女と向かうよ、では」
「何かあったんですか?」
「ワイルドエリアで野生ポケモンたちが巣穴以外でダイマックスしているらしい。どうもあれから粒子がおかしいみたいで」
「わかりました!ムゲンダイナも連れて行きます!」
「頼むよ。すまないが、オレとユウリくんはここで離脱だ!ホップ、彼女を頼んだぞ」
「わ、わかったぞ!」
「お気をつけて…」

リザードンとアーマーガアにそれぞれ乗りお兄さんたちはワイルドエリアに向かう。と、いうことは、これから彼と二人きりで回らなければいけなくなる。

「じゃあ、続きまわろっか。あっちだよね」
「いや、こっちからのが近いんだぞ」
「わっ」

近道があると腕を取られグイッと引っ張られる。昔から私の手を引いて歩くのが彼の癖だったけど、今も変わらないんだなと少し懐かしく感じる。引っ張られるまま付いていくと目的地に着き、またスケッチを始める。お兄さんには悪いけど、土地勘のある人とない人ではやり易さがまるで違う…ごめんなさいお兄さん。

「オマエ、ナックルのスクールに通ってるんだろ?」
「え、うん。そうだよ」
「昔から頭の回転早かったもんな、すごいんだぞ」
「ありがとう。今更だけど、ホップくんもジムチャレンジお疲れ様。かっこよかったよ」
「わ、やっぱ見てたよな。チャンピオンになれなくてごめんな、でも、今度はオレ博士になって、そしたらさ、」

──ゴゴゴゴゴゴ…。

突然地面が大きく揺れる。以前のブラックナイト事件の時のような、大きな何かが暴れ回っているような。
咄嗟に彼が守るように抱え込んでくれる。

「森の中じゃ危ない、一旦平原に出るぞ!」
「う、うん!」

平原に出ると巣穴では無いのにダイマックスしたポケモンが居た。もしかして、さっきお兄さんが言ってた粒子の異常がのがヨロイ島にも影響してるのだろうか。

「絶対オレから離れるなよ!バイウールー!コットンガードで彼女を守ってくれ!ザシアン、エースバーン頼んだ!アーマーガアは周りの見張りを頼むぞ!」
「…す、すごい」

目の前で見る彼のテキパキとした動きと指示に感動を覚えると同時に、目を背けてしまっていたがやっぱり彼が好きだなと改めて感じる。
粒子の異常で彼のポケモンたちも巣穴じゃなくてもキョダイマックスが出来たようでエースバーンのキョダイカキュウが決まる。
野生のポケモンのダイマックス状態が終わり、なんとか落ち着きを戻したが一旦道場に戻り報告した方がいいだろうとの事で向かうとそこにはキバナさんがいた。

「お!ホップだったのか、ダイマックスを止めたのは」
「そうだぞ!でもこれってやっぱりアニキが言ってたワイルドエリアのと同じだよな?」
「おそらくな。こりゃ粒子が安定するまではそこら中で起きそうだな…。そういやオマエ、ホップと知り合いだったんだな」
「え、えぇ。本当はダンデさんと来てたんですけど、」
「ダンデェ!?なんでオマエがダンデと?てかダンデ連れて行くとか正気か?永遠に辿り着かないだろう!」
「ダンデダンデうるさいんだぞ。彼女はオレの幼馴染だからアニキとも仲がいいんだぞ!」
「ホップのユウリ以外の幼馴染…、なるほどな、そういう事か!」
「?」
「っ!」
「じゃ、オレさまは帰るぜ。ダイマックスのせいで態々呼び出されたけど必要なさそうだし。オマエ、次会ったら詳しく教えろよな」
「わっ」

キバナさんに乱暴に頭を撫でられる。力は抜いてくれてるけど手が大きすぎて少し怖い。

「嵐のような人だね、さすがドラゴンストーム」
「…キバナさんと知り合いなのか?」
「スクールで講師されてるから、それで」
「そうか」
「…今日は帰るね、忙しいのに付き合っててくれてありがとう」
「いや、…あのさ、またここに来るんだろ?その時はオレが一緒に行く!オレも今ヨロイ島の生態系の観察をしてるんだ、丁度いいんだぞ!」
「そうなの?じゃあ、その時はお願いしようかな」
「っ!ああ!」
「じゃあね!」

駅まで送ってもらい電車に乗り込む。今まで探し回っていたぼんぐりが見つかって、探索中に今まで避けていた彼と彼女と出会って、野生ポケモンが暴れ回って…。すごい1日だったな。
…ああ神様、スクールにいる間だけでいいので彼のこと好きで居させてください。卒業したら私は彼のことを諦めます、どうかそれまではこんな気持ちを抱えて彼と会うことをお許しください。




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