恋人がサンタクロース
『クリスマスプレゼントについて相談したいんだがいいだろうか』
ある日の仕事終わり。スマホを確認するとそんなメッセージが恋人から来ていた。付き合って初めて迎えるクリスマス。
大抵こういう時のプレゼントはサプライズっていうのが暗黙の了解だと思っていたので少しびっくりしてしまった。その場は次会う時に決めようとなり、今日がその日。
「色々考えたんだけど……ダンデくんが選んだものならなんでも嬉しいよ」
「そうだろうか。だが、流石にレパートリーがな……」
腕を組み考え込むダンデくんの正面でポカンとする。レパートリー……?初めてのクリスマスだと言うのに既に振り絞る程考えないとレパートリーって無いものだろうか。
「えっと、じゃあ……。定番にアクセサリーとか?」
「アクセサリーか。確かに年齢的にもそろそろ良い物を持っていてもいいのかもな」
ん……?年齢的にもそろそろ?あれ、もしかして今話してるのって。
「……ダンデくん。今話してるのってもしかしなくてもホップくんへの?」
「?そうだぜ!」
あ〜〜!そういう!めっちゃ勘違いしてしまった。すっかり勝手に自分へのだと思っていた。自意識過剰甚だしすぎて恥ずかしくなる。
「すまない、言っていなかったか?毎年ホップにプレゼントを渡してるんだ。……その、サンタクロースとしてな」
「そうだったんだね。サンタクロースか〜素敵!」
少しだけ複雑な家庭でホップくんの兄でありながら出来る限り父親代わりをしていたと前に言っていた。それが年齢が上がっても続いてる、なんて素敵なんだろう。
「ん〜、ホップくんとはあんまり会ったことが無いからな……。ちなみに去年は何をプレゼントしたの?」
「確か……ブロックのおもちゃだったか」
「お、おう……」
あれ、ホップくんって幾つだったけなと考えながらホップくんに少し同情する。ダンデくんの中ではまだまだ小さい子供なのだろう。
「それだったらやっぱり今年はアクセサリー……とまではいかなくても、少し大人びた物が良いかもね。来年はジムチャレンジを通して同年代の子と会う機会が増えるだろうし」
「なるほど……」
その年頃の女の子だと大人っぽいアイテムを持っている子が羨ましく感じたりするものだが、男の子はどうなんだろう。
「パスケースとかお財布みたいに長く使える物とか」
「うん、いいな。今年はそれにしよう!」
あっさりと提案を受け入れられてしまった。そこからは時期も時期なので急いで候補をラインナップし、ダンデくんの多すぎる予算のおかげで年頃の男の子でも使いやすいブランドと商品が見つかった。
ダンデくんはもうちょっと出したかったみたいだけど、高すぎても駄目だと説得したら渋々諦めてくれた。
ただ、クリスマス当日はご実家の方でホームパーティーをするらしく残念ながら会うことはできない。有難い事に誘ってもらったけどまだ付き合って数ヶ月しか経ってないのだし、ご家族水入らずで楽しんでと丁重にお断りさせて頂いた。
でも、いつか参加できる日が来たら良いな。
****
──恋人がサンタクロース、本当はサンタクロース♪
仕事を終え、一人寂しくカップルで賑わう街に出る。
残念ながら友達は皆恋人か家族で過ごすとのことで今年はクリボッチだ。実家の誘いも今更面倒かけるのもなと断ってしまった。
街頭では定番のクリスマスソングが流れている。私の恋人もサンタクロースになりに行ったのよ、なんてね。
せめて食事だけでもと一人用のクリスマスオードブルを買ったので部屋で一人クリスマスパーティだ。寂しくなんかないんだから!
お酒も久しぶりに空けて気持ちよくなって来た、もうすぐ日付が変わるという頃。ベランダの窓がコンコンと叩かれる。
「……なんだろう。野生のポケモンかな」
念のため、と武器代わりに傘を持ってカーテンをそろりと開ける。そこにはオレンジ色の胴体のドラゴンくんが居て。
「えっ!?」
手をもつれさせながら慌ててベランダの窓を開ける。なんで、どうしてここに。
「ダンデくん!?」
「やあ!こんばんは。これを羽織って、早く乗ってくれ!」
押し付けられたダンデくんのコートを言われるがまま羽織り、腕を引かれリザードンに跨がる。と、すぐに後ろから腕を回され抱え込まれた。
「しっかり捕まっててくれ!」
「わっ」
バサバサとオレンジ色のドラゴン、リザードンが羽ばたくとフワッと急上昇し、結構なスピードで飛行する。タクシーは乗ったことがあるがポケモンにライドするのは初めてなので緊張で身体を硬くしてしまう。
「ふふ、オレが抱えている。心配はいらないさ。……リザードン!もう少しだけ急いでくれ!」
お腹に回っている腕に力がこもったかと思うと、腕時計を見てリザードンに速度を上げるよう指示をするダンデくん。どこに行くんだろう。段々近づいてきたのは……高く聳えるローズタワー?
「よし。サンキュー、リザードン!ギリギリ間に合ったぜ」
「ばぎゃあ!」
「ダンデくん……?ここって……」
見てみろ、と肩に顎を乗せられながら指でさされた方向を見る。そこにはクリスマスカラーにライトアップされた大きなローズタワーがあって。
時計をチラチラ確認するダンデくんを不思議に思いながらも綺麗だねと話していると、同じくタワーを麓で見ている人たちがカウントダウンを始める。何が起こるのかとドキドキしているとゼロのタイミングでタワーの灯りがパッと消える。
「わ!消えた!」
「ふふ、メリークリスマス!どうしてもキミと見たかったんだ」
「メリークリスマス……何か意味でもあるの?」
なんだ、知らないのか?と少しムッとしながら顔を覗き込まれる。
「ローズタワーの消灯の瞬間を恋人と一緒に見ると幸せになれるんだぜ」
「へー……えっ!?」
「さ、帰ろう!」
ダンデくんがリザードンに指示を飛ばすとすぐにUターンが始まる。色々聞きたい事はあるけど飛んでいる影響で声を風が遮り届きそうもない。
直に私の部屋へ着き、ダンデくんが抱っこして降ろしてくれた。
「本当はこのままキミと過ごしたい所だが、内緒で抜け出して来たんだ。……次は遠慮せずに是非家に来てくれよ?」
「うん!……ふふ、わざわざありがとう。大好き」
「オレもだ」
一瞬だけ唇を触れ合わさせるとダンデくんがリザードンに乗る。
「夢で会えるようサンタにお願いしておいてくれ!じゃあおやすみ、良い夢を!」
「ふふっ。うん、おやすみなさい!気をつけてね」
こちらに手を振りながらハロンタウンの方へ飛んでいくのを見えなくなるまで見送る。
まさかサプライズでダンデくんが会いにきてくれるなんて思ってもいなかったのですごく嬉しい。幸せだ。にやけが治らないままベッドに入り目を閉じる。
サンタさん、夢でもダンデくんに会わせてください、なんてね。
****
翌朝。サンタさんのおかげか、詳しくは覚えてないがダンデくんとのとても幸せな夢を見た気がする。フワフワした心地のままスマホを手に取ろうと枕元に目をやると。
そこに置かれていたプレゼントはサンタクロースの仕業か、それとも。
改稿:2021/08/18