幼馴染

 宴もたけなわ。ダンデくんの三回目のチャンピオン防衛に成功した祝いの席に参加させてもらった。
 彼の実家で行われたそれは、まさにハロンタウン総出のお祭りの様で。主役の登場が夕方になるというのに朝から大人たちは酒につまみに大盛り上がりだった。

 なので深夜に近いこの時間に既に素面の大人の姿は見当たらない。新鮮な夜風に当たりたくて外に出ていたベンチに座るため、こっそり抜け出して数分が経った。

「あ、ダンデくん」
「キミも来てくれていたんだな、ありがとう」
「当たり前だよ!チャンピオン防衛おめでとう。昨日もバトルの中継皆で見てたんだよ」
「そうだったのか」

 少し、いや大分草臥れた様に息を吐くダンデくんが隣に座ってくる。手に持っていた飲みかけのモモンのジュースを飲むか聞くと無言で手を出されたので渡す。
 昨日からお昼までずっとメディアの対応をして、夕方からは既に出来上がっていた大人たちの相手をしていたんだ。そりゃあ疲れるだろう。

「ふふ、大分お疲れだね。もう休んだら?そういやホップくんが一緒に寝るんだぞ〜って言ってたよ?」
「あー、さっき寝かしつけてきたぜ」

 甘くて美味いな、と彼にしては珍しく味わいながらジュースを飲んでいる。間接キスなんてそんな事、私たち幼馴染には残念ながら関係ない。

「昨日ホップくん大興奮だったんだ。動画見る?」
「あるなら見たいな」

 こちらに身を乗り出してきたので慌ててスマホを操作する。昨日撮ったばかりなのでそれはすぐに見つかり、二人で覗き込む様に画面を見る。

「ははっ!想像以上だ。誰よりも騒がしい」
「ほんとに。もうずぅっとリザードンのぬいぐるみを手放なさないの」

 二人で静かにクスクスと笑い合う。家の中から未だ続く喧騒が漏れ聞こえるのも気にならないくらい、久しぶりのダンデくんとの二人きりの空間が居心地良く感じる。

「もう明日には帰るの?」
「そのつもりだったんだがローズさんが実家でゆっくりしなさいって。三日くらいはいるぜ」
「……そうなんだ」

 ローズさんを一度だけ近くで見たことあるが、なんだか怖い印象だった。それにあのはがねの大将と兄弟だと聞く。
 そんな人と仕事をしているダンデくんは凄いなあ。

「なあ」
「なーに?」

いつの間にか下を向いてしまっていたのを呼ばれ、ダンデくんの方へ顔を向ける。と、思っていたよりも近い顔と唇がふに、と柔らかいものに触れる感覚に目を見開く。

「、っ……?」
「好きだ」
「え、」

 いつにない真剣な、それでいてどこか恥ずかしそうな顔で見つめられ、思わず私が目を逸らしてしまう。なんで、急に。

「ずっと前から、今のホップよりも小さい頃からずっとずっと好きだったんだ」
「っ、へ、へぇ……そうだったんだ……。あ、そういやさ、向こうの空き家に、」
「なあ」
「……もうすぐ、新しい家族が引っ越して……」
「キミは、オレの事どう思ってるんだ」

 ダンデくんに近い方の腕を取られ、ぐいっと彼の息を感じるほど引き寄せられる。生まれて初めてこんなにも心臓が早く脈打っているし、身体全体がまるで熱が出た時の様に熱くなっているのが分かる。

「え、えと、その……。今……?」
「ああ、今すぐが良い」

 チラリとダンデくんを見上げると、今日の夜空のそれに負けないくらいキラキラと輝きを放つ二つの力強い意思を宿す満月と目が合う。ああ、昔からこの瞳が輝くのを見るのが。

「好きだなあ……」
「本当かっ?」
「えっ、わ」

 顔の距離は近いまま、両肩に手を置かれガシリと掴まれる。しまった、思わず口に出してしまっていたらしい。伝えるつもりは無かったのに。

「キミも好きでいてくれたのか」
「あ、えっと……その、」
「……違うのか?」

 ああ、そんな分かりやすくしょぼくれないで欲しい。この家族の悲しい顔に小さい頃から耐性のない私は喜ばせようとしてしまう。

「………」
「……ぁ、……好き、です」
「ちゃんと言ってくれ」
「え!?えーっと……私も、ダンデくんの事が、好き、です……わっ!」
「嬉しいぜ!」

 背中と腰に腕を回されギュッと抱きしめられる。いつの間にか私よりも着実に大人に近づいている身体を直に感じ、ドキリとしながら私も背中に震える腕を回し肩に顔を埋める。

「キミが誇れる様なチャンピオンで居続ける事を誓おう」
「ふふっ、なにそれ」

 身体はギュッとくっついたまま頭だけが離されたかと思うとゆっくりとダンデくんの顔が近づいてくる。私はそれに応えるため瞼を閉じる。

 先程よりもジワリと唇から広がる彼の体温とほんのりと感じるモモンの香り、それと大人たちの目を盗んでいけない事をしているという背徳感に私はどうにかなってしまいそうだった。




改稿:2021/08/18




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