オーナーに転がされている秘書の話
「あーっ!ダンデだ!!」
「あっこら!、待ちなさいっ!」
オーナーと並んでタワーまでの道のりを歩いていると向かいから小さい男の子が大きい声を上げ駆け寄って来る。
慌ててお母さんが引き止めるも目の前の物に一直線な男の子には効果がなかったようで、男の子はすぐにオーナーの前に辿り着きキラキラと目を輝かせて見上げる。
「ダンデっ!本物だ!カッコいい!!」
「サンキュー!だがもう少しだけ声を小さくした方がいいぜ」
「うんっ!」
オーナーの言葉を理解しているのかいないのか、興奮した様子の男の子はいい返事をする。周囲の注目を集めてしまっている為気にしないで下さいの意味を込め会釈をする。
「こら!勝手に走って行っちゃダメでしょう!ダンデさん、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「いや、頭を上げてくれ。こっちも元気を貰えたよ、ありがとうな!」
「わあっ!」
オーナーが大きい手で男の子の頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。キャラキャラとした子供特有の透き通った高い笑い声が辺りに響いている。
微笑ましく見守っていると男の子がチラリとこちらを見て来たので目が合ってしまう。
「ねえダンデ!この女の人がカノジョなの?」
「!?」
慌てて否定しようとする私の前に黙る様手を出したオーナーが男の子と目線を合わせる為にしゃがむ。二人で内緒話をする様にコソコソと話しているのを、向かいにいる男の子のお母さんとどうしたものかと眺める。
お母さんの方にはただの秘書の一人ですと説明しておいた。
「すげー!カッコいいぜダンデっ!!」
「フッ、その時まで楽しみにしていてくれ!」
「うん!!」
話が終わった様で先程よりも一層目を輝かせた男の子の肩を叩きオーナーが立ち上がる。一体何の話をしていたのやら。きっといつもの様に教えては貰えないのだろう。
「じゃあな、少年。キミがバトルタワーへ挑戦しに来るのを待っているぜ!」
「ポケモン貰ったらすぐ行くから!」
「楽しみだ!」
バトルも見に来てくれ、と男の子と握手をし歩き出すオーナー。こちらに手を振る親子に会釈をしながらオーナーの一歩後ろを付いていく。あ、そっちじゃ無いです。
「オーナー、先程ちゃんと否定していただけましたよね?」
「ふふ、男と男の約束だ。キミには教えられないな」
「……そうですか」
思わずため息をつく。
オーナーの常人離れした迷子癖の所為でタワー外の仕事に同行する秘書がいつの間にか私に固定されてしまって数ヶ月。私は秘書課の中でもまだまだ新人なのだが、チャンピオン時代からオーナーに付いている先輩たちは私が来るまでどうにか自分の担当にならない様に押し付け合っていたらしい。
迷子癖の方は常にスマホロトムのマップ機能を使う事で何とかなっているのだがそれよりも困るのは私とオーナーに良からぬ噂が立つことだ。
先述の通り外の仕事は私の担当になっている為、自然とオーナーと二人きりで行動する所を世間に見られることが多くなる。困った事に人間有名人の色事には興味津々な様で。
いつの間にかネットではオーナーの名前を検索すると彼女として明らかに私を指しているんだろうなという人物の説明が多く見られる様になってしまった。
私が発言出来る場では否定するが、肝心のオーナーが否定もしないしなんなら見守って欲しいと濁す言い方をする。その為、すっかり世間ではオーナーと私は付き合っていると思われる様になってしまった。
「まあそんなに怒らないでくれ」
「……怒ってないです。次はちゃんと否定して下さいね」
「はは!努力するさ」
そう返されるのは何回目だろうかとまたため息をつこうとするのを止める。私の口の前にオーナーが手を翳したからだ。
「あんまりため息をつくと幸せが逃げるぜ?」
「……」
ふふ、と男性にしては大きい目を細め笑いながらこちらを見下ろしてくるオーナーに、思わず見惚れてしまい何も言えなくなる。
実は私はオーナーの事が好きなのだ。
勿論初めからオーナー目当てで秘書になったのかと言われるとそんな訳無いと大声で否定できる。そもそも生半可な気持ちではこの仕事に就けないし続けられないと思う。
切っ掛けは自分でも分からない。塵も積もればなんとやら、いつの間にか好きになっていたのだ。
世間からは恋人だと揶揄され、オーナーも完全には否定してくれない。つまりオーナーも私の事を……?なんて意識する事もあるが残念ながらそうでは無いらしい。
他の秘書たちと比べても特別扱いはされた事が無いし(そもそも業務中しか関わらない為当たり前だが)、終業後にお誘いをされる事も無い。
先輩に相談した事もあるがオーナーみたいな読めない男は止めておけと言われる始末だ。曰く、男は尻に引いてナンボらしい。
でも諦めようとしても、時たま今の様にグッと距離を詰める様な行動をされるとウッカリときめいてしまう。女心は至極単純。好きな男性が近くに居る環境で恋心を捨てられる筈が無いのだ。
タワー内へ戻り執務室までオーナーを送り届け秘書課までの道のりを一人トボトボ歩く。
こうして今日も私はオーナーの掌の上でコロコロと転がされているのだ。
改稿:2021/08/18