遅れて寝室に入る話side:D
夜。先に寝ているだろう彼女を起こさない様にそろりと寝室のドアを開ける。予想通りの様で部屋の明かりは一番暗いものに設定されている。
後から来るオレがベッドまで辿り着けるよう完全には消さないようにしてくれているんだ。オレの彼女は優しいだろう?
「ん?」
足音を出来るだけ立てない様に忍び足でベッドに近づいて行くと、複数人の男の小さな話し声が聞こえる。発生源には心当たりがあるのでそのままベッドまで進む。
「……またか」
思わず溜息を吐いてしまう。これは別に嫉妬の溜息では無い。何度もそれとなく伝えてるのに辞めない彼女に呆れているんだ。
音の発生源は予想通り彼女のスマホからで。彼女は寝る時に誰かの話し声を聞くと寝付きが良くなるタイプで、オレと一緒にベッドに入れない時はこうしてスマホで動画を流したまま眠りにつく事が多い。
その流す動画というのが、前から彼女が気に入っている大人気ポケチューバーのイケメン男性グループの動画なのだ。なんでも彼女はチャンネル開設すぐから応援しているらしく、イベントにも参加する程の熱心さだ。
このイベントにはオレも態々変装をしてまで一緒に参加した。女性一人だと何が起こるか分からないからな。別にオレ以外の男に会いにいく事への嫉妬では無いんだ。
話を戻そう。そのグループはどちらかと言えば騒がしい路線の企画動画が多く、どうせ寝る時に流すなら癒し系ベビーポケモンとか睡眠用BGMとかの動画の方が眠りやすいんじゃ無いかと提案したのだが「考えてみる〜」との返答ばかりで。実際それが受け入れられた事は一度も無い。
彼女曰く、「もう何年も彼らの動画を見続けているから声を聞き慣れていて寝やすいよ」との事だ。「でもダンデくんの声が一番好きだよ」と言ってくれているので別に嫉妬などはしていないんだ。いいな?
彼女の顔の前に置かれていたスマホを手に取り動画が流れたまま電源ボタンを長押しする。何が大食い企画だ。食べ物はちゃんと味わって食え。
電源から落とした彼女のスマホをオレのスマホと一緒にサイドテーブルに置く。やっと部屋に静寂が訪れ彼女の寝息が聞こえる様になった。
布団に潜り込みこちらに背を向けて寝ている彼女の腰に腕を回しピタリとくっ付く。オレは嫌な思いをしたんだ、これくらいは良いだろう。そのまま彼女の首筋に顔を埋め深呼吸をしていると腕の中の彼女がもぞりと動きこちら側に寝返りを打つ。
「ん〜……、ぅ?だんでくん……?」
「……すまない、起こしたか?」
「ん〜ん……」
「だんでくんまってたぁ〜」と蕩けるような笑顔を見せオレの首に腕を回しくっ付いてくるので、こちらもぎゅうと抱きしめ返す。起きていたのかと思ったがすぐに規則正しい寝息が聞こえてきたので、どうやらギリギリの状態だったらしい。
お前らだけでは完全に彼女を眠らせることは出来なかったみたいだなと心の中で得意げに今し方まで騒いでいた彼らを笑いながら、気持ちよさそうに眠る彼女の額に唇を落とす。
さあ、オレ専用の温かくて可愛い抱き枕が腕の中にある事だし寝ることにしよう。
「おやすみ、ナナシ」
改稿:2021/08/18